第31話 夏風邪の原因はだいたいエアコン



 *14



 うう……寒い……ローザ……頼む……頼むから早く消えてくれ……!


 早く消えてくれたら百円あげるから!


 と言うか……何だか、だんだん冷蔵庫の中に入っているような感覚になってきたぞ……。




 「ところでタルマ。聞いて驚け! こっち『側の世界』にもロックとヒップホップがあるんだよ! しかもなー、こっち側の方がドープだ! 今度CD貸してやんよ!」



 「いや……。ボキは音楽とか興味ないんで遠慮しておきます。それに自覚して無いみたいですけど、ほぼ毎日のようにローザさんは、ロックとヒップホップの話題ばっかりですよ。っぱ」



 「めてんのかコラ! 毎日なんか言ってねーよ! つーかタルマ、オメーはマジでナチュラルにつまんねー奴だな。ロックもヒップホップも聴かねーなんて、人生損してんぞ。アタイのヘッドフォン貸してやっから聴いてみろ!」




 ローザが無理矢理、小柄な方の『たるま』と呼ばれている白衣を着た男性の耳に、ヘッドフォンを押し当てている。


 まさにイジメっ子のようだ……。




 「ちょっとやめて下さい! っぱ!」



 「うっせー! いいから聴け! ほら聴け! これ聴け! すぐ聴け! 今聴け!」




 本人が嫌がっているのに、ぐいぐいとヘッドフォンを耳に押し当てるローザ。


 なんだか、ローザに振り回されている姿を見て、可哀想な気持ちになってきた。


 ていうか、完全にイジメにしか見えない。



 ちなみに僕は、イジメが大嫌いである。


 なぜなら、凄く格好が悪いからだ。



 イジメ駄目! 絶対!




 「ところでローザさん。音楽の前に重要な話しがあるんですよ。今度、師団長のシェルルさんに相談しようと思ってるんですけど……ローザさんは、もう灰玄かいげんとか言う人には手を出さない方がいいと思うんですよ。まあ、【アルシュレッガの髄液ずいえき】はのどから手が出るほど欲しいんですが……。っぱ」



 「んだよタルマ。なんかその言い方だと、あのマグソ蛇女がアタイよりもつえぇみてーじゃねえか! つーか、スペイドが言ってたろ? あいつの能力は相手の影を奪って殺す能力だって。あいつはアタイらのメンバーを散々ぶっ殺しやがったんだ。あのマグソ蛇女だけはアタイが絶対ドープに殺してやる! それに、相手の能力が分かってるんだから、アタイの方が完全に有利じゃねーか」



 「いや、そうでは無くてですね。能力が分かってるとかの以前に、もしかしたら……師団長よりも……。っぱ」



 「はぁ!? アネゴよりも強ぇって言いてえのか? 最高に笑えるぜそのジョーク! もしその話しが本当だったら、オメーが【クリスタル・アニムス】を使って【アニムス能力者】になって。あの三凶さんきょうって言われてる『世界せかい三大凶賊さんだいきょうぞく』の、リリーゼとダエージュとグドルーを、オメーが自分一人でぶっ倒しましたって言っても、誰も信じねーだろうけど、アタイだけはそのワックな作り話をマジで信じてやっからよお! プハハハハハハ!」




 盛大に豪快に満開に笑うローザ。


 なんで、あんなに大爆笑しているのか分からない。


 灰玄もそうだが──ローザも笑いのツボが全然分からない。




 「真面目に言ってるんですけど……なんか予感と言うか、とても嫌な感じがするんですよ。『ピース能力』の他にも、似たような能力を持っているなんて……どう考えても、おかしいし。正体が全く分からないので、凄く不気味なんですよ……。その前に【クリスタル・アニマ】よりも、さらに希少価値きしょうかちの高い【クリスタル・アニムス】なんて、まだ全てのタイプが解明できていない謎だらけの細胞なんですから、簡単に入手して使えるわけないじゃないですか。しかも【クリスタル・アニムス】は、【ピースの黒石こくせき】と呼ばれている【ピース・アニムス】よりも上位じょういの能力が使える細胞なんですよ。【ピースの黒石】だって、かなり希少だと言うのに、【クリスタル・アニムス】で【アニムス能力者】になったら【ピース能力者】なんて、手も足も出せないんですから。さっきローザさんが言っていた『バルル・マヌル』で大暴れしているモンスターたちを、一瞬で全滅させることができるぐらいの力があるって、言われているんですよ。サンプルデータも全く無いので、もしかしたら……もっと強大な力を秘めているかもしれないんです。っぱ」



