第35話 僕がアイツでアイツが僕で、僕もアイツも両方自分



 *18



 【「おーい! おーい! おーい! おいいいいいいいいいいい!」】



 (「うるせえええええ! って……何だよ……これ……。何で僕が半透明な体になってちゅうに浮いてるんだ? 何で僕が自分を見下ろしているんだ? 何で僕がコンクリートの床に倒れてるんだ? 何で心絵こころえもタルマも動いて無いんだ? もしかして幽体離脱ゆうたいりだつしてるのか? ていうか……これ時間が止まってるのか? と言うか、何で僕の頭の中から声が聞こえるんだ? しかも僕の声そっくりだぞ。いや、これは僕の声だ! え? え? え? 何がどうなってるんだ?」)



 【「何で何でって、うるせー奴だな。お前は今さっきタルマに殺されたんだよ。んまあ、実際は死んで無いけどな。今は生と死の中間みたいな存在になってるんだ」】



 (「おい! 殺されたってなんだ? つーか、さっきから僕の頭の中でしゃべってる、お前は誰なんだ?」)



 【「ん? 僕か? 僕はお前の頭の中に存在している『もう一人』のお前だ。お前の頭の中で考えてることは、全て分かる。だから、お前の頭の中で、お前と会話できるんだよ。それに、お前さっき、ピース・アニムスと融合ゆうごうしただろ。別名、ピースの黒石こくせきとも言うが、そのアニムスの欠片かけらの、ピース・アニムスと融合すると、お前が今まで出会って来た、ローザやジェイトやタルマやホラキのように、『ピース能力者』になるんだ。そして、ピース・アニムスと融合して『ピース能力者』になった者は皆、自分の頭の中に、『もう一人』の自分が存在しているんだよ。お前にとって分かりやすく言うなら、ゲームとか漫画に出てくる異能力って感じかな。その異能力の根源が、お前の頭の中に存在している『もう一人』のお前である、僕だ」】



 (「はっ!? 異能力? それじゃあ、ローザやジェイトやタルマの不思議な力も、異能力だったのか。つーか、『ほらき』って日本人みたいな漢字の名前だと思ったら片仮名かたかなのホラキだったのか。まあ、ホラキのことは、どうでもいいとして。僕もその『ピース能力者』になったのか?」)



 【「当たり前だろ。お前の体の中にはピースの黒石が入ってる。つまり、お前は今日から異能力を手に入れたんだ。あっ! 大事なこと忘れてた。僕の名前はリザルト・キャンセラーだ。『もう一人』のお前の名前なんだから、ちゃんと覚えとけよ」】



 (「ちょっと待ってくれ! 頭がパニックでよく分からないんだけど。僕に分かるように詳しく説明してくれ!」)



 【「別にいいけど、何からきたいんだ?」】



 (「うーん……そうだな。じゃあ、異能力とかの前に、何で時間が止まってるのか説明してくれ」)



 【「これは時間が止まってるんじゃなくて、お前がタルマに殺されて肉体を失ったから、時間の概念がいねんが無くなっただけだ。まあ、今のお前は完全に死んでる訳じゃ無くて、中途半端な状態。つまり、『残留ざんりゅう記憶存在きおくそんざい』だな。こっち『側の世界』で言うところの、地縛霊じばくれいみたいなモノだ。でも地縛霊は幽霊そのものだから、この場合は『幽体ゆうたい』や『幽体化ゆうたいか』って言った方がしっくりくるな。そして、時間の概念があるのは生物だけだ。だから肉体を一時的に失ってるお前には、時間の概念が無くなり、時間が止まって見える訳。後は、完全に肉体だけが死んだ奴は、意識だけの『記憶存在きおくそんざい』になる。だから、死とは肉体が無くなるだけで、意識は残り続ける。ただ、残った意識はこっち『側の世界』で宇宙と呼ばれる『統合存在とうごうそんざい』の中で、意識が統合されるから、自分が自分でると言う認識は無くなる。自我喪失じがそうしつして自己が消え、記憶だけになるってこと。だから肉体を失っても、それは肉体だけの死で、自分は死なない。けれど、死なないが、自分が在るのかは認識できない。例えば、コーヒーが宇宙だとして、ミルクが自分の意識だとする。そしてコーヒーの中にミルクを混ぜると、もうコーヒーと混ざり合ってしまった、ミルクだけを取り出すことはできない。つまり、自己の意識だけを取り出して、自我を認識するのは無理なんだ。まあ、これは、あくまで例えだから。化学的に、コーヒーとミルクを分解して、ミルクだけを取り出せるとか言う、そんな理屈は無しだ。感覚としての話しだから。それと、さっき宇宙は『統合存在』だって言ったけど。もっと簡単に説明するなら、宇宙は『巨大な記憶の保管庫』だ。だが『残留記憶存在』は意識を残し続けて、その意識は宇宙と統合されない。分かったか?」】



