第7話「発明は悪魔の囁きか、人々の笑い声か」

私は後悔している。今この手紙を書いている私は無数の被害者によって押し潰されているように瓶の中で息を殺している。


私は懺悔している。このような結果を予測しておきながら回避せず、データに示されているのに関わらず経験則をしてしまったことを。


私は泣いている。私だけが泣いているのではない。無数の悲鳴と叫び声、罵倒に賞賛が入り混じった声が私を離してくれない。


誰かにいつも覆われているようだ。


誰かにいつも囁かれているようだ。


誰かにいつも嘆かれているようだ。


誰かにいつも恨まれているようだ。


誰か


誰か


誰か私を消し去ってくれ------- 坂倉〇〇











私は中庭から聞こえる笑い声を避けながら裏手にある道を進み教室を目指す。ここの道は隣には木々があり、滅多に誰も通らない。唯一この道だけはゆっくりと土を踏みしめて歩くことができる。


教室へつくと授業開始の十分前にもかかわらず大勢が席に座っている。私は空いている前の席は向かい隣の椅子にカバンを置く。


周りの笑い声や話し声を避けるようにヘッドホンをつけ、授業開始を待つ。だが壁は破られわたしの心へ声は届いてくる。


私に友達と呼べる人物はいない。一人が好きだ。大学では自分の好きなものをとことん学べると聞いていたはずなのにそんなことはなかった。


過去問さえあれば授業に出ずに好成績を修めるものや出席はしているものの隣同士ふざけ合うもの。何が勉強のためなのか、大学はなぜゆえあるのか分からない。


連休が開けたとて人数が減るのは大体一人で行動していたもの達だ。そしていつも通り前が開くのだ。




「そこの君、これはどういうことだい?」


前の方の席にいた私は名指しされる。私は完璧に答えただった。


「少し違うね。おい。そこの後ろ!うるさいぞ。お前が答えてみろ!」


「そこは〜」


彼の答えはあっていた。授業中私語を慎まず他人の勉強を邪魔していた彼がだ。楽しそうに話し合っていた彼がだ。


私は自分が愚かだとかということより何が正しくて何が悪いのかの見境がつかなくなっていた。


私は孤独だったのだ。


誰にも悩みを打ち明かすことなく、誰にも幸せを共有することなく。はたまたネットを使って誰かと交流するわけでもなく。


ただひたすら孤立していた。いや世の中に適していなかった。


今でも後悔している。この時、勉強に力を入れるのではなく素直に人々と交流するべきだったことに。




あの授業の出来事が忘れることができない私は帰路についてからすぐさま勉強を始めた。

ああ。この時図書館なのでしていれば出会いは会ったのだろうか。今になっては分からない。


ひたすら5時間しか寝れなかろうが寝ない日があろうか勉強し続けた。だがそれもには勝てなかった。


交流が得意なものたちは弱点を補いあい、得意を伸ばしあっていく。うまく行けば自分の分身を使っているようなものだった。二倍、三倍の時間を生きる彼らと私一人だけの世界では時の流れが違いすぎた。


私は若さゆえそれに気づくことができなかった。




その日から大学には行かなくなった。ただひたすら空中を眺める日々だ。家の中で動くときはトイレやご飯をとりに行く時だけ。だがそれが心地良かった。そして人が心地悪かった。


そんな生活を半年間続けた時、私はたまたま持っていた参考書が床に乱雑に置かれていたことに気づく。誰がやったのか今でも分からない。私はその参考書に手をやると涙が急に溢れ出した。


私はただ学びたかったのだ。それを許さなかったのは自分なのに。


私はその日、ひたすら泣き続けた。参考書を胸に抱きながら泣き続けた。どんなに泣いても声は届かない。私が全て遮ってしまったから。


私は人生で初めて後悔をした。


次の日から休学していた私は復学し、年下と同じように学び始めた。人々の声や近さは怖かったが私には学びとあの裏道があった。


そして運が良いことに隣の人に話をふられ、愛想なく返してしまったにも関わらず好意を待って話しかけてくれる人物と出会った。


私はその日、友達を学んだ。


その日から友達と初めて学食でご飯を食べたり勉強を教えあったり、世間話をしたりした。彼も私とおなじで物理学者になりたいらしい。私は彼を心からサポートすることを誓った。

はずだった。


どんなに努力しても彼には敵わなかった。何年も経つにつれて彼とはどんなにも高い壁が私との間にあることを実感し始めた。


私は焦った。友達を友達として見れなくなったからではなく、自分より上の存在が身近にいたことを。



ある日、不眠症の私の前に悪魔が現れた。何かの比喩ではない。本物だ。彼は言った。

「才能をやろう。超えたいやつを超えろ」と。


その後夢だと思い寝てしまったのだが朝起きるとひらめきが沸くようになった。最初はただの耳鳴りに過ぎなかったが途端にアイデアが頭の中で沸くようになった。


まず答えや結論が差し出されその後に理由が出てくるような感じだった。

おかげで私は成績向上させ、素晴らしい論文を作り上げた。

友達と私は入れ替わっていた。


院を卒業した私は国の指導下において研究者となった。研究しているのは新しいエネルギーだった。

もしここで友人の話をしっかりと受け止めていたのなら私は幸せだったのかもされない。


私は新たなエネルギーを見つけた。それにより知名度も金も溢れるほど手に入れることになる。

いつだったか覚えていないが顔の良い女と出会い、子供を授かった。

名前を「坂倉 紅音」とした。


私の人生は鰻登りだった。がいつかは崩れ去る。

私は新兵器に片足を突っ込んでいた。そしてそれは多くの人を殺した。

私が発明したせいだった。友人はエネルギーを悪用されるな、と忠告してくれていたのに私は無視していた。


多くの批判が私にきた。そして多くの人が賞賛した。また多くの人が私を恨んだ。

妻は話題になるや否や子供を置いて出ていってしまった。私は何一つ分からない脳みそで子供を育て続けた。

私はしんどかった。外を出ればいつ襲われるか分からず、家では子供が泣き続ける。


だが別の場所では多くの人が悶え、苦しみ、泣き喚き、悪魔に襲われているはずだった。


私は何度もこの世界から消えようとしたが子供の存在が大きかった。それでももう自由になりたかった。最後の後悔は子供の成長を見れないことだ。

最後の過ちだ。こんな無責任を許してほしい。

              -------坂倉 冬貴







私は孤児院を出る前にもう一度だけ父からの唯一の形見である手紙を読み直した。

別に恨みが湧いてきたりはしない。この人なりの人生なのだろうと理解しているからだと思う。


私は手紙をしまい、迎えの車を待つ。

私も父とあまり変わらないようだった。遺伝子、いや血縁と悪魔からは逃れられないらしい。


彼は馬鹿なことで悪魔と契約した。

だが私はさらに馬鹿なのかもしれない。

契約した理由は






ただこの世界にひらめきが欲しかったからだ。




車に乗りながら私は魔法少女としてやっていけるのか不安になる。

ナイトメア学園で生きていけるのだろうか。

臆病な私が周りに馴染めるのか。

悪魔の子でも他人を陥れないか。

だがひらめきが何とかしてくれるはずだ。





       が。

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