 「おいおいマジかよタルマ! 噂には聞いてたけど【クリスタル・アニムス】って、そんなにスゲーのか? そんじゃアタイが【アニムス能力者】になって、『クーロン』と『世界三大凶賊』をぶっ倒したら、『Nox・Fangノックスファング』のヒーローになれんじゃねーか! マジでどっかに【クリスタル・アニムス】が落ちてるとラッキーなんだけどなー。それか、もし売ってたら100万Gガーロぐれーなら、出してもいいんだけどなー」



 「希少だって言ったじゃないですか。【クリスタル・アニムス】は道に転がってるような石やゴミじゃないし、お金で買うのも無理ですよ。しかも、たった100万ぽっちで売ってたら、ボキがローザさんよりも先に買ってます。それに、三凶じゃなくて四凶よんきょうの『世界せかい四大凶賊よんだいきょうぞく』ですよ。っぱ」



 「おいタルマ。それは『クーロン』の連中が勝手に、アタイら『Nox・Fangノックスファング』の革命軍リーダーの、シャークールの旦那だんな逆賊ぎゃくぞく扱いして言ってるだけだろ。だから四凶じゃなくて三凶でいーんだよバーカ! それにアネゴはシャークールの旦那をリスペクトしてんだ。オメーが三凶じゃなくて四凶って言うのは、シャークールの旦那をディスってんのと一緒だぞ! つまり革命軍ノックスファングのメンバー全員をディスってるってことだ。もう二度と四凶って言うんじゃねー! もしまた言ったら、殺すまではしねーが──」



 「分かりました分かりました! もう二度と言いません! でも、これだけは言わせて下さい。ローザさんが狙っている相手は、『ピース能力』以外に、得体の知れない能力を持っているので、全ての能力を解明するまでは、やはり手を出すのは控えた方がいいと思うんですよ。っぱ」



 「大丈夫だって! オメーはマグソ蛇女にビビり過ぎなんだよ。つーか、『ピース能力』に似たワックな能力だったら、あの島で戦闘中に見たから、だいたい分かる。タルマは心配性過ぎんだよ。あんま考え過ぎてストレスめっと、そこのホラキみてーにハゲんぞ。ハッ! ゲッ! るッ! ぞッ! プハハハハハハ!」



 「ちょちょちょ、ちょっとローザさん。そそそ、そう言った誹謗中傷ひぼうちゅうしょうはやめて下さい。ししし失礼にも程がありますよ。そそそ、それは差別と一緒です。めめめ、名誉毀損めいよきそんです!」



 「うっせーんだよバーカ! なーにが名誉だ。ハゲにハゲって言って何がりぃんだよ! オメーは名誉も毛もねー製造専門野郎なんだから、毛生え薬でも作ってみやがれってんだ! プハハハハハハ!」



 「ろろろ、ローザさん。ももも、もし本当に毛生え薬が作れたら、とっくに作ってますよ。せせせ、世紀の大発明ですよ。そそそ、それにもう髪の話しはやめて下さい。ほほほ本当に怒りますよ!」



 「……ああん? なんだよ、アタイと勝負しようってのか? いい度胸してんじゃねーか! かかってこいよ!」



 「あ……いいい、いや……。いいい、今の発言は忘れて下さい」



 「んだよ! 勝負もできねーのか? だからオメーはハゲなんだよ! このハゲチキン野郎が! プハハハハハハ!」




 酷い……酷すぎる……。


 自分のことを言われている訳では無いが、聞いてて涙が出そうだ……!


 ハゲてる人に対して、真っ正面からハゲと言うなんて。



 鬼畜きちくにも限度があるだろうに……。



 この白衣を着た二人は、残酷な行為をしているが。


 ローザは言動が残酷過ぎる!