 (「うーん……。なんか話しが壮大過ぎて、よく分からないけど。つまり、肉体を失うと、時間の概念が無くなって、時間そのものが経過しなくなるって感じか。ていうか、さっきから言ってる、こっち『側の世界』ってなに?」)



 【「僕はこの世界側の存在じゃないからだよ。だから、こっち『側の世界』って言ってるんだ。名称や地形や言葉は酷似こくじしてるけど、全然違うとこから来た」】



 (「全然違うとこって……、まさか異世界ってことか!?」)



 【「いや、異世界とも違うかな。異世界って異なる世界って意味でしょ? 確かに世界は異なるけど、宇宙は繋がってるから、この場合は違う惑星って意味で、異惑星いわくせいって言うべきかもね。ちなみに、その惑星の名前は『ガルズ』なんだけど……、でも本当に酷似してるんだよ。まるで兄弟星きょうだいぼしみたいな感じだ。しかしなあ……やっぱり、異惑星よりも異世界の方がいいな」】



 (「何で異世界の方がいいんだ?」)



 【「だって異惑星だと、言葉の響き的に、『イカくせえ』みたいで嫌じゃん!」】



 (「どうでもいい! 死ぬほど!」)



 【「まー。お前は今、死んでるようなもんだからね」】



 (「やかましいわ! つーか、何で僕は死んでるのに、『ピース能力者』になったんだ? これって幽霊になる能力なのか?」)



 【「いやいや。違うよ。そうだな、じゃあ次は『ピース能力』について教えよう。この『ピース能力』は六種類のタイプに分類されてるんだ。『現出型げんしゅつがた』、『具象型ぐしょうがた』、『条件型じょうけんがた』、『抽象型ちゅうしょうがた』、『変幻型へんげんがた』、『空間型くうかんがた』。以上だ」】



 (「タイプの名前だけ言われても分からねーよ! その前に、僕はお前の能力について質問してるんだ!」)



 【「あー。はいはい。僕の能力ね。僕ことリザルト・キャンセラーの能力は、死んだ結果を取り消す能力。以上だ」】



 (「それだけじゃ分からねーよ! もっと詳しく教えろ!」)



 【「仕方無いなー。じゃあ、ちゃんと説明するから、しっかり覚えろよ。このリザルト・キャンセラーの能力は、お前が死んだ瞬間に自動的に発動して、その死んだ結果を取り消し、死んだ事実を無かったことにする。つまり、死なない能力だ。そして、死んだ記憶を持つのはお前だけで、相手にはお前が死んだ事実ごと取り消されるから、相手の記憶には、お前が死んだ事実は残らない。つまり、お前を殺した相手側から見たら、お前は特殊能力による攻撃が効かない奴だと思われるだろうね。それにさっきも言ったけど、死んだ瞬間に発動するから、時間は全く経過しない。今こうやって会話しているのも、お前は時間の概念が無い状態だから、時間は過ぎていない。そして、この能力が発動すると、例えば死ぬ直前に瀕死ひんしのダメージを食らってから死んでも、そのダメージを食らった事実も取り消して、全回復の状態で死んだ結果を取り消す。だが、瀕死のダメージを食らった事実の記憶の方だけは相手にも残ってしまう。だから、瀕死のダメージで死んで、その後に死んだ結果を取り消したら全回復状態になってるから、相手はお前の事を、不死身の能力者だと思ってしまう奴もいるかもな。でもこれは、よみがえりや、死ぬ直前に時間を巻き戻すって能力じゃないから、勘違いするなよ。これは結果を取り消す能力だ。死んだ事実は変えられないが、その変えられない死んだという結果を、自動的に取り消して、死そのものを無かったことにする能力。それが僕ことリザルト・キャンセラーの能力なんだ。あー、そうそう。それともう一つあった。僕の能力は、特殊能力で死んだ場合は、その特殊能力に耐性ができて、二度とその特殊能力は効かなくなる。例えば、毒の特殊能力で死んだ場合は、瞬間的に死んだ結果が取り消されて、二度とその毒の特殊能力は効かない体になるんだよ」】



