第7話『金獅子(きんじし)』

__二〇二三年九月九日、エジプト大統領府アブディーン宮殿__


 第十五回BRICS首脳会議にて、二〇二四年一月一日付でのエジプトのBRICSへの正式な加入が決定した。これを受け、日本国第九管区海上保安庁海上保安部次長代理のアザレス・雨寺あまてらは、叔父のエジプト大統領アッシーシのいる、アブディーン宮殿を訪問した。


 エジプト、カイロの地に堂々と鎮座ちんざするこのアブディーン宮殿は、現在は大統領府として利用されている。その豪華絢爛ごうかけんらんな内装は今もなお健在で、王家の所有物や各国からの贈答品が多数展示される、博物館のような区画も有している。


 その宮殿の、天井の高い、広々とした一室。


 きらびやかな装飾の施された壁掛け時計の針は、午後二十一時前を指している。


 日のよく当たる、部屋の南側からは、テラスへ出ることができる。


 無数にある部屋の窓は、全て全開になっており、心地よい、夜風が吹き抜ける。


 その涼しい風を浴びながら、座り心地の良さそうな一人がけソファに腰掛ける女性がいた。


 彼女こそ、日本の第九管区海上保安本部海洋情報部海洋調査課課長のアザレス・雨寺である。


 現在、次長の不在もあって、第九管区海上保安本部次長代理も兼任している。


 ややうねりのある金髪のミディアムヘアーが下がる後ろ姿。


 彼女のいるソファの前には、部屋の雰囲気には似合わない、小さめの、SONY製の有機ELテレビが置かれている。


 画面には、イタリア、ヴェネツィア国際映画祭の授賞式の模様が映し出されていた。


 一人の男性が、羽の生えた金獅子きんじしをかたどったトロフィーを受け取る姿が見える。


 〈二〇二三年ヴェネツィア国際映画祭、金獅子賞に輝いたのは、ヨルゴス・ランティモス監督の『哀れなるものたち』でした!〉


 金獅子。


 そう、彼女を形容する言葉として一番相応ふさわしいのは、「金獅子」だろう。


 そこに、何者かの足音。


「あ、叔父様かしら?」


 金獅子の女性は、その誰かの気配に気づき、振り返る。


 彼女の両耳から下がる、白銀色はくぎんしょくの耳飾りが揺れる。


 やや褐色の肌と、くっきりとした目鼻立ち。


 大きな目と、長い睫毛まつげは、ヘマタイトのような濃い黒色をしている。

 

