第65話 最強かつ最凶かつ最恐の狂盲獣
⁂24
これから始まる死闘の中で、まず先人をきったのはシュセロ・クアン・シュガーだった。
ここで、簡易的だがシュセロの能力に対しての説明をしよう。
シュセロ・クアン・シュガーのピース能力である【パーフェクト・ビースト】は、いたってシンプルな能力である。
あらゆる動物に自身の肉体を変幻させる、『
では一体なぜ、このシンプル極まりない能力だけで、
それは、彼自身の身体能力にある。
能力発動前のノーマル状態のシュセロは、自身の失った視力の代わりに、産まれつき研ぎ澄まされた身体能力を持っていた。
まだピース能力者に目醒める前から、視力以外の四つの感覚が異常に優れていたのだ。
しかしシュセロは、失った視力を補うために鍛錬を重ねて、さらに自身の身体能力に磨きをかけた。
その鍛錬の結果、およそ成人男性の20倍以上の運動神経に加えて、瞬発力も優れたのだ。
そして、視力はなくとも、敵を楽々と格殺できる腕を持っていた彼に、ピース能力が加わると、どうなるか?
それは、想像を絶する異能力者ということになる。
斯くして彼は、六怪の中で、シンプルな打撃では他を圧倒する存在となり、『最強かつ最凶かつ最恐の
さらに彼が持つピース・アニマである、『ボルタス』という、見た目がミリタリーナイフとの相性も抜群であり、これから始まる死闘で、彼の戦闘力や戦闘スタイルが、垣間見られることとなるだろう──
シュセロが変わり果てた
と、同時にシュセロの肉体は半人半獣の、人間と熊の姿になり、身の丈も、北極熊を優に超える、15メートルもある巨大な半人半獣の熊に変貌した。
だが、その身の丈に合わず、スピードはなんと、ピース能力者になる前の数十倍の疾さになり、腕力や瞬発力も数十倍に跳ね上がった。
そして、手に持っていた自身のピース・アニマである。ミリタリーナイフを両手で掴み『オーガクラブ』、と叫ぶと──なんと形状が変化し、長さ10メートルにも達するほどの、金棒に変幻した。
「援護せーや! ローザ!」
「あいよ! シュセ
ローザが言うなり、シュセロは青色の『ボックス』内に入った。
その『アクセル・ボックス』内に入っていると、通常の約100倍近い移動が可能となる。
「月までカッ飛べやぁ!」
そして、スピード、パワー、ウェイトが重なり、全力のフルスイングを、超越者に当てた。
当たった瞬間、超越者に触れた部分だけが、赫赫と燃える炎のようになった。
それは、一点集中のゲインの塊。
つまり当たった箇所に、自身の全ての『ゲイン』が集中し、超爆発的威力の攻撃を繰り出すのだ。
が、超越者とシュセロの金棒の間に──10センチほどの見えない壁でもあるかのように、当たる寸前のところで、金棒は止まってしまい、びくともしない。
「なるほど。人の子にしては余りある力。然りとて、いと高き至高の俺の前では、げに粗末。それが汝の限界か?」
「──アホぬかせ。これはただの挨拶代わりや! 本番はこれからやで!」
だが──実際のところシュセロの内面では焦りがあった。
今の技は、一撃必殺の
その大技が全く効かない──いや、当たらないのだ。
もし当たっていたならば、本当に月まで吹っ飛ぶほどの威力を誇る
さらにローザの援護である『アクセル・ボックス』で、スピードが増しているので、その威力は計り知れない。
だが、百戦錬磨のシュセロにはまだ、奥の手があった。
「舐めんなや! 『ツイン・オーガクラブ』」
そう言い放つと、逆側の金棒の石突の部分も、金棒となった。
そして、逆側の金棒はさらに大きく太い20メートルほどの金棒であり、当たった瞬間の『ゲイン』の超爆発的威力は、先の攻撃の数倍に匹敵する。
その大技を今、シュセロは超越者に食らわした。
流石に、その威力に耐えられなかったのか、それとも、敢えてシュセロの力量を測る意味で攻撃を受けたのかは定かでないが──両者の間にある10センチほどの見えない壁はなくなり、超越者は腕を組みながら、シュセロの渾身の一撃を受けた。
「ほう、なるほどなるほど」
超越者は、やおら言いながら500メートルほどの距離を、瞬時に移動するように吹っ飛んだ。
そのスピードで大地は薄皮が剥がれるように、捲れ上がり、巨木は撓り折れ、マッハの超スピードで発生した──物質に纏う大気が断熱膨張を引き起こし、水滴となり、白い煙を吐き出した。
さらに、その衝撃波は凄まじく、埋み火残る大地を瞬間的に暴風で消し去ったのだ。