 (「耐性……ねえ……」)



 【「なんだ? いまいち分からないのか? じゃあ、もっと分かりやすく言ってやろう。やったね九条くじょうちゃん! 死ねば死ぬほど耐性が増えるよ!」】



 (「あのさあ……その友達が増えるよ。みたいな言い方、やめてくんない?」)



 【「じゃあ……。死ねば死ぬほど強くなる! これでどう?」】



 (「酔拳みたいな言い方に変えただけじゃねえか! しかも耐性が増えるだけで強くならねえだろ!」)



 【「お前は細かいんだよ。とにかく死ねば耐性が増えるって言ってんの! あっ、それと、死んだ結果は取り消せるけど、死んだ瞬間の痛みの記憶までは取り消せないから。つまり、死ねば死ぬほど、死の痛みの恐怖心は蓄積ちくせきされて行くってことだな。あとは、他の能力者と違って、僕はお前が死んだ時しか発動しないから、僕に何か訊きたい時は死んでくれ」】



 (「死んでくれじゃねえよ……! 痛みの記憶はずっと残るって、自分を苦しめるだけの最悪の拷問ごうもん能力じゃねえか! と言うか、いつでも能力を発動できる奴は、自分の頭の中に『もう一人』の自分が常に居るってことか……、なんだか想像すると嫌だな……」)



 【「あっ! そんなことより、もっと大事なことを忘れてた! この能力は、特殊能力で死んだ場合は発動するけど、それ以外の時は発動しないんだよ」】



 (「ん? どういう意味だ?」)



 【「だから! 特殊能力以外の純粋な攻撃で死んだ時は、発動しないんだ。つまり、純粋な打撃や、斬撃や、銃撃や、爆撃の場合は普通に死ぬ。まあ、爆撃とかの場合は、爆撃の炎とかでは、死んだ結果を取り消せるけど、爆風で吹っ飛んで壁とかに激突した場合とかのダメージで死んだら、普通に死ぬ。つまり早い話しが、能力無しの単純な『攻撃』の場合は、この能力は発動しないってこと。念の為に言っておくけど、単純な『攻撃』の時だけ発動しないから。いいか? ちゃんとこの能力の意味を理解しておけよ。単純な『攻撃』の時だけだからな。攻撃だぞ攻撃。分かったか?」】



 (「うーん……。分からない……」)



 【「まあ、そう言うと思ったよ。いきなり全部分かれって言うのも無理だろうし。そうだな……、少しでもお前が理解しやすいように、格闘ゲームで例えてやろう。戦闘中に対戦相手の特殊攻撃で倒された瞬間、時間経過しないで、即座に体力ゲージが全回復した状態になり、対戦相手の特殊攻撃は効かなくなる。とりあえず、これだけは覚えとけ! そして、普通の純粋なダメージの時は能力が発動しないから、死なない為に強くなれ!」】



 (「強くなれって言われてもなあ……。日常生活で何度も死ぬことなんて、あり得ないから、強くなる必要なんて無いよ。それよりも、この能力って異能力なんでしょ? なにか特殊攻撃みたいなモノって無いの?」)



 【「無いよ。僕の能力は、死んだ結果を取り消す能力と、特殊攻撃で殺された場合や、普通の炎や水とかの『異常事態で死んだ』時に限り、死んだ結果を取り消して耐性が付くだけ。だから、特殊攻撃みたいな力が欲しかったら、お前が強くなるしかない。でもお前はラッキーだぞ。この能力は発動する時に自分の意思とは関係無く、自動的に発動するが、なんと『ゲイン』消費無しで発動できるんだ! 凄いだろ!」】



