第32話 狂気と恐怖とアイツは絶対に危ない野郎
*15
「ふん、ローザめ。自分の軍服も忘れて呑気なものだな。あの勝手な行動ばかりする何の役にも立たない、無能で間抜けな奴が、師団の幹部とは笑わせてくれる。薄汚れた元『パトリオス』の分際で、全く偉そうな女だ」
──ん?
男性の声だが──いったい誰の声だろう。
あの白衣を着た二人の声では無いぞ。
「あれ? ジェイトさん居たんですか? っぱ?」
ジェイト?
名前からして明らかに、日本人では無く外国人のような名前だが……。
僕は上の階まで通じる階段に向かって、忍び足で逃げる歩みを止めて、恐る恐る声のする方を振り返ってみた。
すると──身長が百九十センチはありそうな程の長身で、二十代前半ぐらいの男性が立っていた。
ローザのように閃光の中から現れた訳では無い。
始めから、
それよりも、そのジェイトと呼ばれている男性は、あのローザよりも危ない雰囲気を
瞳はまるで、
ローザのような凶暴な目付きに近いが……ローザとは全く違う、今にも
まさに
そして、決して
なぜなら、上下タイトなオレンジ色のジャケットとズボンで、そのジャケットの中に着ているインナーを見て分かったからだ。
ピタッとして首が半分隠れている、タートルネックのような青いレザータンクトップのインナーから浮き上がった肉体からは、はっきり見て取れるほど、余分な脂肪を全て落とし、筋肉だけが残ったと思えるほど引き締まった体に見える。
髪もまた異常なほど特徴的で、真っ赤な長髪に真っ赤な細い
その真っ赤な長髪は、まるで怒れる炎のように髪が逆立っているみたいで、生き物のように髪を揺らめかせている。
それに、吸血鬼に噛まれて光の世界を失ってしまったようなほど、血の気の無い真っ白な肌に、外国人モデルのような非常に整った
表情は、これまた堂々としていて、まるで「自分が世界を支配しているんだ」とでも言いそうな、自信と過信と慢心が、混ざり合ったような不気味な笑みを浮かべている。
そして、左首の耳下に小さなトランプのダイヤのマークをした
その左耳の耳たぶにも、トランプのダイヤのマークをした、ゴールドの小さなピアスを付けていて、
両手首には、リストバンドのように、肌に密着したゴールドの大きなブレスレットを付けて、足の
いったい……なぜこんなに暑いのに、マントなんて羽織っているのだろうか。
まさか──何かのアニメキャラのコスプレなのか?
しかし、マントもそうだが、
どこで買ったのかは知らないが、つま先が上向きに
それにしても……もの凄く痛そうな左手の甲である。
なぜ痛そうかと言うと──そのジェイトと呼ばれている男性の左手の甲の全体には、見るだけで激痛が伝わって来そうな酷い火傷の
と言うか…………。
うーん……、やっとローザが消えたと思ったのに……もっとヤバそうな奴が居たなんて。
僕がこの場所に来る前に、階段を下りている最中、考えていた嫌な予感的中である。
はあ……昔から、嫌な予感だけはなぜか当たるんだよな、僕って。
しかしまいったな。
また動けなくなってしまったぞ。
僕のヤバいよレーダーが、このジェイトは危ない奴だと認識してしまったから、怖くて動けない。
相変わらず、涼しげな表情ではあるのだが──少し
もしかして──心絵も僕と同様に、ヤバいよレーダーを持っているのだろうか。
ちなみにだが、このヤバいよレーダーとは、ただの僕の直感である。
まあ、言うまでも無いと思うが。
「いや、
「え? 解除なんてして無いですよジェイトさん。あれはそんなに『ゲイン』の消費も無いですし、今でも正常に作動してます。っぱ」
「そうか────ん?」
「う、うう……ぐぐご……げぇぇぇ……血を……血を……ぐれぇぇ……」
見ると、ローザが大量に運んで来た、赤紫色の死体の中で、まだ息がある者がいた。
それはもう、者と言うよりも、モノで。
後、数分で死んでしまいそうな、弱々しい声を出す、生きた死体に見える。
コンクリートの床を
きっと、力尽きて死んでしまったのだろう。
「こいつ……! 【パープル】にもなれない、害虫同然の失敗作の分際で……、この俺の靴に
蹴った!
あいつ……死体を蹴りやがったぞ!
