第6話「裏切りの校外学習 2」

次の日の朝、私は人狼を言い当てたグループを探しに独り行動していた。


二つのグループが共に何かを目的として組んで行っているなら話は早い。近づかなければいいだが実際のところ話はそう簡単には行かないようだ。


朝の時点ではどちらとも交流したりしている様子はない。さらに言えばお互い知らないように振る舞っている。隠すためと言えばそうなのだが。


朝食を取る大広間では二つのグループはかなり離れている。端から端、とまでは行かないが十分な距離だ。

手紙を回している可能性も考えてある程度の人のラインを見ていたがそういう訳ではなさそうだ。


「昨日さぁ〜、坂倉さんと青崎さんはどこに行ってたの?」


間宮に質問された坂倉は動作が止まる。それではかえって怪しいだろうが。


「こいつが自分の部屋を迷ってたから道案内しただけだ。」


「じゃあなんで青崎さんは後から帰ってきたの?」


「一人の時間が欲しいんだ。悪いか?」


黙々と食べていた林道が口を開く。


「それでは俺たちはお前のことを疑うだけだぞ...それに言いたくないが俺は誰かにつけられているような気がする」


坂倉はまた突然動きが止まる。それやめろ。


「坂倉さん、どうしたの?さっきからいきなり止まって。怪しいよ?」


「わ、私も誰かに付き纏われているような感じを昨日からしてて...」


誰かに付き纏われている、か。

黒幕は私達も射程圏内に捉えられているようだ。

はたまたグループの誰かを狙っているようだがな。



朝食を終えて私は間宮に、坂倉は林道に尾行し始める。

間宮はただ一人で紅茶をロビーのソファーで飲んだりしているだけだ。


赤石?と呼ばれている女子とは長く話していたが世間話に過ぎなかった。

それにすれ違いざまに誰かと話したりしているがあれは知り合いだろうか。

聞こえてくる限りではただの会釈にしか聞こえない。





「ここは...倉庫室か?」


間宮は昼食の前に何故か倉庫室に入る。

倉庫室はこの洋館の中でもかなり奥手にありじめじめとしている。

逆に言えば誰かを絶好の場所だ。


音を立てないように引ドアを開ける。間宮は暗い片隅で何か、物音を立てながら行っているようだ。


「誰なの?そこにいる人」


音は出していないはずだ。窓からの漏れ光のおかげでドアを開けても別段部屋は明るくならなかった。どこでしくった?


「私さ。青崎。あんたをたまたま見かけてな。この部屋に独りで入って行ったもんだから気になってな。」


「私はただ暇になったから絵の具とペンを取りに来ただけだけど?私のこと疑っているの?」


「ああ。でも今回ので違うってわかった」


「私は逆に青崎さんのこと、疑ってるよ」


「私は人狼だって言っただろ。隠していない。疑う必要がない。」


「それなら証拠だしてよ。人狼の」


はぁ。これで私が人狼だと明確化されてしまうがやむを得ない。私はポケットから赤文字で人狼と書かれた紙をゆっくりと出す。


「ほら。これだ。なんなら持ってていいぞ。私はあんたを信用している。」


「...ふーん。分かった。私も青崎さん信用するね。」


これで間宮は白に近いか?後試さないといけないのは林道。あいつか。彼が黒かどうか試して違った場合、他のグループに接触しよう。


「そういえば林道。あいつは何かを探しているらしいぞ。」


「何かってなに?」


「わからない。だけど掴めた!とか独り言言ってたから何かこのゲームについて分かったんじゃないか?」


これは嘘だ。だがいい。嘘は時として新たな情報となる。これで間宮は林道に関心が行くだろう。そうすれば少なくとも情報が私のところへ来るはずだ。





昼食をとっている間、私は坂倉にこっそりと手紙を渡す。あの人狼と書かれた紙だ。


手紙の内容は「この後、誰にも掴まれずに例の場所に来い」

読み終えた坂倉は急いで私の裾へ手紙を移す。






「間宮さんは白ってことでいいの?」


「いや、どうだろうな。とりあえずあっちは私の人狼のカードを見て信用はしているはずだ。もしかすると黒幕の手伝いをしていたりな」


信用は、している。


「林道の方はどうなんだ?」


「林道くんは...よく分からない。落ち着きがないし...本を読みながら寝ちゃってたりしてた...」


「寝不足か?」


「どうなんだろう。確かに女子3人に男子1人は緊張して眠れないのかな」


そんな簡単な問題ではないだろう。林道の方が怪しさが増してきたか?


