第86話 フリースタイルバトルですか、てか僕を巻き込むんじゃねー!


 *2



 あっそうだ忘れた!


 「おいビビ! 絶対に虎に変身するなよ!」


 「なんでだビビ! あの半ピエロをぶちのめすチャンスだビビ!」


 いや、お前が虎に変身したら、事件の解決になってないから、エアコンがもらえないんだよ。


 ビビは臥龍の店に置いてくればよかった。


 だが、署長室から、外をよく見ると、ノイズが聴こえなくなったら、狂暴化になっていた人々が元に戻っている。


 しかも、ビビをどうするか考えていたら、スペイドが乗った巨大なジープもどこかに消えてるし。


 うーむ、ここは、ビビを臥龍の店に置いてから、また探そう。


 「おいビビ。あのホラキの仲間だけど、どっかに消えたぞ」


 「何い!? また消えたビビか? なんだかイライラしてきたビビ、店に戻ってクッキーでも食べるビビ!」


 お? 僕が戻れと言う前に、大人しく臥龍の店に戻って行ったぞ。


 どうするか作戦を考える手間が省けた。


 ラッキー。


 しかし、いったいどこに消えたんだ?


 とりあえず、警察署から出ないとな。


 確か──署長室からみた時は、あまり思い出したくないが、例のガールズバーの方に走って言ったな。


 行きたくないが、行ってみるか。


 僕は一目に付かないところに行き、つぶやいた。「『波動脚煌』」と。


 うおーう、すごいジャンプ力。


 てかこれ逆に目立って──


 「おい、そこの空飛ぶ変質者! 早く降りてこい!」


 白バイ隊員の人だった。


 やっぱ怪しいよな、でも今、捕まるわけには行かない。


 僕は空中を蹴って、スピードを上げると、なんとか、白バイ隊員の人から逃げることができた。


 やれやれ。「『波動脚煌』」は陽が出てる時にやるもんじゃないな。


 夜限定にしておこう。


 そして、ガールズバーの近くに行くと、サイクリングロードに座りこみ、溜め息をつく、短髪で金髪の細マッチョなイケメンBボーイがいた。


 こう言う展開の時って、大体ろくなことが起きないから、素通り──


 「なあ、あんた──」


 げっ! 話しかけてきやがった、ここは無視、無視っと──


 「お前に言ってるんだよ。なああんた、ラップできるか?」


 「は? ラップって、あの韻を踏んでリズムに乗るやつ?」


 「なんだ知ってんじゃねーか。なら話が早い──」


 「ちょちょ。なんの話が早いんだよ?」


 訊くと、どうやら、これから3on3、つまり3対3のフリースタイルラップバトルがあるが、残りの2名がバックれて頭を抱えているようだ。


 つまりだ。


 こいつには人望がない!


 そう、人望がないやつは大抵が自己中だと相場が決まっている。


 そんなやつに絡んでいたら、僕まで、何か良からぬことに巻き込まれそうだ。


 しかもラップってあれだろ?


 イカついお兄さんたちが聴いてる曲だろ?


 つまり、そんな場所に行ってフリースタイル──なんて出来ないけど、言ったら、不良に絡まれる。


 まあ今の僕ならそんな心配は──


 「おい見ろよ! この前の自分で自分の首を絞めてたイカれ雑魚やろうだぜ!」


 うっ。この声は忘れもしない。


 僕を神社でボコボコにしやがった連中だ。


 しかも、今日は10人組じゃねーか。


 ああ。そうか。フリースタイルバトルのイベントがあるから、今日は多いのか?


 「あんだ? あんだ? この前の10万を払う気になったのか?」


 こいつら馬鹿か?


 確かに、あの時は、雑魚キャラだったが、今の僕は全然違うんだぞ。


 「おーいリーダー!」


 ま〜たリーダーさんの登場か。


 しかも、今日はなんかノリノリだな。


 「これから優勝候補のドンキー達とのバトルの前だが、軽くシメとくか」


 あのさぁ、なんでそういう流れになるのかな〜?

