第90 突然の別れと、消えない怒り
*6
あちゃ〜。
ちょいやりすぎたかな。
スニーカの底もすり減って、素足になってるし。
バイクの前輪を無理矢理に上げて、そのまま後輪も力づくでハンドルで持ち上げて、バイクを空中に浮かせてのしかかる荒技は、かなりやりすぎた感が否めない。
とは言っても、勝たなくては意味がない。
これは僕なりの必勝戦術なのである。
「いよう。ロイヤル飲めよ」
ヨシオがロイヤルミルクティーを自販機で買って、僕に渡してきた。
どこまでもロイヤルが好きなんだな。
でも、なんだか憎めないヤツに見えてきた。
だが、約束は約束である。
「おい。僕が買ったんだから、スペイドが今やってる妙な実験をやめさせろ」
「んなこと言われなくても、ロイヤルわかってんよ。今スペイドに電話をかけて、やめされるから」
言って、ヨシオは、スペイドに電話をかけて二人の通話が始まった。
やれやれ、やっと終わって一息のミルクティーブレイクである。
僕は、ゆっくりと──
「はあ!? 止めないって、ロイヤルどういう意味だよ! テメー言っただろ! もし鏡佑に負けたら狂化爆音機を止めるって!」
「──お、おい今から行くって何を」
その通話が終わる前に、僕とヨシオは眩い閃光に包まれた。
いつもの、お決まりの、『ロックス』なる、どこでもボールである。
いや、どこでも行けるのか?
そんなことを考えていると、目の前の閃光が緩やかな光になり、やっとスペイドを視認できた。
いつもの燕尾服にふざけたような、半分だけピエロの仮面を着けたこいつは、なぜか好きになれない。
生命は全て実験用の検体とでも思っているような、抑揚もなく、淡々と自らの悪事を話すこいつは、自分が悪事をしていることに疑問すら持ってないのだろう。
「まさか、ヨシオさんのピース能力を使っても、勝負に勝ってしまうなんて驚きですよ。しかし、バイクも服もボロボロですね。是非とも勝負の映像があったなら、見てみたかったです」
「おい、それよりも、人が狂暴化する変な音楽を止める約束はどうしたんだよ!」
「ああ、その件でしたね。私は構わないのですが、ジェイトさんが首を横に振ってしまい。実験は継続することになりました」
「は? お前なに──」
「んだそれ! 男だったら約束はロイヤルに守りやがれ!」
僕よりも、ヨシオの方が怒っている。
圧倒的な自負心は粉々になったが、代わりにお互い死力を尽くした勝負の果てに、友情でも芽生えたと思っているのだろうか?
まあ僕は最初から勝つ前提で来たんだけど。
負ける確率が高いゲームはやらない主義だし。
「それと、ジェイトさんから言伝があります。使えない駒は今すぐ消えろ。だそうです」
ヨシオはスペイドの胸ぐらを掴み怒声を放つ。
「んだとテメー! 舐めたこと言ってんじゃ──」
「『ボム』」
スペイドの、その言葉で、ヨシオの怒声は消えた。
と言うか話さなくなった。
ヨシオは振り返り、僕を見遣ると、両目と鼻から血が流れていた。
「脳みそを爆破しました。時期に絶命するでしょう。それにピースの黒石は回収しません。あれはホラキさんが造った、人造のピースの黒石、『ピーシーズ』だからです。言ってみれば使い捨ての能力ですね」
「ぎょ……ぎょーずげ……」
ふらふらになりながら、こちらに向かってくるヨシオが倒れそうになり、僕は倒れないようにヨシオの両肩に手を当てた。
「お、おいヨシオ! ヨシオおおおおおおお!!」
「見苦しいですね。お友達ごっこは、『リドゥー』」
スペイドの右手の人差し指に、超圧縮の『ゲイン』が収束し、それはレーザービームのように、ヨシオの腹を貫通し、ヨシオは矢別峠の頂上の小さな柵から、真っ逆さまに転落した。
「ヨシオおおおおおおおお!!」
「それでは、私はこれで、ご機嫌よう」
言うなり、またしても『ロックス』でどこかに消えてしまった、スペイドであった。
「スペイド……お前だけは絶対に許さない!」
第肆章・
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