第12話「親愛もタブー」

薄暗い地下道にて水が滴る音が二人の間を

響き渡る。ぽちゃん。ぽちゃん。と軽い

メロディーだが状況は異なっていた


「や、やめろ!俺はお前に何もしない!なぜ

俺を襲う!?」


「お前が...魔女狩りだから と言えばいいか?」


「...!?アンタは魔女でも魔法少女でもないだろ!なら何故...っ!?」


「ああ。そうさ。俺は『記憶の家』に所属しているからだ。魔力の源でもある彼女達は

俺のものなんだよね。あ、でも今回は。狙ってないな。」


「な、なら俺を殺す理由はないだろ!」


がいないと困るんだよね。だから」


彼は頭に銃を当てたままだった手の小指だけを動かす。

銃声が反射して彼の周りを飛び跳ねている。

それは彼にとってはあまり驚く要因にもならない。

血もいずれ水と時間によって流されることを

彼は知っていた。


「...そう。彼女がいないとね。は倒せないから。」




飛び跳ねている鮮血や焼けた匂いを嗅ぐと

「血を流すことも、あなたに会う事もタブーなのか。」と時々考えることがある。


俺達はただひたすらあなたに会うために魔力を集める。そして記憶の中にある"あの家"で集まり

あなたを囲うのだ。


あなたは約束してくれた。ならば俺も約束

しなければならないだろう。だからこそ

記憶の家をもう一度、もう一度。


俺の存在がタブーでも構わない。

血が跳ね返ってこようが構わない。

死んでも構わない。

誰もが俺を恨んでも、呪っても構わない。


タブーの"あなた"とまた会えるのなら。



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「そういえば自己紹介がまだだったな。

俺の名前はセナ。」


彼はそう言って私に握手を求めてくる。だが私は握手が好きではない。何がついているのか、何を触ったのか分からないからだ。


「あなた達には協力するけどまずは私の仲間を助けなきゃいけない。もし神官団に捕まった場合、どこにいく?」


握手されなかったからか、彼は困り顔をしたがすぐに話し続ける。


「『王の目』ってところに行くだろうね。ただ今行っても無駄死にするだけだ。」


「じゃあどうすれ」


「話は最後まで。今考えているのはソルさんの

知り合いにとある馬を飼っている人がいる。

その馬はこの国の最高峰の馬よりも早いらしい。もし助けて逃げる時はどうする?」


「なるほど、逃走用の馬か」


「そうだ。だからその人の元へ行く。そして

馬を借りれたら〜そうだな。『王の目』がどこにあるか聞かなきゃな」


「一般人や旅人は知らない場所なのか。」


「そう。計画的にはとある偉い人だけのパーティーに参加して聞き出そうと思うんだ。

まぁまだ日があるから今は逃走用の馬に集中

しよう。」


「了解」


なんとか数日生きてられるか?あの二人は。

まぁ坂倉の別人格の頭脳と青嶺の強さがあれば

逃げてこれそうな気もするが...

今は最悪なケースを考えて行動するしかあるまい。





「ソルさん。はい。今日の晩御飯」


「わぁ!ありがとう!買ってきてくれたの?」


仲の良さそうな二人を私は少し離れたテーブルから見ていた。この二人は恋に落ちているのか?なら面白い物語になりそうだ。

旅人は危なかしい性格だけれども村1番の女に惚れている。だがその性格ゆえ愛を差し置いて

危険に導かれている...と言ったところか。


私は出された水を飲む。砂が混じっていて飲めたもんじゃないがソルの笑顔を見ていると余計なことを言うのもな、と思った。


私は現状ソルを気に入っている。

裏がありそうでもなければ何かに依存しているわけでもない。

私は誰かに当てはめて考えてしまっているのかもしれないな。


私は基本人に嫌がらせをするのが好きだが

それは気に入らない人物だけだ。

気にいる人物などいないと言ってもいいが

「全てを嫌いながら生きるのは辛い」と大切な人に教わったことがある故だろうな。


ソルさんがパンを持って裏手のキッチンへ

向かっていくと一人になった彼は私に近づいてくる。


「彼女に惚れているのか?」


彼は私の問いに目の動きを止めた。だが笑顔の目にすぐさま変える。


「どうだろうかな。俺は旅人だ。女と場所に惚れたらそこが骨を埋める場所だ。」


彼なりの価値観なのだろう。随分と長いこと

旅をしてきたのだろうか。なにやら訳ありと言う感じはピンピンしている。


「そんなことより、俺からの支給品だ。まぁ

元は商売用なものなんだけど」


彼が後ろから取り出しのは剣だった。


「これは...」


「それはどんな炎をも切れる剣。そこに紋章があるだろう?太陽の。れっきとした物だ。」


商売人でもあるのだろうか。悪くない剣だ。


「どうして私に?」


「これから...血は流れるだろう。だから武器は必要だ。身を守るためにも」


「あんたは大丈夫なのか?この剣を渡して。

素手で、とかは言わないよな」


「ああ。もちろん。俺は旅人だから色々な場所にいって学んできた。それから魔術にも精通していてね。見せてあげよう。俺の力を」


彼は何やらぶつぶつと口もとで唱えている。だが何も見えない。はったりか?と思うと


「浮いてるよ」


私は足元を見ると浮いていた。どうやら魔術は本物のようだ。


「凄いな。私にもそれはできるのか?」


「ああ。できるだろうね。だがまずは馬だろう?馬は浮かしても早くならないよ」


笑う顔を見るにどうやらソルに本気で惚れているようだ。私と彼女の前で見せる笑顔が

違っていたからだ。


「...あんたは血が流れる場面に遭遇したら

ソルと避難しろ。それが役目だ」


「...そうしたいが俺も旅人でね。色々と

信条はあるのさ。こればかりは譲れないな」


「そうか。わかった」


に促すのは

馬の耳に念仏だろうからやめておこう。


これから会う馬には青嶺と坂倉がいかに

馬鹿かは念仏のように話すさ。


「じゃあ。そろそろ行こう。ソルさんが

気づかないうちに。気づくとついてくるだろうから」


「ああ。」



私は剣を携えて彼と共に部屋から出る。

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