 (「盛り上がってるとこ悪いんだけど……。『ゲイン』って何?」)



 【「うーん……、一言で説明できるものじゃ無いけど。まあ、『ゲイン』って言うのは、能力者が能力を発動してる時に消費する自分の生命エネルギーみたいなもので、命そのものかな。その『ゲイン』を全て消費してしまうと、『アウト・ゲイン』と言って、能力者は死んでしまうんだ。だから能力者は自分の命を削って、能力を発動しているんだよ。まあ、命を削ってるって言っても、一日か二日ぐらい休養すれば、消費した『ゲイン』は回復するけど」】



 (「なるほどねー。ところでさあ……本当に特殊攻撃とか無いの? 物凄く強い能力じゃなくていいから、僕もローザやジェイトやタルマみたいな特殊攻撃とか……少しでいいから欲しいんだけど……」)



 【「だから、さっきも言ったけど無いって! それに、お前は何か勘違いしてるみたいだけど。能力者は皆、能力を手に入れたと同時に楽して強くなった訳じゃ無い! 皆、苦労しながら努力して強くなってるんだ! 最初から王道みたいに、すぐ強くなる能力なんて無い! どんな能力にも弱点があって、リスクをおかしても前に進む能力者だけが、強い能力を手に入れる。学問に王道無し! 能力にも王道無し! すぐに強くなる近道なんて無い! 楽してチートになる時代は終わったんだよ! 強くてニューゲームの時代は終わったんだよ!」】



 (「終わってねーよ! あれは伝説のゲームだぞ! つーか、僕はまだ、そのゲームたまにやってるぞ!」)



 【「ってことは、お前は映画みたいなムービーゲーム否定派なのか!?」】



 (「んなこと言ってねーよ! ムービーゲームも大好きだ! それに、確かに当時は、パッケージの絵を見て買って、ゲームの電源を入れてドット絵のキャラ見たら、ちょっとへこんだよ……。でも一番重要なのはストーリーだ! ていうか、お前は熱く能力について語ってたけど、この能力って自動的に勝手に発動するから、努力とか苦労とか関係無いんじゃね?」)



 【「そうだよ」】



 (「じゃあ、何で力説したんだ?」)



 【「お前が普通の攻撃で死なない為に、努力して強くなれって意味で言ったんだよ」】



 (「ふうん。ところでさ、例えばロールプレイングゲームみたいに、セーブポイントとかオートセーブとか作って、死にそうになったらリセットして、そこからまた始めるとか無理なの?」)



 【「無理だ! 何度も言ってるけど、僕は死んだ結果を取り消す能力なんだよ! リセットして巻き戻る能力じゃないんだ。ていうか、何がセーブだ! あれだけ僕が力説したのに、また楽する事を考えてたな!」】



 (「いやいや。考えて無いって」)



 【「噓付くな! お前は僕と意識が繋がってるんだから、考えてることは全部分かるんだよ! お前はいつもロールプレイングゲームをやる時に、ボス戦の前でセーブして、負けたらまたセーブポイントまで戻るから、レベルが足りなかったら、ザコ敵を倒してレベル上げて、ついでにザコ敵を倒したら金を落とすから、その金で強い武器や防具を買って装備してから、またボスを倒しに行くプレイスタイルだろ! しかも、何度も挑戦すれば、ボスの攻撃パターンも分かってくるから、大丈夫って考えながらゲームやってるじゃないか! 甘いんだよ! 僕の能力はそんな甘い能力じゃないんだよ! そんな楽な考え方は許しませんよ! リザルト・キャンセラーは許しませんよ!」】



 (「なんで急にお母さん口調になってんだよ……」)



 【「そんなにセーブポイントが欲しいなら、もうリザルト・キャンセラーは知りません! 他の異世界の子にでもなって、勝手に好きな場所に行きなさい! その代わり、二度とリザルト・キャンセラーはお前の面倒を見ませんからね!」】



 (「だから、なんでお母さん口調なんだよ! ていうか、本当にセーブポイントとかオートセーブは駄目なの?」)



