第14話「牢屋にはワクワクと出会いが」

青嶺と坂倉は檻の中で少し距離のある位置で座っていた。


彼らは不敬を働き、こうして「王の目」という刑務所にぶちこまれたのである。


生気は二人以外からは感じないこの場所は

ジメジメとしており壁には爪で引っ掻いた後が無数に存在していた。


「どうしよう...助けに来てくれるかな」


坂倉は悩んでいた。いざとなったら別人格を

出せればここから脱出できる自信があったのでさほど怖がっていない。


「まとう。アリスを。きっと来てくれる」


青嶺は待ち遠しかった。大好きな彼女が自分のためにわざわざここまで助けに来てくれると考えているからだ。


そして彼も自分の力があれば出れると確信していたのでさほど怖がっていない。




牢屋に入れられてはや二日。食事が一日一食、それもパンのかけらということに彼は嫌気がさしている雰囲気を醸し出す。


「全然このパン美味しくないし...迎えはいつくるんだろう...」


彼女は平気だった。なんなら個人的に断食を何故か設けるぐらい食欲は薄い。


「そうだね。きっとアリスは来てくれるよ」


彼もまた平然としていた。なぜなら食事に困っていないからだ。

夜な夜な抜け出してこっそりと他人の家から食料を盗み、食べている。

そしてバレないようにまた元の位置に戻っている。

彼女が迎えにくるというステージを用意するために。



「なんか...ジメジメしているし暑いね...お風呂に入りたい」


彼女は嘘をついた。

あまりの気まずさから適当に話題を出しただけである。

この女、実は風呂に一週間以上入らなかったこともあるぐらいだ


「そうだね。お風呂は気持ちいいもんね」


彼もまた嘘をついた。

頭の中がアリスでいっぱいのくせに。

しかもこの男、お風呂派ではなくシャワーで済ませる派なのだ。



「ん?なにこれ」


彼女が座っていた場所に柔らかい所がある。

突っついてみるとやはり低反発の何か柔らかいものだ。


「これは布?ずっとベットだと思ってたけど...」


めくると女の人が倒れていた。まだ息はあるようだ。


「ええええ!!?私、知らない人の上で二日間寝てたの?!」


「だから僕の分のベット無かったんだ」


この二人は正直天然すぎるのである。


「ど、どうすれば良いかな?」


「んー。とりあえずこれとこれ、食べさせてみる?」


彼は後ろから水が入った木の水筒と適当に焼いた肉の塊を差し出す。


「ど、どこからこれを?」


「さっき落ちてた。」


「私も拾っておけば良かった...」


この二人に関して言うことはないだろう。


「ほら!食べて!」


「その大きさは口に入らないんじゃないかな...。まずは水を飲ませて...」


倒れている女は水で死にそうになり覚醒する。


「はぁはぁ、何か食べ物ちょうだい」


「これならあるけど...」


仮死状態だった彼女は勢いよく肉にかぶりつく。

それを青嶺は見て「アリスならなぁ」と考えている。

坂倉は「女の人なのに凄い食べっぷり...」

二人は変わっているのである。


「ありがとう、助かった。私はこのエジプトの元国王の娘、ネフィよ。」


「私は坂倉 紅音。こちらは青嶺 凛。よろしくね」


「よろしく...って言いたいけどここで馴れ合ってる暇はないわ。とりあえず早く出なくては...この国がハネス神官団に乗っ取られてしまうわ」


「あ、私達を捕らえた人達?」


「そうね。奴らは"ハネス"という神を復活させようとしているのよ。私の父、元国王は反対していた。なのに...今は勢力が増している。」


青嶺は欠伸をしながら呟く。


「ここから出たいの?なら僕が出してあげるよ」


「そんなこと出来ないでしょ。いい?まずは看守がきた時に...」


彼女が話し終わる前に彼は鉄格子を曲げて牢屋からゆっくりと歩き出る。


「ほんとはここで待っているのも良いけど人を助けたっていう方がアリスに好かれるかな?」


「そうだと思うよ。ほらネフィさんも。はやくはやく。」


彼女は驚愕して顎が閉まらない。

とんでもない人達と出会ってしまったと考えている。事実そうだ。


「わ、分かったわ。その前に待って。親衛隊が同じく捕まっているはずなの。彼らは力になるわ。お願い。助けて」


「良いけど。どこの部屋?」


「わ、わからないわ...」


坂倉は耳を立てて音が近づいて来ていることに気づく。


「誰か来る」


「じゃあ僕がやっとくから探しといて〜」


簡単に言うが彼にとっては簡単だ。看守は声も出せぬまま倒れていく。


「貴方達...何者なの?」


「え?名前言わなかったっけ。私は坂倉...」


「もういいわ...」


三人の足が止まる。


「ここよ。まぁ。なんで怪我。どうしてこんなに無茶をしたの?!」


傷だらけの男達が牢屋の中で倒れている。

何度か反抗したのだろう。腕が切れている人もいる。


「お嬢様...お待ちしておりました。ですが私達はもう...この傷では...」


坂倉が青嶺の肩をとんとん、と叩く。


「ねぇ。傷治せたりしない?ほら。なんかできそうじゃん」


「癒し系は無理かな〜やっぱアリスじゃないと」


「話しが通じない...看守が持っていたりしないかな?」


さっき倒した看守の見ぐるみを剥がすが何も出てこない。


「どうしよう。流石にこのお男達を私達だけで

運ぶのは...」


奥の牢屋の方からガシャンガシャンと何かを叩きつける音がする。


「亜蘭ならなんとかできるアル。旦那。まずはここから出してくれるアルか?」


三人は奥にいる身長の高そうな女を見る。黒いチャイナドレスと赤くて丸いサングラスを纏った彼女はニヤニヤと三人を見つめている。


「貴方は...ハーフ?」


「初めに聞くのはそれではないとは思うわよ...」


「yes!!亜蘭はイギリスと中国のハーフよ。出してくれたら協力してあげるアル。」


三人は緊急作戦会議を後ろで行う。


「あんな人...私が王妃の時に見たことないから最近捕まったんだと思うわ...でも奥の方にいるということは凶悪なはず...」


「良いんじゃないかな?僕がいるし」


「しっかりと交渉すれば良いと思う」


「分かったわ。」


ネフィは牢屋越しの彼女に手を差し伸べる。


「私に協力してちょうだい。この国を救うまでよ」


「alright !任して旦那!」


彼女は手を取り交渉は成功する。


「じゃあ僕が開けるから。」


「ふぅ〜。ここの空気はworst。meの名前は亜蘭であるよ。で。ここを出てどこへ行くのでアルか?」


「そうね。レジスタンスを集うわよ。アイツらに対抗するために」


「ok.まずは彼らの傷を治すアル。」


彼女は何かを唱えながら目を瞑り、手を差し出す。すると赤い光と黄緑色が混ざりつつ彼女の手の中に収まり、それを彼女は怪我人に投げつける


すると傷が元からなかったかのように無くなっていく。


「凄いわね、貴女も魔術使いなのね。」


「んー。この二人もそうでアル。」


何故か二人が魔法少女だと見抜いた。だが肝心の二人はその発言を気にせず外に出ようと

ずかずかと奥に進んでいった。


そして彼女は誰にも聞かれないほどにぼそっと呟く。

「面白くなりそうでアル。






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