 まさに、ローザは鬼以上の鬼だ。




 「つーかタルマ! アタイの『ディバラス』をイルに改造して、【パープル】を操作できるようにしたのは良いけどよお。あれ、めっちゃ『ゲイン』消費すんぞ! 『アウト・ゲイン』でナチュラルに死ぬかと思ったぐらいだ。『ゲイン』消費をもっと抑えらんねーのか?」



 「無理ですよ……。あれ以上、『ゲイン』の消費を圧縮して抑えたら、【パープル】を操作する能力そのものが使えなくなります。っぱ」



 「んだよ! オメーは元『メビウス』の細胞研究員なんだから、何とかしろよ!」



 「細胞研究員では無くて『ゼイデン細胞研究員』です。それに……『メビウス』の話しは出さないで下さい! ローザさんだって『パトリオス』時代の話しをしたら、怒るじゃないですか。それと同じです! っぱ!」



 「アッ……! りぃ……タルマ……。つい言っちまったけど、悪気があって言ったわけじゃねーんだ……。すまねえ……許してくれ……」




 ──ん?


 ローザの奴、さっきまでずっと能天気のうてんきな顔としゃべり方をしていたのに、急に暗い表情と口調になったが……どうしたのだろうか。





 「あぁ……。なんか気分悪くなっちまったな……。ラーチャでも誘って、酒飲みに行くか……」



 「ららら、ラーチャさんなら。みみみ、『ミラーリング・ゲート』の調査でウユニ塩湖えんこに行ってますよ」



 「は? あそこはもう何年も調査してっけど、なんの情報も出てこねーだろ。あんな場所にアタイら『側の世界』に戻れる『ミラーリング・ゲート』なんざ、あるわけねーんだよ! つーかよお、アタイらが『こっち側』の世界に飛ばされて、もう五年だぞ五年! なのに、どこ調査しに行っても、手掛てがかりの一つも出てこねーのはどういうこった! いつんなったらアタイら『側の世界』に戻れんだよ!」




 ローザが自分の周辺にある、機械を蹴りまくっている。


 今さっき暗い表情だったのに、今度は怒りで顔を真っ赤にして……。


 やれやれ──陽気だったり、暗くなったり、怒ったりと、忙しい奴である。




 「ちょちょちょ、ちょっとやめて下さい! こここ、コンソールが壊れる! ととと、とても精密なんですよこれ」



 「うっせーんだよバーカ! アタイに命令したいなら、何か一つでもいいから『ミラーリング・ゲート』の情報持って来い! ウユニなんて調査してる場合じゃねーんだよ!」




 ローザが、蹴らないでくれと言われたばかりなのに、また自分の周辺の機械を蹴っている。


 やれやれ──どこまでも人の話しを聞かない奴だ。




 「だだだ、だから蹴らないで下さいって! そそそ、それに。こここ、こちら『側の世界』で、あの場所は何かありそうだと師団長が言っているので。けけけ、継続して調査するように指示されているんですよ」



 「アネゴの命令か……。アネゴの指示じゃ仕方ねーか。それにアネゴの勘はよく当たるからなー。でもアタイは、あそこには何も無いと思う! ──っあ! 今アタイが言ったこと、アネゴにもし言ったら──」



 「わわわ、分かってますよ! いいい、言いませんよ!」



 「うっし! 分かりゃーいいんだよ。 つーか、ラーチャがいねーんなら、ミークでも誘って飲みに──」



 「みみみ、ミークさんならメキシコに行って、失敗作の回収作業をしてます」



 「ミークもいねーのか……そんじゃクスターナでも誘って飲みに──」



 「くくく、クスターナさんはオーストリアに行って回収作業をしてます」



 「クスターナもかよ。んじゃあ、ルクリルでも誘って──」



 「るるる、ルクリルさんはオーストラリアに行って回収作業をしてます」



 「あんだよ。二人とも、そのオーストリアっつーとこにいんのか」



 「いいい、いや。るるる、ルクリルさんはオーストラリアです」



 「あ? 今オーストリアって言ったじゃねーか」



 「ででで、ですから。おおお、オーストリアに行ってるのはクスターナさんで、オーストラリアに行ってるのはルクリルさんです」



 「は? ん? おいホラキ! アタイが『こっち側』のこと、よく知らねーからっておちょくってんのか? あぁん!? ドープに舐めた野郎だなコラ!」



 「ででで、ですから。おおお、オーストリアとオーストラリアは別の場所にあるんですよ!」



 「何でそんな、ややこしー名前付けてんだよ! アタイのことバカにしてんのか? 師団のおきてだから殺しはしねーが、あんま調子こいたこと言ってっと、オメーの骨を何本かドープにブチ折るぞ!」



