第26話 勇者たちの実力

 その後も、鬱蒼うっそうとした魔王国の森を進み、何度か魔物と遭遇そうぐうし戦闘になった。


「早く広いところに出ないかしら」

 そう言うアリナは高位の魔術師で、攻撃魔法を得意としているらしい。

「広い場所で一気に魔物を殲滅せんめつするとスカッとするのよねぇ」

「もうすぐじゃなかったかな?」

 マルクが言った。


「はい、もうしばらく行けば森を抜けて荒野に出ると思います」

 俺は絵図面を見ながら言った。

「荒野に出たらアリナに任せて私達はしばらく休もう」

 と、マリルが言った。

「え、アリナ様お一人にですか!?」

 俺が驚いて聞くと、

「あら、大丈夫よ、私に任せておいて」

 とアリナは笑顔で言ってくれた。

 それから間もなくして、アリナの言葉が偽りではないということを、俺はこの目で確かめることができた。


「えい」

 と、普通に話をするようなトーンで言いながらアリナが魔杖を振る。

 魔杖の先が紅く光り、その光が珠となって大きくなり、その珠が砲撃のように飛び出した。

 そして、紅い玉は荒野に群れ固まっている魔物に真っすぐ飛んでいき、魔物の群れの中心で大爆発を起こした。

 もうもうと上がる土煙つちけむりが薄れていくと、クレーターのような大きな穴が現れた。

 もちろん、その近辺にいた魔物たちは跡形も無くなっている。


「かぁ…………!」

 俺はすぐには言葉が出てこなかった。

「だから、アリナに任せておけばいいと言っただろ?」

 マリルが俺の横に来て言った。

「そう……ですね」

 やっと出た俺の言葉がそれだった。


 アリナはゆっくりと荒野を進みながら、魔物が群れ固まっているところへ次々と魔術砲を放っていった。

 荒野にはところどころ小さな岩山もあったが、魔物と一緒にアリナの魔術砲がそれらの岩山も吹き飛ばした。


「アリナの魔術はいつ見ても迫力があるわね」

 俺の母が言った。

「うふふ、ありがとう、メリア。でも少し疲れてきちゃったわ」

「そうね、私もずっと索敵スキルを使ってたから疲れちゃった」

「ねえ、マリル、少し癒やしてもらえないかしら?」

 アリナがマリルを見ながら言った。


「仕方ないのぉ」

 マリルはそう言いながら、アリナと母の間に自らの乗馬をつけた。

「二人とも手を出せ」

「「はーい」」

 マリルの言葉に、聞き分けの良い生徒のように二人は左右からマリルの手を握った。

「はぁーーいい気持ぃーー」

「最高よねぇーー」

 アリナと母が気持ちよさそうに目をつむって言った。


 そんな女性陣を見ながら、

「では、男の戦いを始めるとするか」

 と、オルダが言った。

「そうだな」

「後片付けという名の戦いだ」

 と、日々の家事分担を始めるかのような調子でマルクと父が言った。


 アリナの魔術砲は凄まじい威力で魔物をほふったが、そこここに撃ち漏らした魔物が散見される。そういう魔物を片付けていこうということなのだろう。

「ノッシュもいくぞ」

 と父に言われて、俺も加えた男四人で撃ち漏らした魔物を倒していった。

(見事な分担作業!)

 俺も段々とこのパーティの空気がわかってきた。


 俺達男四人は、アリナの魔術砲が撃ち漏らした魔物を、あちこち走り回って倒していった。

 放って置くと背後に敵を背負うことになってしまうからだ。


(アリナ様もだけど、マリル様も神官なのにめっちゃ強いなぁ) 

 二人の女性を癒やしているマリルを見ながらそう思った。

 オルダに聞くと、

「マリルはバトルヒーラーなんだよ」

 と、教えてくれた。

「バトルヒーラー!」

(癒やせて戦えるって、かっけぇーー!)