 シメなきゃいけないのは、あんたらの頭のネジだろ。


 「景気ずけに──」


 「ファイトフィッシュさ〜ん。出番ですよ」


 「おっと。もう出番か。よし決めたぜ! 俺らがドンキーに勝ったら10万で許してやる。だが負けた時は50万持ってこい! おら! 行くぞ!」


 行ってしまった。


 「あいつら、ドンキーにボコボコにされるぜ。つってもラップでな」


 金髪のイケメンBボーイが静かに語り始めた。


 「そうだ。お前名前は? 俺はカタカナでリザレって言うんだ」


 「えっと、僕は九条鏡佑だけど……」


 「じゃあ今日からお前のラッパー名は、MCキョースケだな」


 「なんでいきなり決めてんだよ!」


 ダメだ。

 もう完全に出場させられる流れだよ……。


 数分後──僕をボコボコにした不良達がトボトボ帰ってきた。


 「ありゃ。完全に打ちのめされたな。言ったろ? あいつらじゃドンキーには勝てねーって」


 まあ、どーでもいいです。マジで。


 「おっ。逃げずにまだいやがったなガリジャリが! うっし50万持って来い! それからサンドバックな」


 だからなんで、そうなるのかな?


 本当だったらリザレに助けを求めるところだけど、肩慣らしに、ちょっと遊んでやるか。


 「来るなら、いつでも来いよ」


 「ギャハハハハ! ま〜た大口叩いてるぜ。おら! 沈めや!」


 なんとも大振りなパンチだ。


 みてるだけでアクビが出る。


 ここはデコピンでも一発お見舞いするか。


 僕のデコピンが不良の額に当たると数メートル、いや10メートルは吹っ飛んだんじゃないか?


 「痛ってえええええええええ!!」


 よかった。


 前頭葉の頭蓋骨は割れてないようだ。


 でも、これでもかなり、という超手加減したんだけど。


 「おうおうおう! うちの大事なメンバーによくも大怪我させてくれたな」


 みると、リーダーと呼ばれていた、ガタイの良いあんちゃんだった。


 「いや、僕はデコピンで向こうはパンチだったんだけど」


 「うるせー! 俺は今ドンキーの奴らに負けて腹の虫が悪いんだ。歯ぁ食いしばれ!」


 またもや、アクビの出そうなパンチだった。


 腹の虫ねぇ。じゃあデコピンで腹の虫を退治して上げましょうか。


 「えい」


 「ふんぎゃあああああ!!」


 またもや10メートルは吹っ飛んだかな?


 それにオデコじゃなくて、腹にデコピンをしてあげました。


 「おーい! 腹の虫はどうだ?」


 「い、いえ。も、もう治りました。すいませんでした!」


 そして、蜘蛛の子を散らすように、消えていった。


 逃げるぐらいなら、最初から絡むなよ。


 「おいおいマジかよ……あいつら結構ケンカ強いんだぜ? お前なにもんだ?」


 あの……最初に声をかけてきたのは、あんただよね?


 「うーん。なにもんって言われても、ただの高校生だけど」


 「腕っぷしがある奴は、ラッパーに向いてんだ! お前ならフリースタイルも余裕だろうぜ!」


 どんな理屈だよ。


 「しかも、このバトルの優勝賞金は30万。つまり、三人で山分けして、10万だ!」


 なぬ? それは本当か? じゃあ出るしかないだろ。


 エアコンのために


 それを聞いた僕は、リザレに二つ返事でOKした。


 「あっ! でも僕、ラップは──」


 「大丈夫。このラップバトルは三人での勝負だけど、一人だ三人を倒しても勝てるルールになってる。だからキョースケが負けても関係ない。大事なのは人数が揃ってるかだ」


 ん、なんだ。そうか、ならよかった。


 あれ? でも最後の一人は?


 「お〜い! 貴様ら〜! なにをしているのだー?」


 その声を方を向くと──真っ黒な太極拳の紗衣のような拳法着を纏った、ストレートの黒髪ロングヘアーの青年が、僕たちの方に走ってきた。

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