「まさか『ツイン・オーガクラブ』まで使うとは、思わんかったわ。せやけどこれで──ッ!」
やおら語るシュセロは、吹っ飛んだ超越者の周囲の砂塵が薄れていったのを、確認すると言葉を失った。
ここで、先に述べたシュセロの能力には、もう一つの異能があることを述べよう。
それは、ピース能力を発動している時に限り、双眸に視力が回復し、視力3.0という、驚異の裸眼になるのだ。
「こりゃ、ほんまもんの化けもんやなぁ……」
なんと吹っ飛んだ超越者は、無傷で腕を組み、悠々と佇立していたのだった。
「敢えて、その実を確かめたが。人の子同士であるならば、汝はそこそこの者である」
そう嘯く超越者に、数瞬だがシュセロの頭の中は真っ白になったが、即座に次なる一手を模索する。
シュセロは今、一人では無い。
自分を含める精鋭四人と一緒に戦っているのだ。
しかしながら、今までローザと一緒にいくつもの戦場を駆け抜けてきたが。
後の二人であるポニー・シンガーと
ただ忘れてはならないのが、戦闘において強者同士は、阿吽の呼吸が取れる。
初めて共闘すると言っても、二人も猛者中の猛者である。
闘いの中で自然と呼吸は合っていくのを、シュセロは知っている。
故に、ローザ以外の二人の共闘を頼みとしているところもある。
そして、戦力的にもシュセロとローザだけではなく、ポニーと仙豪も加われば、かなりの戦力になると踏んでいるのだ。
しかし──そうすぐに呼吸が合うわけではない、まずは自身とローザが先頭に立ち牽制し、ポニーと仙豪の戦い方を観察してからでないと──四人の連携がままならないのは、シュセロ自身が身に染みて感じている。
さらに付け加えるなら、シュセロ自身も、先の攻撃で死闘が終結するとは思っていない。
だが──全くの無傷であるのは想定外であった。
一番最初から、シュセロのとっておきの大技を繰り出したにも関わらず、無傷で佇立しているだなんて……シュセロ自身、夢にも思わなかった。
「どうした? よもや──これで終わりではあるまいな?」
毅然と嘯く超越者を前に、シュセロは考える。
このまま、大技を連発するか否か。
答えは──『する』である。
「おどれに本当の痛みっちゅうもんを見せたるわ! 『パーフェクト・ベア』」
シュセロの言で、その総身は身の丈30メートルもある大熊へと変貌した。
その力、疾さ、重さ、そして瞬発力は、六怪の中でも、比肩するものがいない。
つまり単純なパワーであれば、シュセロに敵うものは、Nox・Fang内には存在しないのである。
そして、今、まさに、その異常なまでの暴力が荒れ狂う。
腕を組み不適な笑みを湛える超越者に対して、単純な殴打を繰り出すシュセロ。
だが、それのどれもが、一撃必殺の殴打である。
拳打の威力もさることながら、繰り出す瞬間の風圧で、巨木が根っ子から飛んでいったのだ。
さらに蹴りの威力は拳打の比ではない。
蹴った瞬間の風圧は拳打の風圧の、数十倍に達し、大地を風圧だけで数メートルも深く抉ったのだ。
その猛襲が、息もつかせぬ一瞬で、数十から数百もの回数で超越者に向かって繰り出される。
これほどの強襲を、並のピース能力者が食らえば、絶命は、まず免れない。
「中々によき肩慣らし。いいぞ、その調子だ。もっと魅せてみろ」
これほどの、攻撃を受けて無傷で腕を組み、微笑しながら微動だにしない超越者。
だが、シュセロは闇雲の殴打を連発しているわけではない。
先にボルタスに小声で発していたのだ──『バットナイフ』と。
そして、『ボルタス』はミリタリーナイフの形状から、コウモリが翼を広げたような形のナイフに変幻し──夜空を飛び、旋回して超越者を襲うと────
超越者の左頬に擦過傷を与えた。
この技の大きな特徴は、相手に感知されずに攻撃できる点である。
それはローザの【クリムゾン・ジェイラー】も例外なく感知できない、『ボルタス』の秘技なのだ。
「面白い。実に面白いぞ。よもや俺に擦り傷とはいえ、肉を削ぐとはな。悦べ、汝の足掻き──誉めて遣わす」
超越者は、嘯くと、未だ腕を組んでシュセロの殴打を受け続けている。
しかし、まだ本当の戦いはこれからである。
後続に控える三人と、いずれやってくる、シュセロの作戦である四人の大連携。
だが、そのシュセロの思考である、作戦は──超越者の脳内には筒抜けである。
そして、超越者は以前、静かに微笑し続けている。
もっと俺を愉しませろと……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます