第96話 死闘は、あまりに呆気なく
*5
スペイドの臨戦態勢と同時に、僕も臨戦態勢に入る。
「『
全力ではないが、僕の力の半分は出しただろう。
だが、余りに凄まじい思念気は、大きな体育館並みの場所では収まりきらなかった。
突風が裸足で逃げ出すほどの、まさに全てを薙ぎ倒すほどの巨大ハリケーンのような思念気を体中に纏い、地下2階のトレーニングルーム内は、僕の猛り狂う思念気の猛襲に悲鳴を上げている。
瑠璃色の輝く思念気は、高さ20メートルは超えているだろう。
スペイドの『ゲイン』に比べても、その差は歴然だ。
仮にこのオーラを数値化するなら、僕が10に対してスペイドは4と言った程度だ。
完全にスペイドが勝てる見込みは無い!
だが、僕は決して、手心は加えない。
それだけ、スペイドに対する怒りの念が強いからだ。
「では行きますよ。『リドゥー』」
きた、スペイドが僕を指差すと、その指先から細い熱線のような、極限まで圧縮し収斂された『ゲイン』の光。
これをまともに食らったら……食らったら……。
もしかして──
僕は咄嗟に心絵との流動する物質を掴む、『
仮に、スペイドの『ゲイン』の光線が流動する物質なら──いける!
「『波動烈堅』!」
即座に、僕の右腕に思念気を集中させ、僕の右腕は銀色に輝いた。
流動するもの掴むイメージならもう出来ている。あとは、あの熱線のようなビームの疾さについていけるかだ。
スペイドの放った熱線はありがたいことに、複雑な動きはせず、一点集中のストレートボールのように僕に向かって来ている。
だが試したいことがある──
僕は逸れ矢のように、俊敏な動きで神速になった敏捷でスペイドの攻撃を軽く避けた。
すると、スペイドの熱線は、避けた僕の方角に軌道を変えて向かって来たのだ。
僕の読みが当たった。
このスペイドの攻撃は、一度放たれたら、対象者に当たるまで自動追尾する攻撃だ。
だったら!
僕はその自動追尾する、スペイドの熱線を掴んだ。
やっぱりだ。やっぱり掴めるぞ。
そして、その熱線を掴むと、僕は思い切り、その熱線を握りつぶした。
この現状にスペイドは驚愕の念を隠しきれなかった。
なぜなら、スペイドの虎の子とも言える攻撃を、いとも簡単に防ぎ、あまつさえ破壊し、その攻撃は無意味だと目の前で証明したのだから。
「なるほど。やはり一発では倒しきれませんか。では拡散しなさい『リドゥー』」
瞬間、スペイドは自身の指先から弾丸のように、何発も熱線を飛ばしてきた。
これだけの、自動追尾の熱線を掴むのは不可能だ。
それに、さっきよりも疾さが増している。
最早、カメラで撮影しても、映らないほどの疾になっているが──が、僕には関係ない。
全て見えている、全て把握できている。
そして、掴めないのなら、また先ほどの『波動烈堅』のイメージを膨らませ。僕を取り囲むドーム状のバリアをイメージすればいい。
そして、僕の考えは完璧だった。
迫り来る無数の熱線は、尽く僕に当たらず、バリアをイメージした状態で、僕の周囲で熱線がどんどん当たっては消え、当たっては消えの繰り返しだった。
「この……クソガキが──おっと失礼……いや、クソガキが、懇願して助けを求めても殺す」
「おいおい。次は僕の番だろ! 『
僕の両脚が燃え盛っているように熱い!
だがこれは、スペイドでさえ目で追えない神速に達する動きを可能とする技。
まるでニトロを搭載したエンジンのように、爆発的加速で、スペイドの周囲を奔り抜ける。
スペイドも僕が一瞬で消えたと思ったのか、焦りの表情を隠す余裕さえ無くなっていた。
「これでお終いだスペイドおおおおお!!」
僕の渾身の一撃の右ストレートパンチ。
しかし、ただのストレートパンチではない。『波動烈堅』で右手に思念気を最大限まで圧縮し、プラスして『波動脚煌』の神速のスピードを上乗せさせた渾身の一撃である。
そして、その一撃はスペイドの腹部を貫いた。
「グッ……ハゥ……この……クソ……ガキが……」
断末魔は無かった。が、スペイドはそのまま、口から血飛沫を吐き散らし、腹部から大量の血を流しながら──出血死した。
これで、終わりか?
まだ何か奥の手をいくつも、隠しているようなヤツなのに……呆気ない。
まるで、自分から倒されに来たような……。
「ジェリャアアアアアアア!!」
シュセロの方では、ジェイトの断末魔が聞こえる。
僕が見ると、人狼の姿になったシュセロが、ジェイトの頭部を握り締めている。
そして、柔らかい完熟したトマトでも握り潰すかのように──ジェイトの頭部は、シュセロの右手が握り潰し、辺り一面に流血の雨を降らせた。
呆気なさ過ぎる……本当にこれで……終わりなのか?
ジェイトとシュセロの戦いは、見ていないが、それにしても、これは何か、胸の中でモヤモヤが残る。
しかし、終わったのだ。
そう──相手が悪い。
僕とシュセロを相手にしたのが悪かったのだ。
そう自分に言い聞かせるように、深夜の死闘は呆気なく幕を閉じた。
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