 そして胸元には、しずくの形をした、大粒の、青いペンダント。


 全身にまとう砂漠の砂と同じ色をしたケープには、ゆったりとしたフードがついているが、今は被っていない。


 今度は彼女の手元に目を移すと、指先からは、細長い金色のフォークが、方尖塔オベリスクのように伸び、その先には、柿色のパプリカの一切れが、突き刺さっている。


 彼女は自分の予想が当たったとわかり、フォークの先からパプリカをぱくりと奪い取ると、立ち上がって、「叔父様」と呼ぶものの方へ駆け寄る。


「おお、待たせたな、アザレス。多忙な中わざわざ呼び出してすまない。今日も、その綺麗なブロンド髪に青のカチューシャがよく似合っているぞ」


 彼は、アザレス、もとい金獅子の容貌ようぼうを、慣れた口調で褒める。


 彼が、現エジプト大統領、アブドルファッターフ・アッシーシだ。


「叔父様、ありがとう。あと、真珠の耳飾りも忘れないでよね」

 と、耳飾りをつまんで、その存在を強調するアザレス。


「ああそうだな、それと、その胸元の雫のペンダントも、よく似合っている。だが、もういい年だろう? 口をもぐもぐさせながら歩き回るのは、品が良くないぞ。それに……」

 と、少々口ごもるアッシーシ。


「それに、なぁに?」

 と、アザレスは笑顔で尋ねる。


「フードは被った方がいいのではないか?」

 と、アッシーシは指摘する。


「あまり堅苦しすぎるのもねぇ」

 と、口をとがらせるアザレス。


「あぁ、わかった、今回は目をつむろう」


 叔父は、可愛い姪っ子に弱い。


 アザレスは、満足な回答を得られたようで、にっこりする。


 二人の仲は、悪くはないようだ。


「そうね、でもわたし、日本ではもう課長よ。しかも今は次長を兼任」


 無邪気なアザレス。


「ああ、そうだった。それは、とても立派なことだ。で、テレビで何をみてたんだ?」

 と、アッシーシは目を細めてテレビへ視線を向ける。


「イタリア、ヴェネツィア国際映画祭映画祭の授賞式の生中継よ。ついさっき、SFロマンティック・コメディ『哀れなるものたち』が金獅子賞を取ったのよ!」

 と、アザレス。


 少し興奮気味なようで、金獅子の立髪のようなブロンドが、大きく揺れている。


「そうか。あの映画には、お前の好きな俳優が出ていたらしいな、名前は確か……」


「あ、今映ってるあの人! マーク・ラファロよ。彼、素敵よね」

 と、アザレスはテレビを指差して言う。


「ああ、そうだった。あれか、映画ではあの人が怪物に変身するんだよな」


「ええっと、正しくは、ブルースっていう電波物理学の教授が、心拍数が一分で二百回を超えちゃうと、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの緑色の大男、ハルクに変身するのよ」

 と、よっぽどお気に入りのキャラクターなのか、細かく訂正するアザレス。


「はぁ、そうなのか。緑色か。まるで冥界の王オシリス神のようだな」

 と、アッシーシは古代エジプトの神について語り出す。さすがはエジプト大統領である。


「あれ? わたし、オシリス神にはてっきり赤のイメージを持っていたわ」


「赤だって? 何を言っているんだ、オシリス神と言えば、壁画には、植物や豊穣ほうじょうを表す緑を使って描かれるじゃないか」


 呆れるアッシーシ。


「オシリスの天空竜、真っ赤なドラゴン、知らない?」

 と、アザレスは、これこそ知っていて当然、という顔をしている。


「あぁ、その影響か。確か日本のアニメの『遊戯王』とかいう……まぁいい。とにかく緑の肌と言えばオシリスだ。それくらい知っておいてくれ。頼むぞ、アザレス」

 と、アッシーシは少し肩を落とす。日本文化クールジャパンの色に染まりつつある姪っ子に、少し不満な様子だ。


「はぁい。あっ! でね、今回の金獅子賞作品の『哀れなるものたち』ではね、マーク・ラファロ、彼の演じるダンカンが、主人公のベラ、あっ、彼女はエマ・ストーンがやってる役なんだけど、彼女をね、大陸横断の旅に連れ出すの。素敵な話だったわ。きっと、オスカーも一つくらいは取るでしょうね」


 アザレスは、生き生きとしている。


「ほぉ、そうか」

 と、止まらない姪っ子のマシンガントークに、早くも疲れ気味のアッシーシ。


「それにね、ベラは、実は自ら命を経ってしまった過去があるんだけど、その彼女をウィレム・デフォーが演じる外科医の手で奇跡の『復活』を遂げるのよ。そこから話は始まるの、面白いと思わない?」


「そうか、『復活』か……。我がエジプトでもその昔、冥界での復活を信じた人も多かったことだし、興味深い話ではあるな」

 と、話を古代エジプトに繋げることに熱心なアッシーシ。


 共和政エジプト第六代大統領アッシーシのエジプトに対する愛は、強い。


「そこもだけど、それよりも、ほら、とってもわかりやすい、俳優陣の共通点が、あるじゃない?」


 彼女の表情は、覚えたばかりのなぞなぞをすぐに出したがる子供のようだ。


「なんだ? 私はそこまでハリウッド映画に詳しくないものだから……」

 と、アッシーシは映画自体には、あまり興味がないようだ。


「うっそー、叔父様は鈍感ねぇ。ハルクと、MJエムジェイと、グリーンゴブリン役が集まってるのよ? それはもう半分、マーベル作品を見ているようなものよ。この上なく素敵インクレディブルで、驚異的アメイジング運命的フェイトフルなことなのよ!」


