第13話「馬と化して3000里」

砂漠の上をひたすら歩く。汗さえ心地よく感じるほどに暑すぎる。

砂のせいで足が何度も地中に引き摺り込まれるようだ。くそ。歩きづらい。


「後、どれくらい、なんだ?」


「さぁね。オアシスが見えてこないと」


超速い馬を求めてやってきたのだが結果はどうだ。ただひたすら砂漠の上を歩いている。


灼熱の太陽は私をひたすら睨みつけている。

水も残りわずかだ。今日中に見つかるか?


昨日から出発し歩き続けているせいで

体も心も疲労が来ていた。精神的にも余裕があるかといえばない。


よく砂漠を旅する者が幻覚に騙されるという

シュチュエーションを耳にするが今なら

理解できる。寝不足と精神的窮屈から願望が

妄想を超えて現実に影響してしまうからだ。


ほら、目の前にオアシスが見える。


「ついた。あそこだ。」


どうやら幻覚ではなかったようだ。かなり規模の大きいオアシスだ。オアシスと言うより

かるい森林と言えばいいだろうか。


真ん中に湖があり、周りを木々と長い家が囲っている。


「まずは村長のところへ挨拶に行こう。

礼儀を忘れずに」


ここにくる前にある程度のここの礼儀を学んだのだった。必ず足のつま先は話し相手に向けること、握手を求め、左手から差し出すこと。

これらを守れば友好的になるらしい。


「こんにちは。村長さん。」


かれは学んだそれをさっそく活用する。が

どうやら状況は違ったようだ。


目の前の村長と呼ばれている人は頭を抱えながら右手で握手に応じている。


「どうか致しましたか?」


「それがだな...村の馬を盗賊に取られてしまってな、せっかくの商売道具が無くなったもんだから大変なんだ。食料も残りわずかしかない」


馬は人から人へと渡って行ったようだ。だが

この状況使えるかもしれない。


「その盗賊はどこへ行った?私が見つけて

取り返してきてやる。あんたの馬」


「お前は初めてみる顔だな。いけるのか?

どこにいるのか我々にもわからんぞ」


セナは頭に指を当て考えるポーズを取る。


「俺には奴らがいる場所の予想がつきます。暑さ対策として洞窟か海辺の当たりでしょうか...

海辺の辺りは最近国による規制が強いため

わざわざ行かないでしょう。」


「ほう。ならどこの洞窟だ?」


「砂漠から少し離れた山にエスト山脈だと思います。そこには水も流れるし馬を何匹も隠せるスペースもある。また隠れ蓑にも最適だと。」


「そうか。頼めるか?」


私は彼が答える前に問いかける。


「もし馬を連れて帰ってきたら二頭ほど貰えるか?」


村長の顔がこわばる。そりゃそうだ。二頭も

取られたら大変なダメージになる。だが

もうひと押しすればいけるはずだ


「この村の者に戦ってもらう必要がない。つまり命の危険がないんだ。安いと思う」


「もし取り損ねて我々の村を襲ってきたらどうする?」


「成功以外は死しかない。それはあんたも

私も同じだろう?」


彼はそれを聞いた後、私の左手からの握手に応じた。






村の広場で焚き火に当たる。夜は夜で寒い。

なんともわがままな気候だと言える。


「しっかり寝てきたか?」


セナが座っている私に覗き込むように見てくる


「ああ。それで、わざわざ夜に行くんだろ。作戦は?」


「とりあえず寒いからこれを着ろ」


「マントか。いいな。成功する確率が上がりそうだ。」


「そりゃあいい。作戦についてなんだが...

岩もろごと奴らを切ってもらおう。君に。」


「何を言い出すんだ?」


「言っただろう?浮かぶ魔術を見せた時に、教えてくれって。だからまずは魔力の流れの

使い方を教えてあげるよ」


「それが作戦とどう関係してるんだ?」


「やつらも馬鹿ではないから洞窟の前に大きな岩を夜間は置くだろう。だからどのみちその岩を何とかどかさなきゃいけない。けど君は

村長に村の人の力は借りないと言ってしまった。だから君と俺でやるんだよ」


「いけるのか?」


「やるしかないだろ。夜が明け前に。朝日が昇れば奴らは出てきて俺らは亡くなる。ただそれだけだ。だから君はこの夜で魔力の流れを理解して岩もろとも奴らを切れ。馬は俺が避難させるから」


「なんだが最悪私だけ死にそうだな。」


「死ぬ時は同じさ」


「この剣に魔力を流せるのか?」


「ああ。太陽でさえ切れると謳われているものなんだ。岩なんてすぐ切れるだろう。」


「なぜあんたが切らない?」


「俺は剣に魔力を流さないから」


「人によって違うと?」


彼は一呼吸おいて焚き火をぼんやりと見ながら答える。


「さぁな。」


私は立ち上がり上にある星空を見つめる。

こんなにも綺麗な星空は見たことがない。

まるで私のための明かりのようだ。

掴めば取れてしまいそうで。


「近くまでは村の若者が送ってくれるらしい。なに。馬の速さ感じてみようじゃないか」


「ああ。この砂漠を歩かずに済むのなら喜んで馬になろう。」



松明を持った二人の若者が村の出口で私たちを待っていた。


「またせたね。頼むよ」


「了解した。落ちるなよ」


私は馬の後ろの方にまたがる。そして前から縄を渡され忠告される。


「しっかりと掴め。夜の砂漠は危険」


私は深呼吸してから縄を強く握る。私の未知への興奮は馬さえも抜くことはできまい。






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