第87話 職権濫用もほどほどに


 *3



 「むむ。貴様! 早くリザレから離れろ! なんだその異常な『思念気』は! どこの流派の陰陽師だ!?」


 ヤバい、こいつも頭のネジが飛んだ陰陽師だったのかよ。

 ついつい忘れるんだよね『波動消覇』。


 「違う違う! 僕は陰陽師じゃないよ。てか自己紹介は訊いてきた方からだろ?」


 「まあ良いだろう。俺は大堂庵仙豪様の弟子にして『水の流派の陰陽師』大堂庵だいどうあん木陰理こかげりだ!」


 「大堂庵──下痢がなんだって?」


 「違う! 木陰理だ!」


 「はいはい分かった。コカゲリね。漢字分からんけど」


 すると、リザレがスマホで大堂庵木陰理と入力した文字を見せてくれた。


 ふーん。また法名みたい──っていうか陰陽師だったな。


 「おい木陰理。用事があるから席を外すって言ってたけど、なにしに行ったんだ」


 リザレの問いに、木陰理は鼻高々に言った。


 奴らドンキーたちの楽屋に行って、差し入れのピザに下剤を入れてきてやった。今頃奴ら、トイレとラップバトルしてるんじゃないか?


 「おい! それバレたらすげーヤバいんじゃないか?」


 「ヘイヘイ! それなら大丈夫だyo! トイレは肛門の洗濯yo!」


 「おい! 僕の一番好きなエヴァン○リオンの名言を汚すな!」


 「エヴァン○リオンではない! 木陰リオンだyo!」


 木陰理は、ラッパーのような決めポーズで、僕を指差してきた。


 「うるせえ! お前は暴走した初号機に食われちまえ!」


 「まあそう熱くなるな、昔から言うではないか。三人集まれば文殊の知恵と。我らが三人集まり合体すれば、どんな敵でも倒せるのだ」


 「三人で合体って……どこのアクエ○リオンだよ……」


 「アクエリオンではない! 木陰リオンだyo!」


 「しつこいんだよ! 特大のパンチ食らって月までフッ飛ばされちまえ!」


 「貴様は何か勘違いしているようだが、合体は気持ちがいいぞ。二重の意味で。アッハッハッハ!」


 「一番勘違いしてるのはお前だろ! そっちの趣味があるって思われたらどうするんだ!」


 ああ、誰でもいいから、この二重の意味で馬鹿な奴をなんとかしてくれ!


 「ところで、話の続きだが、その『思念気』はなんだ?」


 「だから僕にもよく解らないって言ってんの!」


 「なるほど……ノラ陰陽師か。たまに自分の力が解らずにいる陰陽師がいると──よし! 貴様! 俺の弟弟子にしてやる!」


 「全力で拒否する! つーかリザレ! こいつ誰なんだよ?」


 「ああ、こいつは、俺らと一緒にラップバトルに出る奴だ。二人とも仲良くしてやってくれ」


 「チームリザレさん。最終バトルまで、あと数分です。ご準備して下さい」


 「なあ二人とも、ちょっと待っててくれ、少しトイレに行ってくる」


 「なに? トイレだと? ゲリか? ピューレか?」


 「おい! ゲリのことをピューレって言うな」


 「いや、違う、ただの小さい方だよ」


 「な、ならよかった」


 なにがよかったんだ?


 ────5分経過────


 遅いな……


 「み、みんな……すまない……ドンキーの取り巻きに……」


 見ると、リザレが顔面から出血して、足を引きずっている。


 こんなんじゃ、ラップなんてできないぞ。


 「ドンキーたちは、ラッパー界隈の中でも武闘派で、敵は皆、力でねじ伏せる卑怯な連中なんだ。クソっ! 俺としたことが」


 「おいリザレ、そんなことを言っている場合ではない! すぐに俺のお師匠様の所に行って、傷を治さないと! おいノラ陰陽師の貴様! 貴様は出場を辞退するように伝えておけ! 行くぞリザレ! 俺に掴まっていろ! 『波動脚煌』!」


 言って、どこかに行ってしまった。


 う、うおおおお! 僕の10万円が!


 許すまじドンキー!


 「あっ! 鏡佑じゃないか!」


 見ると、今朝、街羽警察署で出会った、特選白バイ隊隊長の倉鷹さんだった。


 この猛暑でスーツ姿か。


 てか、白バイ隊の人なのになんで?


 しかし、ムキムキだな。


 スーツを着ていても判るぐらい、ゴリラマッチョだ。


 おまけに顔もゴリラ顔の短髪黒髪である。

 身長も190センチはありそうだから、捕まったらまず逃げられないな。


 「あのお、倉鷹さん。倉鷹さんはなにをしにここにいるんですか? もしかして不良たちの謙虚?」


 「違う。今日は別件だ。それにここはクラブ街なんだ。そうだ、鏡佑。お前も一緒に来て盛り上げろ!」


 言われるがまま、ぐいぐい引っ張られて、クラブに入れられた。



 ──────静かだな。それにすごい数の人数だ。



 50人ぐらいしか入れない箱に100人ぐらいギュウギュウに寿司詰め状態になっている。


 つまり──暑い!!!!


 「そろそろだな……」


 倉鷹が、言うと同時に辺り一面にライトが光、中にいる客たちが一斉に、サイリウムを天高く上げた。


 倉鷹も上げた!



 そして耳をつんざくような、キンキン声がクラブ内に響き渡る。



 「下郎達ィィィ〜!! ワラワの歌を聴くのじゃあああ!!!」


 『うおおおおお!!! アザミちゃ〜〜〜〜〜〜〜ん!!!』


 な、なんだ? 時空間が歪んだのか?


 「アザミちゃ〜〜〜〜〜〜〜ん!!! こっち見てええええええ!!!」


 「って倉鷹さん! アンタもかい! 仕事サボってなにしてんだ! 職権濫用で捕まるぞ!」


 「これは今の爆音騒動事件の1つとして捜査しているから、良いんです。それに俺はもう捕まっている」


 「はあ!?」


 「アザミちゃんに出会ってから! 俺の心はアザミちゃんと言う手錠に捕まっているんだ! こっち見て〜〜〜アザミちゃ〜〜〜ん!!」


 ダメだこいつ。


 完全に思考がキモオタの考え方になってる……。


 しかも、捜査の理由が、ガチで職権濫用だろ。




 つーかアザミちゃんねえ。


 金髪のドリルツインテールに、全身真っ黒なゴスロリのドレスに、ゴスロリの日傘。


 てか年齢だよ。あれ小学校3年生ぐらいなんじゃねーか?


 身長だって、ビビよりも少し大きいぐらいだし。


 ん? あいつ! 厚底のゴスロリブーツを履いてやがる。


 つまり、幼女姿のビビと同じぐらいってことだ。


 というか、こう言うのを地下アイドルというのだろうか。


 しかし、アイドルかぁ。


 小顔で目鼻立ちが整った、綺麗で幼い人形のような顔だが、お世辞にも可愛いいとは言えない。


 なぜなら目だよ目。


 とても威圧感のある、鋭く大きな黒色の瞳だからだ。


 うーん……。


 もし鰐ヶ淵のように、丸くて大きな可愛らしい瞳だったら、完璧に愛らしいお人形さんなのに……。


 怖いんだよ! その目つきが!


 まるでドMホイホイみたいな顔だ。


 てか、そんなことよりも、暑いし早く帰りたい……。

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