 アザレスの興奮は、最高潮に達した。


「すまない、私にはよくわからんな。それよりも、ちょっと、その映像は、消してもらいたい。母さんの話を思い出してしまうからな……」


 アッシーシはアザレスとの温度差が大きいようで、テレビの方を指差して、彼女にそう促す。


「あっ、ごめんなさい。そうよね……不注意だったわ」

 と、アザレスは敏捷びんしょうな動きで、テレビの電源を消しにリモコンの方へ行って、すぐに蜻蛉返とんぼがえりしてきた。


「先の大戦では、イタリアのエジプト侵攻での惨劇さんげきを、何度母さんから聞かされたか。まぁ、あくまであれはムッソリーニ政権下の悪行ではあるが」

 と、アッシーシの顔は暗い。


「うん……」


 軽やかに吹いていた夜風が止み、空気が重くなったように感じる。


 二人とも、気まずくなったのか、黙り込んでしまった。


 そもそもこれは、仲睦なかむつまじい姪と叔父の、愉快な会話ではない。


 アッシーシには、エジプト大統領としての、重大な責務があった。


 それも、アザレスに、大きく関わることが……。


 そこで沈黙を引き裂くように、時計の鐘の音が、長大な波となって、鈍く、重く、部屋の空気を揺らした。


 壁掛け時計の針が、二十一時ちょうどになった。

 

「それでだ、例の原子力潜水艦の件だが……」


 アッシーシは、ついに重い口を開いた。



 ***

 


 __二〇二三年、十二月末。エジプト__


 アブディーン宮殿の回廊。


 アザレスは、三ヶ月ぶりに、硬い床をコツコツと鳴らしながら、その金髪と白い耳飾りをゆらゆらと揺らしていた。


 年末の忙しい時期に、彼女は再びエジプトに呼び出されたのだ。


「アザレス!」


 と、アザレスの背後から、男の声。


 回廊に響き渡る声は、金管楽器から出た音のように、こだまする。


 声が止む。


 と同時に。


 足音が止む。


 アザレスは振り向く。


 叔父であり、エジプト大統領のアッシーシだ。


 アッシーシは、険しい表情をしている。


 そして、闘牛で使われる黒牛のように、アザレスに詰め寄る。


 アザレスは思わず二、三歩、後退あとずさりする。


 その間も、アッシーシの牛歩は勢いを増し、今や韋駄天いだてん走りである。


 再びきびすを返し、去ろうとするアザレス。


 が、彼女の手を、アッシーシがつかむ。


 アザレスは掴まれた手を、反射的に、振りほどく。


「叔父様! もういい加減に」


「いい加減にするのはお前だ!」


 アッシーシの声がほとばしり、宮殿内を反響する。


 静まり返る回廊。


「いいか、アザレス、よく聞くんだ。ついに年明けに、我がエジプトはBRICSに正式に加入する。アルゼンチンは結局加入見送りらしいが、これを皮切りに事実上、第三世界の多くの国々が、ロシアと中国にくみする動きが強まっていくわけだが……私の言いたいことはわかるな?」


「でも叔父様! わたしの母上の祖国を見捨てるわけには!」


「ええい! 黙れい!」

 と、思わず声を荒げるアッシーシ。


「……」


 アザレスは、言われた通りに黙りこくる。


 今、ここを支配する音は、アッシーシの息切れのだけだ。


 アッシーシは、喉仏を上げて、唾を飲み込み、気を落ち着かせる。

 

「アザレス、お前の気持ちはよくわかる。だが、あの三隻の原子力潜水艦をこのまま日本海に留めておけば、あんなものを今後も打ち上げ続けるのならば……BRICSに対して示しがつかんのだ。こんなことは本当は言いたくないが……エジプト人の、今は亡き我が弟カートバークと、日本人の雨寺瑠神あまてらるかの子であるお前が、日本で、そんな好き勝手をしようものなら、それが周りに知れようものなら、とんでもないことになるんだぞ! 賢いお前なら想像はつくだろう!」


