第85話 進め、エアコンのために警察署に


 *1


 「どーでもいいんだけどさ、お前、自分で歩けよ。なんで猫の姿になって、僕の頭の上に乗ってるんだ?」


 「だってそっちの方が楽だからビビ」


 「お前なあ……」


 僕が今何をしているかと言うと、別にビビと遊んでいるわけではない。


 署長さんに事件を解決したから、そのお礼に、エアコンを買ってもらおうと、相談しに行くところだ。


 そしたら、この愛想の欠片もない猫なんだか、虎なんだか、幼女なんだか解らないヤツまで、面白そうだからと言って、ついてきてしまった次第である。


 別に面白いことなんて何ひとつ──


 「うわ! あぶねー!」


 これだよ……警察署に向かおうと歩いていたら、もう4回は大型バイクに轢かれそうになった。


 しかものヘルメット無しの不良だ。


 いつから街羽市は世紀末になったんだろうな。


 そんなことを考えつつ、警察署に着きました。


 「コラコラ、キミ。ここは動物禁止だよ」


 警察署前に立っている、人に怒られてしまった。


 「という訳だからビビ、お前はさっさと──」


 「ちょっと待つビビ」


 言うと、ビビは草むらの方に走って行き、戻ってくると幼女姿になっていた。


 これなら、平気だビビ。


 嫌、ダメだろ。


 だが──平気だった。


 何も言われずに、そのまま素通りで、警察署に入れたのだ。


 なんだか緩々な警備だな。


 そんなことを考えながら、署長室に向かう僕とビビであった。


 しかし、署長室には誰もいない。


 「あれ? いつもいるのに」


 いつもって言うか、この前が初めてだが。


 たいてい、署長室には署長さんがいるだろう


 「お〜い! 徳山のおやっさん! ってあれ? いな──ん? 少年と幼女。お前らここで何やってんだ?」


 うっ……。


 いかにもガッチリした、身長の高い警察官さんが現れたぞ。


 「なんだ? お前らも、おやっさんに用事か?」


 「え? ま、まあ」


 「よかあるんだよな……ふらっと、どこかに行く癖がよお」


 おいおい、それ署長失格じゃん。


 「ところで、お前ら、身元を保証する物は持ってるか? ここは一応部外者立ち入り禁止だからな」


 だよな、とりあえず、ビビのことは、アメリカから戻ってきたばかりで、パスポートが家にある設定にして、僕は保険証でも見せればいいか。


 そして、保険証を警察官の人に見せた。


 「九条鏡佑に九条ビビね。ちゃんと学校も行ってるようだし。その前に、夏休みだからって、羽目を外して、髪の毛を金髪にしてると暴走族に狙われるぞ? なんだか今日は暴走族が多いからな」


 まずい、黒染めスプレーをまた忘れてきてしまった。


 ちなみに、話の最中に、警察官の人も名刺を渡してきた。


 「俺は特選白バイ隊隊長の倉鷹勇だ。名刺を渡しておこう。何かあったら、助けてやる」


 「ど、どうも」


 言って、そのままどこかに消えていった。


 はぁ……エアコンが。


 こんな大事な時に、署長さんがいないなんて。


 しかし、外が五月蝿いな。


 本当に今日は、暴走族が多い。


 しかも朝っぱらから。


 僕は、署長室の窓から、あまりにバイクの音が五月蝿いので、外を覗いてみた。


 なんだ……こりゃ?


 見ると、暴走族が乗る違法改造の大型バイクだったが、みんなピエロのマスクをしていたのだ。


 おいおい今日はハロウィンじゃないぞ。


 しかし、奇妙なことがある。


 暴走族のバイクの真ん中を、大型のジープがノイズを出しながら走っているが、そのノイズを聴いた人たちが、暴れ出している。


 「はいはい。もっと音量を上げてください」


 ──この声、どこかで──


 あっ! スペイドの声だ。


 あいつ、小動物の次はいったい何を──


 それよりも、早く、あのジープから流れる、ノイズを止めなくては。


 しかし、ここは、警察署の前、こう言う時って警察の仕事──ってええ!


 警察官の人も、ノイズを聴いて狂暴化してるし!


 ええい! こうなったら、僕が行かないと!

 てか、また朝っぱらから闘うのか?

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