 【「駄目だ! と言うか、そんな能力じゃないって説明しただろ! つーか、そんな能力だったら人生イージーモードだ! 人生にセーブポイントなんて無いんだ! お前の考え方は甘いんだよ! 正月に食べる、おせち料理よりも甘いんだよ!」】



 (「じゃあ、つまり、イージーモードじゃなくてハードモードってこと?」)



 【「当たり前だろ! 僕の能力は、その場で結果を取り消すだけだ。例えば、お前がゲームをしていて、強敵と遭遇そうぐうして死んでも、セーブポイントからじゃ無くて、情報収集もレベル上げの時間も新しいアイテムを買う時間も無く、死んだ結果だけが取り消され続けて、ずっと倒すまで闘わなくてはならない。しかもゲームのボス戦だと、逃げたくても逃げられない強制戦闘だから、逃げることも不可能! リザルト・キャンセラーはそんな能力だから、甘く無いって言ってんの! だから、能力に頼らずに、お前は自力で強くなるんだ!」】



 (「まあ、ゲームで例えられると、何か分かったような気になったけど。とりあえず、お前みたいな能力なんていらねえよ! さっさと僕の中から出て行け!」)



 【「それは無理だ! すでに僕は、『もう一人』のお前になってしまったんだから。親を選んで産まれて来ることができないのと一緒だ! いくら他人の人生をうらやましいと思っても、自分からは逃げられないんだ!」】



 (「うるせえ! 勝手に僕の頭の中に入って来て、今度は説教モードになってんじゃねえよ!」)



 【「僕はお前の足りない部分をおぎなう存在なんだから、説教ぐらいするのは当たり前だ!」】



 (「足りない部分?」)



 【「そうだ! 『もう一人』の自分とは、自分に足りない部分を補い、その『もう一人』の自分が、欠落した部分の人格や感情に作用して能力が発動する。つまり、自分に無くて、自分が無意識に心の中で欲しているモノが、能力になるってことだ」】



 (「うーん……。僕はこんな能力なんて欲しいと思って無いんだけど。できれば、そうだな……、天からお金が降って来るみたいな能力が欲しかった」)



 【「それはお前が意識して考えてるモノだろ! 無意識に欲しているモノが能力になるって言ってんの! それと、一応だが能力の強さについて説明しておこう。能力の強さは、自己の無意識に在る、劣等感や怒りや悲しみや、とにかく不の感情が強いほど能力も強い。簡単に言うなら、コンプレックスの塊みたいな奴ほど能力が強いってこと。でも例外もある。自分から困難に立ち向かっていく意志を持つ奴も、能力が強い。まあ、使命感や責任感が強い奴って所かな。でも、いくら強い能力でも『ゲイン』までは強くなれない。『ゲイン』は自分で肉体や精神を訓練して高めないと、どんな強い能力だとしても、『ゲイン』が低いとすぐに『アウト・ゲイン』で死んでしまう。逆に言えば、能力が弱くても、自分の生命エネルギーである『ゲイン』を訓練して高めれば、弱い能力だとしても強くなれるってことだ」】



 (「じゃあ、結局は。強い能力を手に入れても、自分が努力しないと意味が無いってこと?」)



 【「そんなとこだね。でも、僕の能力は『ゲイン』を全く消費しないで発動できるから、お前がいつも楽してダラけたいって言う無意識の願望が、この『ゲイン』消費無しの、なんの努力もしないで使える能力を生み出したんだろうね〜」】



 (「うるせーよ。嫌味いやみったらしく言うんじゃねえ。つーか、お前さっき、『ピース能力』にはタイプがあるって言ってたけど、お前はどんなタイプの能力なんだ?」)