「叔父様……わたしには、全く持って、想像つきませんわ」

 と、アザレスは、真剣な眼差しで、口答えする。


「大馬鹿者め! 何をふざけたことを! キューバ危機を思い出せ!」

 と、アッシーシは、唾をぶちまけながら叫ぶ。


「そんなの知らないわ! 第一、今は昔と違うもの! 憶測でものを言わないで……」

 と、アザレスは、その場で泣き崩れる。


「すまない……つい、言い過ぎてしまった」


 アッシーシは、アザレスの隣にしゃがみこみ、肩を抱く。


「アザレス、もう、エジプトに帰ってきても、いいんじゃないのか?」


「嫌よ……」


「どうして?」


「もはや父も亡くなり、わたしとエジプトを繋ぐ存在は、もう叔父様ぐらいというもの。だから、日本で、母のそばに、いてあげたいのよ」


「アザレス。私はずっとお前の成長を見守ってきた。だからお前がそこまで日本にこだわる本当の理由が、別にあるのを、わたしはよくわかっているぞ。隠しても無駄だ、白状しなさい」


「……」


 アザレスは、黙って首を、大きく横に振る。


「自分の口からは難しいか……なら私が代わりに言ってやろう。我が弟であり、アザレス・雨寺あまてらの父、カートバークは、一族に代々伝わる伝説に出てくる、黄金に囲まれし国『砂の島サンド・アイランドを探しに日本に渡った。そして……』」


「うわぁぁぁん! そうよ。その通りよ! それで、ついにそれを、亡くなったパパが、生涯をかけて探し求めた砂の島サンド・アイランドを、ついに、私は、見つけたの、見つけたのよぉぉぉ! でも誰も認めてくれない、嘘だと一蹴する! でも本当に見つけたの! それを、それを見捨てるだなんて……できないわぁぁぁ!」

 涙と鼻水と、汗とにまみれて、泣きじゃくるアザレス。


「あぁ、わかった、アザレスよ。そう泣くでない。私は、お前を信じよう」


 アッシーシは、アザレスを固く、強く、愛をこめて抱きしめた。


「叔父様、ありがとう……愛しているわ」

 アザレスは、涙が吹き出してシワシワになった瞳でアッシーシを見つめ、ほんの少し、微笑んだ。


「アザレス、私もお前を、愛しているよ。そうだ、ひとまず今のところは、見つからぬように、なんとか手配しよう。だから、困ったら、いつでも、なんでも言ってくれ」


 アッシーシは、可愛い姪っ子の心の底からの請願せいがんに、ついに折れた。


「本当にありがとう、叔父様」


 アッシーシの胸にうずまっているアザレスの浅黒い顔には、細い、横倒しの三日月が、青白い月明かりを放ちながら昇っていた。


 

 ***



 翌日、アッシーシの元に、一本の電話が届いた。


 窓越しに朝日を拝み、ベッドから起き上がるアッシーシ。


 腕を目一杯天井目掛けて伸ばし、欠伸あくびをする。


 すると突然、勢いよく、彼の部屋の、大きな両開きの扉が開く。


「大統領閣下……お電話です!」

 と、アッシーシの側近。声が少しこわばっているようだ。


「こんな朝早くから電話をよこす非常識なやつは誰だ? 本当は出直してもらいたいところだが、後で折り返すと伝えておけ」


「いや、それが……」

 と言って、側近は、ぶらりと下がっている手に持つ、何かを、まるで警察手帳を振りかざすようにして、アッシーシに見せつけた。


「ん、何の真似だ?」

 と、状況が飲み込めないアッシーシ。

 