 思わずマリルに憧れてしまう俺だった。


 こうして荒野を進んでいき真昼頃になると、遠くに見えていた大きい岩山がかなり近くに見えるようになってきた。

「あれが魔王城なんですね」

 俺が絵図面で確認しながら言った。

「ああ、そうだ」

 マリルが静かに言った。


 魔王城は、天然の巨大な岩山を利用して造られているようだ。

 正面には幅が広い階段が二十段ほどあり、金属製のいかつくて巨大な扉へと続いていた。


「扉が開いたままですね」

「お待ちかねってことか」

「じゃあ、遠慮なく」

「そうしよう」

 俺達は男四人で階段を登り始めた。


「あとから追いかけるわねぇーー」

 後ろからアリナの声がした。振り返ってみると、女性陣はシートを敷いて一休みしている。

「これからランチみたいですね」

 俺が言うと、

「なんだよ、俺達は歩きながら干し肉なのに……」

 オルダが干し肉に食いつきながら言った。


 魔王城の入口を入ると、広い廊下がまっすぐに奥まで延びていた。

「この絵図面とほぼ同じですね」

 俺が絵図面を見ながら言うと、

「トラップの場所も変わってなければいいけどな」

 と、父が心配そうに言った。


「あ、この先にトラップです」

 しばらくして俺が絵図面を見ながら注意を促した。

 オルダはかはがんで石を拾い、少し色が違っている敷石の上に投げ落とした。

 と同時に、左右の壁の穴から槍が飛び出してきた。

「三十年前と同じだな」

「絵図面が役に立って良かったよ」

 マルクの言葉に父がホッとしたように言った。


 その後も父が作った絵図面に従って進んでいき、いくつかのトラップを避けることができた。

 最初の曲がり角を曲がってからは、ダンジョン内が暗くなったので、ランタンに火を入れた。


「魔物は出てこないですね」

 俺が言うと、

「なんて言ってるそばから来たぞ」

 とオルダが言った。

 いくつ目かの曲がり角を曲がったところで、前方に三体ほどの魔物が見えた。


「なんだか少し人間ぽいですね」

 今まで見てきた魔物とは少し違う見た目に、俺は警戒した。

「見た目は人間ぽくて強そうだが、実際あのタイプはそれほど強はくない」

 オルダが教えてくれた。

「そうなんですか」

「ああ、虫を巨大化させただけの魔物のほうがずっと厄介だ」

 そう言いながらオルダは剣を抜き姿勢を低くした。

「お前はランタンを持ってついて来い」 

「はい」


 俺の返事とともにオルダは向かってくる魔物との距離を一気に詰めた。俺も遅れまいとオルダに続いた。

 オルダは三体の魔物を次々と斬り裂いていった。

「このまま進むぞ!」

「はい!」

 後ろからは父とマルクが走ってついてくるのが聴こえる。


(やっぱり師匠は強い……!)

 俺は、一人ででもテシリア嬢を助けに行くと大見得を切った自分が恥ずかしくなった。

(とてもじゃないが、俺一人じゃテシリア嬢を助けるどころか辿り着くことすらできない……)

 おごり高ぶっていたつもりはないが、後先考えない行動は何も産まないどころか、多くの人に迷惑をかける事になるのだと、俺は思い知った。


 その後も何度か魔物に遭遇した。

「お前も戦ってみろ」

 とオルダに言われ、ランタンを父に預けて俺も魔物に立ち向かった。

(確かに、それほど強くはない……)

 見た目は人間ぽくて不気味だが、無理やり人間型にしたせいか、かえって動きが鈍くなってしまっているようだ。


 俺は一旦魔物との間合いを取り、オルダに教えられて体に染み付いた基本の構えをした。

 そして一気に間を詰め、横一閃よこいっせん魔物を上下真っ二つに斬り飛ばした。

「よしよし」

 オルダの満足げな声が後ろから聴こえた。


 俺が振り返って見ると、オルダ達の後ろに女性陣の姿も見えた。

「いい感じみたいね」

「そうね、ノッシュも強くなってるし」

「うむ、この調子でササッとテシリアを助けようぞ」


 俺は絵図面を取り出して、周囲と照らし合わせて今いるところを確認した。


「その先を曲がると魔王の間ですね……」

 そう言う俺の声は、自分でもわかるくらいに緊張していた。

「ああ、そうだ」

 オルダが落ち着いた声でいった。

「なに、心配はいらん、お主一人ではないのだからな」

 マリルが穏やかな声で言い、

「そうよ、みんなでテシリアさんを助けるのよ」

 母も俺を励ますように言った。


「はい……!」

 俺は無理矢理に震え声を抑えて言い、絵図面を懐に入れ、魔王の間へと歩みを進めた。

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