 【「あっ! そうだ忘れてた! まあ、僕の能力タイプの前に、まずは六種類の『ピース能力』のタイプについて説明しよう。最初は『現出型』からだ。このタイプの能力は『もう一人』の自分を実体化させ、形として現出させる。その形には様々な姿があって、人のような姿もあれば、全く違う姿もある。そして、どんな場所でも無条件で自由に、自分の意思で現出させることができる。このタイプは六種類のタイプの中で、一番攻撃力と素早さに特化している。だが、逆に防御力が低く、遠距離攻撃が苦手で、自分の側から遠く離して攻撃できない。まあ、自分の側から遠く離して、遠距離攻撃をさせることは可能だけど、相当『ゲイン』を消費して、攻撃力もかなり落ちる。それに、現出させた『もう一人』の自分が攻撃されてダメージを食らうと、自分の『ゲイン』を大量に失ってしまう。ちなみに、『現出型』だけは他のタイプと違って、実体化させた形は『ピース能力者』にしかえない。つまり能力者でない者には、何も視えないってことだ。そして、単純な攻撃の他に、固有の特殊能力を一つ持っている。でも、能力者の訓練次第で、一つの固有能力を応用して、まるで複数の固有能力が使えるようにすることも可能だ。けれど、それを可能にするには、相当の訓練と『ゲイン』を消費するけどな。かなり簡単な説明だけど、これが『現出型』の能力だ」】



 (「現出ねえ……。あのさあ、その固有能力って皆同じなの?」)



 【「違うよ。様々な固有の特殊能力がある。つまり、『現出型』の能力者は皆違う固有能力を一つ持っているってこと。分かったか?」】



 (「うん……何となく……」)



 【「じゃあ次は『具象型』だ。このタイプの能力は、実体のある武器や道具や物質をイメージして、具象化させつくりだすことができる能力だ。つまり、実体のあるモノなら何でも創りだせる。そして、創りだした形があるモノに、特殊な追加効果を付けることもできる。だが、追加効果を付けると、能力の単純な攻撃力は無くなり、具象化して創ったモノの追加効果の攻撃しかできない。例えば、剣などの武器を具象化して、その剣に追加効果を付けると、剣で斬ってもダメージは無く、その剣に付けた特殊な追加効果のダメージだけ食らうって感じかな。それと、この特殊な追加効果は、『現出型』と同じで能力者によって違う。後は、『ゲイン』を大量に消費するが、大型の建物や、船とか飛行機とかも創れる。とにかく、この能力は実体があるモノなら、何でも具象化させて創れるって覚えておけばいいよ」】



 (「じゃあ、例えば、お金も創れるのか?」)



 【「まあ、創ろうと思えばね。でも、ずっと具象化させていられる訳じゃないよ。能力者の『ゲイン』が減って来ると、具象化させたモノも、だんだん消えていく。ていうか、お前は金のことしか頭にないのか!」】



 (「ちょっとした好奇心で訊いただけじゃん。そんなに怒るなよ。とりあえず、今の能力のタイプは分かったから、次のタイプを教えてくれ」)



 【「何が好奇心だ。まあいいや。えっとー。次は『条件型』だな。この能力は文字通り、いくつかの条件をクリアすると発動する能力だ。逆に条件を満たす事ができないと、能力は発動されない。そして、条件を満たす為のリスクが高いと、リターンが大きい能力を発動させる事ができる。つまり、ハイリスク・ハイリターンな能力だね。この能力タイプの大きな特徴は、条件さえ満たせば、他の五種類のタイプには存在しない『条件型』特有の、特殊な性質を持った能力を発動させる事ができるんだ。まあ、六種類の能力タイプの中で、一番異質な能力かな。それと、もう説明しなくても分かると思うが。同じ能力は存在しないから。能力タイプが同じでも、特殊能力までは一緒じゃないってこと。つまり、今言った『条件型』の能力も、条件を満たして能力を発動させるまでは同じでも、発動される能力は皆違うってことだ。これから説明する残りの三種類の能力も、能力タイプは同じだが、発動される特殊能力は全然違うからな」】



 (「分かった分かった。同じ異能力を持った能力者は存在しないってことね。たまに例外はあるけど、基本的に異能力系の漫画とかは、同じ異能力を持った奴は出て来ないのと一緒だろ?」)