「今日はもう尾行はやめだ。間宮とお互い潔白を言い合ったのに変にバレるとさらにめんどくさい。」


「りょーかい」


「さてと、私は人狼を見つけたグループに接触してくる。聞き出すんだ。どうやって見つけたかを」


「そんな簡単に言ってくれるかな」


「なに、手段は選ばないさ」


そのためにはが必要だな。




相変わらず何もおかしな点はないな。

2グループいるが女子だけで構成されていて尚且つ気が弱そうな方に接触しよう。男がいても気が強いやつがいても良いが...事はできるだけ早く終わらせたい。嫌な予感がする。


「なぁ。そこのグループ」


「ん?私達?なんのよう?」


「どうやって人狼を見つけた?」


「...言うわけないでしょ。貴女が悪用するかもしれないのに」


ということは何かあるな。法則か、方法が。悪用ということは何かに頼っている。


「身を守るために知りたいんだ。誰かを蹴落とすとかじゃない。」


「無理な話。貴女に教えたところで人狼を見つけれるようになるわけじゃないもの」


「話を変えよう。もう一つのグループも人狼を見つけたよな?それは何故か知ってるか?」


「えぇ。もちろん。でも彼らのことは知らない。本当よ」


なるほど。共通点があるも互いに面識がないか。これで分かった。こいつらはで人狼を見つけたんじゃない。


「話はもうやめにしようか」


「えぇ。こんな薄気味悪いところで話すなんて最悪。」


当たり前だ。わざとお前らが周りの人間から離れるタイミングで話しかけたんだから。


私は急いで真ん中にいるリーダーのような女の後ろへ回り込み、首元にフルーツナイフを押し当てる。


教えてもらった?人狼の正体を」


「わ、私は何も言えないわ。」


私は首元のナイフを少し押し込め血を出す。


「あなた!正気なの?!」


「ああ。この学園に来る前から正気さ。早く言えよ。本当に殺すぞ」


「無理でしょ。そんなことやったら退学だもの」


別の女が口を出す。それを待っていたんだ。

私を舐めるなよ。


私はさらにナイフを体の内部へと押し込み、血が溢れ出す。


「やめなさいよ!!」


「早く言え。死んだお前に価値はない。私はやる時はやるぞ」


「、っ、そうよ!誰かから教えてもらったの!でも私達も誰かは知らない!昨日部屋に何故か私達の嫌いな人の名前が書いてあって、しかも人狼って書いてあったのよ!」


「...面白半分で試したわけか」


「えぇ。解答を外しても問題はないわけだし。せいぜいしたわ。嫌いな人が消えて。」


私は首元に押し当てていたそれをポケットにしまう。


「もう一つのグループも同様にか?」


「...確証はないけど多分そうよ。それ以外難しいわ」


こいつらにもう用はないが、黒幕がいずれ消してくれるだろう。それは今日かもしれない。










ひと足先に夜ご飯を食べ終え、コーヒーを片手に立っていると


「アリスさん!!大変!!人狼を見つけた二つのグループがどちらとも逆に人狼を当てられた!!それに林道くんと間宮さんが!」


坂倉は例の待ち合わせ場所に来るなり急いで駆け寄ってくる。夜ご飯を食べた後だと言うのに吐かないのか?


「あの二つのグループが消されるのは分かっていた。黒幕の手口を誰かに伝えてしまった、あるいは伝える可能性があるからな。で、林道と間宮はどうした?」


「ふ、ふたりは...







ナイフで刺されて...」



「なに、二人ともか?」


「ううん。夜ご飯の時に二人来なかったよね。林道くんはお風呂場で頭を刺されてもう助からないって...。間宮さんは胸を刺されたけどいまギリギリ助かってる。」


「病院に連れて行ったのか?」


「いや、試験中だから誰一人出さないって...」





正気じゃないな。黒幕も。この学園も。

だが面白い。

次は私のターンだ。


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