第93話 強者は強者を呼ぶ


 *2


 「急性胃腸炎ですね。命に別状はありませんが、念の為1日だけ検査入院しましょう」


 「え? にゅ、入院……ですか……薬とか貰ってすぐ帰るのは……」


 「ダメです。とにかく空きの入院部屋まで連れていくので、看護師の話をよく聞いて薬を飲んでください。では」


 夜勤担当の性格がキツイ感じの、お世辞にも綺麗とは言えない、おばさん──じゃなくて、女医さんに言われた。


 「九条さん。入院部屋まで案内しますので、ついてきて下さい」


 看護師さんに促されるまま、3階の入院部屋に入り、薬の説明をされベッドに倒れ込む僕であった。


 はあ……見たかったなぁ……深夜アニメ。


 円盤買うお金も無いし、どうやってみようかな。


 再放送とかあれば良いけれど──てか、その前にビビのやつが……いや、食べたのは僕だ。

 そのまま捨てればよかったのだ。


 うっ……まずい。


 薬を大量に処方されて、水をガブガブ飲んだから尿意が……。


 深夜の病院。


 しかも大病院だから、やたら怖い……。


 ナースコールは──いやいや、流石に恥ずかしいだろ。


 仕方ない、オバケなんていないさ。


 でも、この病院の構造を知らないから、トイレに行くのに徘徊はしたくない。

 だから、ナースコールで、トイレの場所だけ訊いた。


 えっと、部屋を出て右に行くとすぐ左側にトイレっと。


 そして、トイレに向かおうと部屋から出ると、なんとヨシオが現れた!


 「うわあああああああああああ!! で、出たああああああああ!! ヨシオのオバケええええええ!!」


 「ロイヤル五月蝿いんだよ。今もう夜中の2時だぞ。それに俺は、あんなんじゃ死なねーんだよ」


 「ほ、本当に生きてるの?」


 「ロイヤル当たり前よ! まあちょっと食中毒で1日だけ入院らしいけどな」


 「あっ、僕と同じだ」


 「何だよ、お前もロイヤル食中毒かよ」


 ロイヤル食中毒って……なんか嫌な響きだな。


 でもヨシオのやつ生きてたのか、良かった。


 だが、あれだけの大技をスペイドに食らって生きてるなんて、どんな能力なんだろ?


 気になる……。


 「そんじゃ、俺は自分の部屋にロイヤル戻るから、静かにトイレに行けよ」


 「え? 怖いから一緒に……」


 僕の言葉も聞かずに、そのままスタスタと、自分の部屋に行くヨシオだった。


 薄情なやつだ。


 その前に、高校生にもなって、オバケが怖いって言うのも恥ずかしい話だが。


 しかし、暗いな。


 僕は早々にトイレを済ませ、自分の部屋に戻ろうとすると後ろ髪を引っ張られるような声で、呼び止められた。


 「そこのキョースケちゃん! 止まりなさい!」


 僕が振り返ると、シュセロだった。


 あの芹土間森林公園の時と同じスタイルのシュセロ。


 強いて言えば、この前よりも少し、体を纏う『ゲイン』の量が多かったぐらいだ。


 いや、その前に、なんでシュセロが病院に……てか、何で全盲なのに僕だって解ったんだ?


 「お、おい。ここは病院だぞ。不法侵入じゃ無いのか? それに何で僕だって解ったんだ?」


 「はあ? 何やて? 不法侵入はそっちやろ。それに、その『ゲイン』の圧はキョースケちゃんやってすぐに解ったで」


 「何で僕が不法侵入なんだよ……?」


 てか、『ゲイン』で誰か解るのか。野生の獣か?


 「何でって、ここは俺たちのホームやからな──アカン、これ言うなって、シェルルちゃんに言われとったんや……」


 ホームってあれか?


 よくローザやスペイドが『ロックス』を使う時に、ホームがどうのって言ってたやつか。


 でもホームねぇ……ホームって、確かアジトって意味があると思うけど、まさかここの病院って、ホラキやタルマが妙な実験してるとこじゃ無いのか?


 病院なんて、最新テクノロジーの塊みたいな場所だろ?


 うーむ、怪しいな。


 「せや。おもろいもん、タルマに作らせたんや! キョースケちゃんもやってみ」


 「お、おもろいもんって、何?」


 「聞いて驚くんやないで、なんと! 20トンまで耐えられるパンチングマシンや!」


 20トン……そんなの作らせてウキウキしてるのは、シュセロだけだろ。


 「ほれほれ、キョースケちゃん。早よ行こか」


 「いや、早よ行こかって。こっちは入院用の服なんだよ」


 着たことがある人なら分かるだろうが、入院用の服は、やけに股がスースーして落ち着かないのだ。


 「なんや、それやったら、自分の入院部屋に、自分の服があるやろ」


 「まあ、あるけど、そこまでして、僕と一緒にパンチングマシンで遊びたいのか?」


 「せや! 遊びたいのう!」


 なんか直球すぎる返答で断れなくなった。


 早く寝たいのに……。


 何で、こんな深夜にパンチングマシンで遊ばなきゃいけないんだ。


 まあ、僕も楽しみにしていた、深夜アニメが見れなかった鬱憤があるから、丁度良いのかもな。


 だから、シュセロの提案に賛成した。


 「よっしゃ! なら善は急げや! 地下2階に秘密のトレーニングルームがあるから、早よ行こか」


 僕は言われるがまま、私服に着替えると、そのままシュセロに地下2階の秘密のトレーニングルームに連れて行かれた。

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