 【「まー、そんな感じだな。じゃあ残りの能力タイプを説明するから、ちゃんと覚えろよ。次の能力タイプは『抽象型』だ。この能力タイプは『具象型』の反対だと思え。つまり、武器などの具体的なモノでは無く、実体の無いモノをイメージして創りだし、それを操る能力だ。分かりやすく言うなら、天候や自然などの実体の無いモノだ。まあ、自然現象を自在にコントロールできるって感じかな。早い話しが、実体の無いモノで攻撃したり、実体の無いモノを創る事ができる『具象型』だと思えばいい。それと、何度も言うが、能力は基本的な強さでは無く、応用力が一番重要なんだ。例えば、今言った『抽象型』の能力でも、応用力があれば、違う能力タイプのような技も使えたりするってこと」】



 (「はいはい。応用力ね、応用力。大事だよね応用力。よく分かったよ」)



 【「分かってねーだろ! とにかく、応用力が一番重要なの! それと、次は『変幻型』だ。この能力タイプは六種類の能力タイプの中で、一番シンプルな能力だから分かりやすい。『変幻型』の能力は、自分の肉体を変化させる変身能力だ。変身できる姿は一つに固定されてるが、『変幻型』の能力者の数だけ、色々な姿がある。そして、『変幻型』も固有の特殊能力を、一つ持っている。所で、次の能力タイプが最後だけど、全部覚えられそうか?」】



 (「ま、まあ……。頑張って覚えるよ」)



 【「何か不安だな……。でもまあ、次の能力タイプの説明で終わりだから、しっかり覚えろよ。それじゃあ最後の能力タイプの『空間型』についての説明だ。この能力は空間を発動させて、その空間内で闘う能力だ。この能力タイプの特徴は、自分が創った空間内でしか、特殊能力を発動させる事ができない。だが、空間内は自分のエリアだ。つまり、自分だけの領域りょういきだから、対象者を自分が創った空間内に入れると、対象者は不利になり、空間を創った能力者が有利になる。そして、自分が創った空間内でしか、能力を発動できないデメリットの代わりに、自分の空間内では強力な特殊能力を発動させる事ができる。だが、空間を発動させている時は、常に『ゲイン』を消費している状態だから、長時間、空間を発動させていると『アウト・ゲイン』で、空間を創った能力者が死んでしまう。だから、ずっと空間を発動させる事は無理ってことだ。つまり、自分が『アウト・ゲイン』になる前に、創った空間を自分で消して、『ゲイン』の消費を無くさないといけないんだよ。まあ、ざっくりとした説明だったけど、六種類の『ピース能力』タイプの説明は、これで終わりだ。後の細かい事は実戦で学んでくれ」】



 (「実戦って……。僕は好きで能力者になった訳じゃ無いし、誰とも闘わないぞ……。ていうかさあ、ちなみに僕は、どのタイプの能力なんだ?」)



 【「知りたいか?」】



 (「まあ。一応だけど」)



 【「それじゃあ、当ててみな」】



 (「え? うーん……そうだな……。何かよく分からない変な能力だから……、さっきお前が言ってた、六種類の中で一番異質な能力って感じだから……。『条件型』だと思う」)



 【「『条件型』がお前の答えでいいんだな? 本当にそれでいいんだな?」】



 (「勿体もったいぶってないで早く教えろよ!」)



 【「本当にそれでいいんだな?」】



 (「しつこい奴だなー。それでいいよ」)



 【「…………ファイナル・ピース?」】



 (「どこのクイズ番組だ!」)



 【「いいからファイナル・ピースなのかって訊いてんの!」】



 (「はいはい。ファイナル・ピースだよ」)



 【「……………………残念! 答えはB型だ!」】



 (「それは僕の血液型じゃねーか! 僕の能力タイプを教えろって言ってんの!」)



 【「分かってるって。お前はアレだ、少しせ型だな。栄養不足にならない為に、もっとたくさん食事をとって、体をきたえましょう。それと栄養の他に協調性も不足しています。これでは学校のクラスで、自分だけ孤立してしまうので、とても心配です」】



 (「小学校の通信簿に書いてある先生のコメントみたいに言うんじゃねえよ! 早く僕の能力タイプを教えろ!」)



 【「ちょっとした冗談だって。お前が言った通り、能力タイプは『条件型』だ。まあ、お前の能力じゃなくて、僕の能力だけどな〜」】



 (「融合してんだから、どっちの能力とか関係ないだろ。お前の能力でもあり、僕の能力でもあるってことだろ? と言うか、それよりもさあ、この能力は『条件型』だから、何か条件を満たさないと発動しないんだろ? その条件って、どんな条件なんだ?」)



