第94話 極秘文書は大切に保管しよう


 *3


 「さあ着いたで!」


 見ると、壁が前面真っ白な、屋内テニス場を彷彿とさせる大きな体育館のような場所だった。


 「ここなら、思いっきり暴れられるやろ!」


 「暴れるって……パンチングマシンをするだけだろ?」


 「せやで! んでも、バカデカいんや、そのマシンが。ほれあれや」


 シュセロが指を差した先には、大型トラックほどの大きさのパンチングマシンがあった……。


 「え? 何あれ? あれはもうパンチングマシンじゃなくね?」


 「せやから、20トンまで耐えられるパンチングマシンは、あれぐらいデカくないと、壊れてしまうんや! ほれ! 早よやろうや!」


 シュセロはウッキウキである。


 「ほな。俺から行くで〜! うりゃあああ!」


 そういえば、シュセロが能力を使わないシンプルな打撃力を知らない僕にとって、これは少し興味深いというか──ええええ!?


 810キロ……。


 能力無しで……。


 「うーん、最近体が鈍っとるんかな? 前にキョースケちゃんにズタボロにやられた時も、トレーニングを怠ってたさかい、負けて──いや、男たるもの言い訳は御法度や! ほれ! 次はキョースケちゃんの番やで!」


 シュセロに背中を押されて、半ば強引にやらされる羽目になってしまった。


 が、やるからには、ちゃんとやらねば。


 「おりゃ!」


 全力パンチではないが、病み上がりなので、20パーセントぐらいの力で殴ったら──パンチングマシンから煙が上がって、壊れてしまいました。


 「うお、うお。 流石やでキョースケちゃん! やっぱりキョースケちゃんはゴッツイのお!」


 「いや、壊すつもりで殴ったんじゃ……それに弁償しろって言われても──弁償はできないよ?」


 「そんな堅っ苦しいことはええねん。俺は強い奴と遊びたいだけなんや。タルマには今度、50トンまで耐えられる──」


 その時、耳をつんざく奇声が聞こえた。


 「あああああああああ!! ぼ、ボキが丹精込めて作った、師団メンバー用のパンチングマシンが! だ、誰が壊したんだっパ!」


 その声はタルマだった。


 いつものように、白衣姿の童顔のちびっ子だ。


 そして、僕を最初に殺したやつ。


 まあ恨んではいないけど、急に殺すことはないよな。


 だからこれは、御相子様なのだ。


 「キョースケちゃんやで! タルマにも見せたかったわ! あのゴッツイパンチを! キヒヒヒ!」


 タルマが僕を剣呑な表情で睨みつけてきた。


 「ちょちょ、待ってくれよ! 壊すつもりわなかったんだ! でもタルマだって僕を殺し──殺そうとしたんだからお互い様だろ!」


 「黙れ! これを作るのにどれだけの労力がかかったのか、チミは知らないだろっパ!」


 首筋から血管が浮き出るほど怒っている、これはマズイ──ん?


 なんか手にクシャクシャになった紙を握りしめているぞ。


 「おいタルマ、話の腰を折って悪いんだけど、その手に握ってるクシャクシャの紙は何? 大事な紙なの?」


 「え? あ、こ、こ、これは、ち、チミには、か、か、関係ないっパ!」


 なんかメチャメチャ動揺しているな。


 ははーん、さては超大事なものなんだろうな。


 気にな──


 「おいタルマ。ちょい見せろや」


 シュセロの声音が変わって、かなり真面目な口調になってる。


 いつも飄々としてるから、普通の口調でも怖いんだよな、コイツは。






 ──────────────


 緊急事態極秘文書


 第六師団メンバーの謎の死亡原因について、神子蛇灰玄の仕業だと会議で決定したが、師団長シェルル・ティサン・ティッぺにジェイト・ラウ・ジェサイアの仕業だと、断定された。

 このことについて、なぜ師団長に知られたかは定かではないが、手段を選ばず速やかにシェルル・ティサン・ティッぺを抹殺し、口封じをする旨を伝える。


 スペイド・グゥイ・ハンター


 ──────────────






 「おいタルマ。なんやこれ? おふざけでしたじゃ……済まへんで!! スペイドとジェイトはどこやねん!!」


 シュセロの怒号と同時に、どこからか声が聞こえる。

 これは──空中?


 確か前にも似たような──


 「全く、ただ暴れて酒を飲むだけの脳筋の無能が、やかましいんだよ!」


 聞き覚えがある。

 これは、あの六国山の廃工場で聞いた、身の毛もよだつ蠱った声のジェイトだ。


 「おどれ! ジェイト! ずっとここにおったんか!?」


 シュセロの質問に鼻を鳴らして応えるジェイト。


 「これだから、力だけでのし上がった無能は困る。貴様が六怪の地位についているのも、この俺が力を隠していたからだぞ」


 「はっ! 何言うとんねん! おどれは『四獣四鬼』以下やないか! 雑魚ほどよう吠えるっちゅうんは、ほんまやな!」


 「『ブレイク』!」


 何もない空中でジェイトの声が響いていたが、とうとうジェイトが姿を見せた。


 あの六国山の時と同じ姿で──恐ろしいまでの世界中を恨んでいるかのような、鮮烈なまでの四白眼と、全てを見下す口調


 間違いない、あれは本当にジェイトだ。


 真紅の両翼で、空中を飛ぶ姿は、僕にトラウマを植えつえけた姿そのもだった。


 だが、1つだけ解せないのが、前に見た時よりも、『ゲイン』の総量が数十倍になっていたのだ。


 だが、流石に『ゲイン』の総量から言えばシュセロには敵わない。


 「おどれ……今から土下座して謝っても許さへんで。シェルルちゃんが殺される前に、おどれを殺したる! おいタルマ!」


 「ヒッ! な、何ですか? っパ」


 「ジェイトとスペイドをぶち殺した後は、洗いざらい何を企んどったか教えろや!」


 「え? あ、その」


 「フハハハハ! その必要は無いぞタルマ! 今この場で、この害虫2匹を鏖殺してやるからだ!」


 「舐め腐ったこといいよって! 六怪の恐ろしさとキョースケちゃんの恐ろしさ見せちゃるわ!」


 え? え? え?


 何でアンタらのいざこざに、僕まで巻き込まれなくちゃいけないの?


 だが、シュセロはすでに臨戦態勢に入っていた。


 「行くで! キョースケちゃん!!」

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