 「いいい、いや待って下さいよ! ななな、名前を付けたのは私じゃありませんって! かかか、勘弁して下さい!」



 「チッ! わーったよ! そんじゃ、シュセにいと飲みに行くか。でもシュセ兄と飲みに行くと、毎回飲み比べの勝負になっから、次の日なんも覚えてねーんだよなー」



 「しゅしゅしゅ、シュセロさんならスペイドさんと大事な用があるとかで、今日は無理だと思います」



 「なんなんだよ! どいつもこいつも無理無理ってよー! つーか、シュセ兄とスペイドが一緒に行動するなんて珍しいな。あの二人あんまし仲良くねーだろ。まあ、アタイもスペイドの野郎は、あんまし好きになれねーけどな。いつもなに考えてんのか分からねーし」




 なんの話しをしているのか、さっぱりだが。


 どうやらローザも、自分の仲間内で好き嫌いがあるようだ。


 うーん……、どこでも派閥はばつのようなものがあるのだろう。


 ちなみに僕は、そのようなことが鬱陶うっとうしいから、あえて自分から友達を作りに行かないわけである。



 なので、決して友達が欲しいができない……訳では無い!




 「つーかよお。スペイドもシュセ兄も、あの能力は反則だろ。スペイドの【リバース・リドゥー】は厄介やっかいだし、シュセ兄の【パーフェクト・ビースト】もバカみてーに強ぇしよー。でも、アタイらの師団で一番反則な能力が使えんのは、師団長のアネゴだけどな。アネゴよりも強い反則な能力なんて────クソッ…………思い出したくもねえこと、思い出しちまった……。あークッソ! 嫌なこと思い出しちまったから、朝まで飲んで忘れるしかねーじゃねーか! つーか今日ヒマしてるメンバーはいねーのか? あっ! そうだめぐるはどうしてる?」



 「めめめ、巡さんなら今頃ライブ中だと思いますよ」



 「はッ!? 巡のライブって今日だったのか!? チキショー! ブロードの新曲が生で聴けねーじゃねーか!」



 「いいい、痛い! ちょちょちょ、ちょっと叩かないで下さいよ!」




 ローザが怒りながら、『ほらき』と呼ばれている人の頭をバシバシ叩いている。


 あんなに叩いたら……もっと薄くなってしまうのでは、なかろうか……。




 と言うか────ん!?



 今──ローザの奴、ブロードと言ったのか?


 ブロードってあの……世界的に超有名な日本のロックバンドじゃないか!



 僕が一番大好きなバンドだぞ。


 しかも、巡って言ったら、ブロードのボーカルでリーダーの、城崎しろざきめぐるじゃないか……!



 ちなみにだが、僕はブロードのアルバムもシングルも、全て持っている。



 そして僕は、ブロードの他に、三人組のガールズバンドのスリーフェザーも好きで、スリーフェザーのアルバムとシングルも全て持っている……のだが。



 スリーフェザーのボーカルの人は、死因は分からないが急死してしまい、もうスリーフェザーのガールズバンドは解散してしまったのだ。



 でも──何でローザはブロードのことを……いや、あれだけ有名なら知ってるか。


 しかし、知り合いみたいな会話だったぞ。


 ていうか、自分たちの仲間みたいな会話に聞こえたが……。



 いったい──どうなっているんだ?




 「ったく。巡の野郎──アタイがおりん中から出してやったのに、ライブの情報を教えねえなんて、ふざけやがって!」



 「ききき、昨日。めめめ、巡さんがローザさんに、今日ライブがあるから遊びに来いって言ってましたよ。わわわ、忘れたんですか?」



 「んなことアタイは言われてねーよ!」



 「いいい、言ってましたよ。ろろろ、ローザさんベロベロに酔っぱらっていたから覚えて無いだけです」



 「んだとこの野郎!」



 「ううう、うわああああ! ろろろ、ローザさん頭を叩かないで下さい!」



 ……檻?