 【「簡単だよ。条件はたった一つ、お前が死ぬことだ。そして死んだ瞬間に、今は半透明で浮遊ふゆうしている自分が、死んだ自分の肉体の中に瞬時に吸い込まれて、死んだ結果が取り消される。くどいようだが、その間は時間の概念が無くなり、時間は経過しない。つまり、お前が死んだ瞬間に時間が無くなる感じだな。そして、苦痛の表情で死んでも、死んだ結果を取り消したら、肉体は全回復して痛みが消えピンピンしてるから、お前の苦痛の表情は、相手から見たら演技だと思われるかもな」】



 (「本当に痛いのに、演技だと思われるのは嫌だな……。つーか、今のこの浮遊状態から、死んだ自分の肉体に吸い込まれるって、なんだか霊魂が肉体に戻るみたいだ」)



 【「まあ。イメージとしては、そんな感じかな」】



 (「なあ。ところでさあ、ちょっと教えて欲しいんだけど。ローザのくさりとか、ジェイトのマントも、能力者の特殊能力なのか?」)



 【「違うよ。あれは能力者の特殊能力じゃなくて、道具に宿やどってる特殊能力だ。つまり、特殊能力を持った道具だよ。通称、ピース・アニマだ」】



 (「【ピース・アニマ】? なんだそれ」)



 【「うーん。ピース・アニマを簡単に説明すると。『アニムス』は生物に特殊能力を与えて、『アニマ』は道具に特殊能力を与える感じかな。例えるなら、お前が好きなゲームとかに出てくる、特殊能力付きの武器や防具みたいなモノだ。ちなみに、ピース・アニマの特殊能力を使う時も『ゲイン』を消費する」】



 (「ふうん、なるほどね」)



 【「他には、何か訊きたい事とかあるか?」】



 (「いや、もう無い。だいたい分かったから。それより、そろそろ僕が死んだ結果を取り消してくれ」)



 【「分かった。お前が死んだ結果を──」】



 (「ちょっと待って。【リザルト・キャンセラー】って言わないのか?」)



 【「言わないよ。だってそれは、僕の名前だし。例えば、ファイヤーと言って、手から火を出すなら分かるけど。山田さんと言って、手から山田さんが出て来たら変じゃん」】



 (「確かに変だけど、お前は全国の山田さんにあやまった方がいいぞ。つーか、短い技名みたいなモノって無いの?」)



 【「そんなモノは無い! 他の能力者は技名を言う事でテンションを上げる。テンションを上げる理由は、精神を高揚こうようさせて、自分の『ゲイン』の総量を上げる為だ。『ゲイン』の量が上がれば、特殊能力の強さも高まり、同時に『ゲイン』の量を上げて、『アウト・ゲイン』になるのを防ぐ効果もある。まあ、防ぐって言っても、『ゲイン』を消費し過ぎると『アウト・ゲイン』になって死んじゃうけどね。でも、これはオマケのようなモノで。一番重要な事は、『もう一人』の自分との繋がりを強くしないと能力発動できないってこと。つまり、頭の中で技名を言うだけじゃ能力は発動されず、能力を発動させる為には口に出して言う必要があるんだ。『もう一人』の自分が能力者の頭の中で技名を言って、能力者も同じ技名を口に出す事で始めて、お互いの意識が強く連結され、能力を発動させる事ができるんだよ。つまり、技名を口に出して言わないと、『もう一人』の自分と『意識連結いしきれんけつ』されず、能力は出せない。だが、僕の能力は『ゲイン』を消費しないから、技名を言ってテンションを上げる必要なんて無いんだよ。しかも、勝手に自動発動されるから、僕もお前も技名を言う必要なんて無い。だから、この能力には技名なんて無いんだ。まあ、説明はこれぐらいにして…………。それじゃあ…………そろそろ…………死んだ結果を取り消すぞ…………。お前が死んだ結果を取り消す! リザルト・キャンセラー!」】



 (「結局技名みたいに──」)

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