第74話 積極的に声をかけると、ウザいと思われる



 *2



 健康保険証よーし!

 診察券よーし!

 お金は、病院用に残してるお金があるけど……まあ5千円もあればお釣りが来るだろう。


 うん、お金よーし!


 いざ、眼科に出陣じゃ!


 そして、僕は着替えをして、早々に家から出て──おっと、鍵を掛けるのを忘れていた。


 戸締りよーし!


 ではでは再度。

 出陣じゃ!


 てかさあ、まだ朝っぱらなのに暑すぎない?


 時間は朝の7時40分かぁ──つーかマジで暑いって!


 なにこの超温暖化は。


 本当にやめてくれ──ん?


 さっきから気になっていたが、僕の近くを赤い体毛の猫がウロチョロしている。


 そう言えば、一流の狩人は動物に好かれるとか聞いたことがあるぞ。


 ちょっと、背中でも撫でて相手してみるか。


 「ほらほら猫ちゃ〜ん」


 なんで人って、動物に話しかける時に、猫撫で声になるのかな?

 しかも猫だけに……。


 あっ! まずい。

 今のギャグはあまりの寒さに座布団を一枚取られるパターンだ。


 「ビビィィィィ!」


 あ? あれ?


 めっちゃ警戒されてるし。しかも逃げちゃったよ……。


 やれやれ、僕は一流の狩人にはなれないみたいだ。


 そんなこんなで、街羽市の警察署前にある、僕が通院している眼科まで、あと10分ぐらいで辿り着きそうな時であった。


 道に迷って、周囲をキョロキョロ見渡している少女──てか幼女がいた。


 見た目は小学校1年生か2年生ぐらいだ。


 赤いワンピースに、赤髪のインテークのロングヘアー、おまけに瞳の瞳孔も赤い。


 僕と同じアルビノか?


 しっかし、見れば見るほど目鼻立ちが整っているな。肌も降り始めたばかりの、綺麗な雪のように真っ白な肌だし。


 まるで外国人みたいだ。

 てか外国人にしか見えない。


 だがまあ、どうしたもんか……道に迷っているんだろうな。


 だって凄い困った顔してるし。


 よし! ここはお兄さんが一つ助け舟を出してやろう。

 でも、日本語が通じなかったらどうしよう?

 ええい! そんなこと考えるヒマがあるなら、とりあえず声をかけて、それから悩めばいい。


 「お嬢ちゃん? どうしたの? 道に迷ったの?」


 「ああ? 何だよ。つーかお前、片眼鏡の野郎のアジトホームを教えろビビ」


 うわ! 言葉は通じたけど、なんて言葉遣いが悪いんだ!


 だが、僕は年上のお兄さんだ。こんなことで一々腹を立てて──ん? 片眼鏡?


 確か廃工場でタルマと一緒にいた奴が、片眼鏡をかけていたな。


 名前は確かホラキだったか。


 「お嬢ちゃん、ちょっと効くけど。その片眼鏡の人の名前って、もしかしてホラキって名前だったりしない?」


 「そう! そうだビビ! お前知ってるなら早く、あいつらのホームを教えろビビ」


 「いや……ごめん。いきなりホームって言われても解らないかな」


 廃工場は爆破しちゃったし。


 僕じゃなくて灰玄がね。



 「それよりも、お嬢ちゃん。きっとお母さんやお父さんが心配していると思うから、早く家に帰った方がいいよ。もし解らなかったら、お兄さんが一緒に警察署まで連れて行って──」


 「うるせーんだよ! あいつらのホームを知らないなら、もう声をかけんじゃねービビ! ウザいんだよ! モヤシ野郎が! それに家なんてねーよ!」



 も、モヤシって! こ、このガキんちょが!


 しかも住所不定のくせして、態度だけはふてえ!


 「もういいビビ! お前使えねーから消えろビビ!」


 そう言って、生意気な幼女は、僕の前から姿を消した。


 しかし、何だったんだ? 躾がなってないぞ。


 親の顔が見てみたい。


 と、その前に、無駄な時間を食ってしまった。


 早く眼科に行かなくては。



 そして、眼科に朝一で受付を済ませると、一番で呼ばれた。


 珍しいな、いつも朝一でも混んでるのに──初めて一番で呼ばれた。


 ていうかさぁ……これ、僕だけじゃないと思うんだけど、家でゲームやネットしてると、すぐに時間が経つのに、病院だとまだ15分ぐらいしか待たされていないのに、なんか1時間ぐらい待ってる感じがするんだよなあ。


 うーむ、時間って一体何なんだろう?


 この場合は体感時間だが。


 そして、結果発表。


 やはり、ただのドライアイだった。


 僕はドライアイ用の目薬の処方箋をもらい、隣にある薬局にダッシュで駆け込み、すぐに目薬をもらって、点眼した。


 だってめっちゃ痛いんだもん。


 お? おお! 目の痛みが治ったぞ!


 よかったよかった。


 僕はそのまま、足早に家に帰ろうと、薬局を出て、街羽警察署の前を歩いていると、見覚えがある姿を発見した。


 心絵である……しかし、この真夏にまた着物姿とは、暑くないのか?



 そして急だが、ここでステルスミッション開始。


 なぜかって? それは心絵に関わると、碌なことがないからだ。


 つまり、心絵に見つからずに、家に──


 「あら? 丁度よかった。アナタも一緒に来なさい」


 ステルスミッション失敗。


 どこからともなく、渋い声のおじさんが──キョースケえええええ!


 と言う叫び声が聞こえたような気がした。


 その前に、何で僕まで警察署に行かなくてはならないんだ?


 つーか、丁度よかった、じゃねーよ。


 全然よくねーよ。


 だから僕は──走って逃げた。


 て、ありゃ? 軽く走ってるだけなのに──車道の走行中の車を、ビュンビュン追い抜いてるぞ。


 これ時速60キロぐらい出てるんじゃねーか?


 何で軽く走っただけで、こんなに早く──しかも全然息も切れてないし。


 なんか普通に歩いてる感覚だ。


 そして──けたたましいサイレンの音が後方から聞こえた。


 『そこの走っている少年。止まりなさい!』


 後ろを見ると、やはりパトカーのサイレンとともに、大音量のスピーカーで僕を呼び止める声だった。


 ちょっと待ってくれ!

 僕が一体なにをしたんだ?


 眼科に行くのが犯罪行為なのか?


 しかも、大音量のスピーカーの声の主は、心絵だった。


 つまり、アイツもパトカーに乗っているんだ。


 その前に、心絵って警察官じゃねーだろ!


 きっと、私にスピーカーの拡声器マイクを貸しなさい。とか何とか言って僕を呼び止めて来たのだろう。


 うう。このままだと、何も悪いことをしていないのに、警察に捕まることになる。


 よし、ここは自分の身の潔白を──てか、何も悪いことなんてしてないけど。


 だが、とりあえず、身の潔白を証明するために、いったん止まるか。


 「やっと止まったわね。アナタいつからそんなに早く走れるように──あ、いや。その『思念気しねんき』を見れば納得か。とにかく一緒に来なさい」


 言うなり僕は、人生初のパトカーに乗る経験をした。


 凄く嫌な経験だった。


 僕はパトカーに乗っている時に、助手席に座っている心絵を睨むように、眇め見た。


 ちなみに、僕は後部座席だ。


 「何よ? なにか言いたそうね」


 「……別に」


 心絵の屁理屈を聞くのが面倒なので、僕は言いたいことが山ほどあったが、言葉を濁らせた。


 というか、その前に、何で悪いことなんてしてないのに、パトカーに乗らなくちゃいけないんだ!

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