ジェイトが怒りを
床から十メートル以上は離れていそうな、コンクリートの
一瞬で、人の
死体が激突したコンクリートの天井を見ると……無惨な
その天井に残された血の
と言うか死体を蹴るなんて……あいつは間違いなく、サイコパスだ。
「あぁ……。こりゃ掃除するのが大変だ……。っぱ」
「おい。それよりも、早く
「分かってますけど……ミタリンは飲み過ぎないで下さいね。っぱ」
そう言うと、『たるま』と呼ばれている白衣を着た男性が、ジェイトに透明のサプリメントケースを手渡した。
中身はよく分からないが、丸いラムネのような白い
なんのサプリメントかは知らないが──健康マニアなのだろうか。
ていうか、ミタリンって……何だか萌えキャラみたいな名前だな。
それよりも──そんな名前のサプリメントなんて聞いたことないが。
まあ、サプリメントなんて、たくさん種類があるから、きっと色々なビタミンが入ったサプリメントなのだろう。
「なんだ。これしか無いのか」
言って、ジェイトはそのサプリメントケースの中に入っている、丸いラムネのような白い錠剤を全て口の中に
おいおい──サプリメントをたくさん飲んだところで、すぐに健康になるわけ無いのに……馬鹿なのだろうか。
────あれ?
なんかあいつ……
それに何だか……瞳も異様に血走っている風に見えるが……。
いったい、なんのサプリメントなのだろう。
「ああああ! ちょっとジェイトさん! そんなにたくさん飲んだら駄目ですよ! 体に毒ですよ! っぱ!」
「おい……! 貴様はいつから、このジェイトに意見できる立場になったんだ?」
「あっ……。いや……何でも無いです……。っぱ」
「それより。『ゲイン』を数値化する【ピース・アニマ】は完成したのか?」
「あの……その件なんですけど……。能力者の力そのものである『ゲイン』を、数値化するのは無理でした。っぱ」
「ん? それは──この俺の命令に
「いや……そうでは無くてですね。『ゲイン』は、体調や精神状態や身体能力などに左右されて、様々な要素が絡み合いすぐに変動するので、数値化は無理なんですよ……。っぱ」
「では【ソリッド・アニマ】の方は──完成したのか?」
「いや……それもまだ……。でも【ソリッド・アニマ】はまだ実験中ですが、完成できると思います。『オーバーソリッド』を発動させている最中の『ゲイン』消費量も、短時間の発動なら『アウト・ゲイン』にはならないと思うので。っぱ」
「そうか──ところでタルマ。【パープル】の失敗作の他に害虫が一匹、
「え? ここにはボキ達と【パープル】の失敗作しか──」
「タルマよ。貴様は気がつかなかったのか? まあいい。人様の会話を無断で盗み聞きする、
害虫か。
確かに夏だし虫はたくさん────あれ?
今一匹と言ったのか?
どうして数が分かるんだ?
キーボードに虫がいるのか?
その前に盗み聞きってなんだ?
「駆除せねばならん害虫は、とても近くにいるな。そう、とても……とても……近くに────」
ッ!?
あいつ消えたぞ!
僕の目の前で、突然ジェイトが消えた……。
消えたと言うか──急に姿が無くなったと言うべき……なのだろうか。
煙や霧が、ゆっくりと消える感じでは無い。
ライトの光りの、切り替えスイッチのオンとオフのように、瞬間的にパッと消えたのだ。
いったいどこに──
「────見つけたぞ害虫があああ!」
上ッ!?
急に消えたと思ったら何で僕の頭上にいるんだ?
それよりも何で背中から紅い翼を生やして飛んでいるんだ?
さっきまで肩に羽織っていた真っ赤なマントはどうしたんだ?
何で真っ赤なマントが消えて代わりに紅い翼が生えているんだ?
それよりも、なんて大きな翼なんだよ……。
二メートル以上は軽くありそうな、とても大きな紅い翼だ。
もしかしたら、それよりも大きいかもしれないぞ。
と言うか、物音なんて
「ん? 一匹だと思ったが二匹だったか。
だが害虫を駆除することに変わりは無い!
『レッドナイフ・スコール』!」
上空でジェイトが血走った恐ろしい瞳で僕を
その紅い羽は一瞬のうちに、紅い
駄目だ!
速すぎる!
逃げ切れない!
マジで殺される!
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