第95話 燃え立つ真紅の双眸に隠された、真実と虚偽


 *4


 以前として、真紅の両翼を拡げ、狂眼の中で狂笑するジェイトの姿があった。


 「冥土の土産に教えてやろう。この俺がなぜ師団の連中を殺していたか。それは、奴らからピース能力を奪う為だ。貴様らは俺が今どれだけの能力を保有しているか、知らんだろう? 10──20──30──いやまだだ、もう俺でさえ数え切れぬほどの能力を奪ってきた。そして、シュセロ! 貴様の【パーフェクト・ビースト】も奪ってやるぞ! 『サウザンド・レッドナイフ・スコール』!」


 ジェイトの両翼の真紅の翼から幾千の紅き刃が、シュセロ目掛けて襲いかかってきた。


 「こんドアホ! 『ハーフ・ウルフ』!」


 言うなり、僕の前でシュセロは身の丈5メートルほどの人狼に変身した。


 「そうだ! その力だ! その能力だ! 奪ってやるぞ! 俺の奪う能力は条件型だ! その奪う条件は自ら自分の能力を相手に教えること。俺の能力名は【デッドデイ・フォーティーフォー】! この能力をは相手に能力名を伝えると44日後に必ず絶命する。それは決して避けられない。だが、すぐに奪うこともできる。それは、俺の相手の能力を奪うピース能力を教え、その場で鏖殺することだ。ゆえに44日も待たずに、シュセロ! 貴様を殺せば、貴様の【パーフェクト・ビースト】は俺の能力になるのだ!」


 「ベラベラ誰も聞いとらんのに、よう喋くり倒すのう! 黙って死んどけや!」


 まるで、僕のことなど眼中に無い会話。


 いや、本当に眼中に無いのだろう。


 今ジェイトは、シュセロの能力を奪うことだけで頭が一杯なのだから。


 「せっかく灰玄を隠れ蓑にして、能力を奪ってきたが、もうこれ以上は必要ない。六怪である貴様の能力も奪えば、確実にクーロンを倒すことができるのだからな! ほらほら、貴様を狙ってくる刃をどう捌く?」


 「だから、おどれはドアホなんや!」


 そのスピードはまるで拳銃から放たれた、意思がある弾丸だった。


 僕の目の前にいたはずのシュセロが、一瞬だが消えたように見えたが全く違う。


 以前の僕なら全く見えなかっただろうが、今の僕ならはっきり見える。


 シュセロのダッシュは人狼となった時点で、初速が弾丸のように疾くなり、その敏捷は、まさに縦横無尽。


 ジェイトが放った刃を尽く殴り、蹴り、刃は虚しい音を立てて地面に落ちていく。


 「小手調べだが、俺の思っていた以上だな。しかし、スペイドから聞いた時には悪い冗談かと思ったが──」


 今度は、僕の方を向いて話してきた。


 「まさか、あの害虫にも劣る羽虫が、六怪を超える化け物に出世するとはな……いったい何があったのか知らないが、確かにその『ゲイン』は灰玄と同じ最重要危険人物にたる存在だ! 貴様の能力が何か知らないが、貴様からも奪ってやるぞ! 『サウザンド・レッドナイフ・スコール』!」


 視える! 六国山では逃げてばかりだったが、今の僕なら確実にジェイトを倒せる自信が──いやこれは確信というべきか。


 とにかく、負ける未来が想像できない。


 あんなにも、恐怖の対象だったジェイトが、今では大口を叩くだけの、小物にしか見えない。


 僕は密かに『波動烈堅はどうれっけん』を体得してから、イメージをし続けていた。


 自分の体が硬質化するのではなく、自分の体を拡げて硬質化することに。


 つまり、自分の体が数メートルの巨人になり、その体全体を硬質化させて、身に纏う。


 うーん、言葉で表現するよりも実戦あるのみだ。


 今日が初めてのお披露目である。


 自分の周り全体を硬質化させるイメージだ。


 自分の周囲にドーム状の肉体があり、そのドーム状全てが硬質化するイメージだ。


 よし。できた! 「『波動烈堅』!」


 「──ッ! このガキ! 何をした!?」


 ジェイトの放った紅き刃は、僕の肉体には届かず、僕の周辺をバリアのようにドーム状の肉体があるイメージで、硬質化させることに成功した。


 とどのつまり、周りからは、僕に刃は当たらず、僕の周辺で銀色に輝くドーム状のバリアに、刃が当たり、その殺意が籠った刃の瞋恚が一斉に事切れたように見えたのだろう。


 明かにジェイトは焦っている。


 この短期間でここまでの成長をした僕に対して。


 僕だってそうだ。


 気絶して目覚めたら、力が湧き上がっていたのだから。


 「流石はキョースケちゃんや。あのローザを瀕死──あっ、これ禁句やったな。堪忍やで」


 そうだ、思い出した。

 僕が気絶している時に、僕はローザを瀕死状態にさせてしまったのだ。


 もしいきなり、この場にローザが現れて、僕に敵意を見せて全力で攻撃してきたら……。


 負けはしないだろうが、ローザに対して申し訳ないことをした、自分に対しての良心の呵責に押しつぶされてしまいそうだ。


 てか、僕ってこんなにメンタル弱かったのか……。


 「おいスペイド! 貴様も隠れいないで加勢しろ!」


 ジェイトの怒声が木多林大学病院の地下2階にある、秘密のトレーニングルーム内に響き渡る。


 すると、いつからいたのか、解らないが、僕とシュセロの目の前に、スペイドが現れた。


 まるで、今まで消えていたかのように。


 「やれやれ。俺一人で充分だから手を出すなというから、傍観に徹していたのですがね。息切れですか? それともミタリンの効果が切れましたかな?」


 「御託はいい! さっさとこの2匹の害虫を鏖殺するぞ!」


 「せっかく紅茶でも飲んで殺戮劇を楽しもうと思ったんですがねえ。いいでしょう、では私は、このクソガキ──おっと失礼、キョースケさんから始末するとしましょう」


 言うなり、今まで隠していたかのような、突風吹き荒れる、波濤のような『ゲイン』が、スペイドの体中に迸った。


 ゴングも無しに、第2ラウンド開始ってか……。

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