「ロシアのプーチン大統領から、直々のお電話です」

 と、側近はスマホを前後に揺らして、その存在を再度示す。


「何? 前代未聞だな、それは。そんな急ぐ話か?」


「ええっと、悪い知らせではありません。今日からのエジプトのBRICSへの加入に対して、ぜひ祝いのメッセージを贈りたい、とのことですが」


「なんだ、ただの歓迎の言葉か。びっくりさせるんじゃあない。でもわざわざ直接するとはプーチンも我々と同じ人間風情ふぜい……ん? 急になんだ? どうした?」


 側近が、突如取り乱し、スマホの画面を至近距離で見つめる。その手は、小刻みに震えている。


「あ、あと、たった今一つ悪い知らせが増えてしまいまして……」


 側近は、体は固まったまま、ゆっくりと、視線だけをアッシーシに移す。


「何? はっきりしてくれ。今度はなんだ?」

 

「……すみません、私が部屋に入ってから今まで、マイクがずっとオンになっていました」


 何度でも言おう。電話の主は、ロシア大統領、ウラジーミル・プーチン。


 慌てるアッシーシ。


「今すぐそれを貸せっ!」


 アッシーシは、スマホを側近から奪い取った。


「あぁ、プーチン大統領? いやぁ、ご無沙汰ぶさたしてます。なんだか電波が悪かったようで、妙な雑音が……」

 と、必死の、だが無意味の、言い訳を並べるアッシーシ。


「あぁ、アッシーシ大統領。そちらは朝ですか? おはようございます」


 エジプトとヨーロッパロシアの中心都市の経度はそこまで大差無い。プーチンは居場所を特定されたくないのか、まるで向こうが遠くの土地にいるかのような物言いをしている。


「おはようございます……」

 

 声はほとんど声になっていない。


「改めて、エジプト・アラブ共和国のBRICSへの加入を歓迎いたします」


 不気味なほどに、丁寧な口調。


「あぁ、これはどうも……」


「ところで、エジプトの所有する原子力潜水艦の件ですが、大型の『プトレマイオスⅤ』、中型の『クレオパトラⅠ』、小型の『ジアス』。それぞれの配備状況の確認をしたいのですが。三隻はそれぞれ、現在どうなっていますか?」


 ギクリ、とする。


「あぁ…………………………………………それがいずれも、整備中でして………………故障なんです」


 苦しい言い訳。


「さようでございますか。三隻ともが、同時に、故障、ですか?」


 淡々と尋ねる。


「は…………はい…………」


 それが嘘だとバレないはずはない。


「わかりました。いつ有事が起こっても問題ないように、大至急修理を進めてください。では失礼します」


 そう、あっさりと、控えめの言葉を残す。


 プーチンは、「では」と言いつつも。


 通話は向こうからは切れない。


 アッシーシは、恐る恐る。


 通話終了のボタンを。


 緊張感を持って。


 心を込めて。


 ついに。


 押した。


「お前たち…………緊急会議だ」


 

 

 ***

 


 

 __二〇二三年某日、新潟県新潟市西蒲にしかん間瀬まぜ獅子ヶ鼻ししがはな__


 雲一つない、快晴の空の下。


 砂浜に押し寄せる波は、白く泡立っている。


 そこに、一つの影。


 その影は、影と言うだけあって、頭の先から足元までの全身を、漆黒しっこくの布でおおっている。


 ムスリムの女性が法的に着用を義務付けられている、その覆うものヒジャブと呼ばれる服は、太陽の光を寄せ付けている。


 時折、風が布を、旗のようになびかせる。


 ちらりとのぞく、二つの白銀色のきゅうと、獅子の立髪たてがみ


 その隣に、灯台が一つ。


 砂の上に真っ直ぐ伸びるその石の柱は、なぜか遠い異国の地の記念碑オベリスクを思わせる。


 少し離れた波打ち際に。


 一人の青年。


 青年が、手元の装置をいじると。


 金属の塊が、燦然さんぜんと輝く太陽最高神を目掛けて、空高く上昇する。

 

 少年はその、ハチドリの羽音のような叫びをあげる金属塊を飛ばすことに、夢中になっている。


 黒い影に、じっと見つめられていることも、知らずに……

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