 ローザの奴、今確かに檻から出したと言ったように聞こえたが。


 僕の聞き間違い──では無いだろう。



 もしローザが、あの教会で灰玄と闘っていた時のように、なにかしらの不思議な力を使い、城崎巡を檻から出したのなら──檻と言うか刑務所なのだが、あの数年前に起こった事件の、謎の結末も理解できる。



 その謎の結末とは、城崎巡が傷害事件を起こしてしまって、懲役ちょうえき二年の実刑判決になってしまったのに、なぜか刑務所に入って二週間もしないうちに釈放しゃくほうされ、すぐにバンド活動を再開したことである。



 そのことが、どのテレビでも大々的に取り上げられていたのだ。



 しかし……あれは本当に不思議な事件だった。



 なんですぐに釈放されたのかと、ずっと疑問に思っていたのだが。


 なるほど、ローザが刑務所から釈放させたのか。



 でも、どうしてローザが……。


 うーむ、また僕の中で不思議が一つ増えてしまった。



 まあ、別にいいか。


 ローザのおかげで、僕はブロードの新曲を聴けるわけだし。



 それにしても──数年前に城崎巡が逮捕された時は、本当にショックで信じられなかった。



 しかし僕は、あの城崎巡が傷害事件なんて絶対にしていないと信じていたし、誰かにねたまれて罠にハメられた冤罪えんざい事件だと、ずっと思っていた。



 それに、二週間もしないうちに、すぐ刑務所から出て来たのだから、やはり僕の思った通り冤罪事件だったのだろう──と、今まで思っていたのだが。



 ローザが裏で、何かしていたのか。



 しかしながら、やはり僕は城崎巡が傷害事件なんて、やって無いと思うし、信じたい。


 もし仮に、それが真実なのだとしても、絶対に何かしらの理由があったに違いない。




 「おい! 今からサイコロ振っからよお! 奇数が出たらオメーらのどっちかが、アタイの飲みに付き合えや! 偶数が出たら一人で飲みに行く!」



 「またサイコロですか? と言うか、何でいつも奇数にこだわってるんです? その前に、二日酔いだって言ってたじゃないですか。今日は飲まない方がいいですよ。っぱ」



 「うるせー奴だなー! 二日酔いん時は酒飲んで治すんだよ! それに、割り切れねえから、奇数が出たらYesイエス。割り切れる偶数が出たらNoノーなんだ」



 「いや、逆だと思いますよ。普通は割り切れる方が──」



 「黙ってろ! アタイら・・・・はずっとそうして来たんだ! さあ今からサイコロ振っからよく見とけ! よっと──」



 「あっ。偶数だ。っぱ」



 「しゃーねーな。一人で朝まで酒飲むか。おいホラキ! 『ロックス』よこせや!」



 「わわわ、分かりました」




 言って、『ほらき』と呼ばれている人がローザに、野球ボールぐらいのサイズの、シャボン玉のような丸いボールを手渡した。




 「ところで、この『ロックス』はどこにセットしてあんだ?」



 「ははは、繁華街の方です」



 「あー。あの『ユニット』みてーな場所か。あそこなら、酒飲むとこがたくさんあっから──」



 「ろろろ、ローザさん。ははは、繁華街に行っても、これ以上『パープル・カプセル』を使わないで下さいよ。ももも、もう残り少ないんですから、これからは厳選げんせんして使って下さい」



 「オメーに言われなくても分かってんよ。そんじゃーなオメーら。こんな肉ジュースばっか見てねーで、たまには息抜きしろよ。それに言っておくが、アタイはジェイトやスペイドみたいに【パープル】賛成派じゃなくて、【パープル】反対派なんだよ。でもスペイドの野郎が、アネゴの命令だって言うから、仕方無く『パープル・カプセル』を世界中にバラいてやったんだ。アタイは好きでやったわけじゃねー!」




 そう言い残し、ローザは手に持っていたシャボン玉のようなボールを割ると、またしても突然、視界を奪うほどのまぶしい閃光が、僕の目の前に広がった。


 眩しさのあまり、すぐ瞳を閉じてしまったが──ゆっくり瞳を開くと、僕の視野から完全にローザが消えていた。



 はあ……やっと消えてくれたよ……。


 あの変な光は、よく分からないけれども、さっさと僕もこんな場所から消えよう。



 灰玄が来る気配も無いし、今は全力の忍び足で……上の階まで逃げるんだ!

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