第3話「ひらめきは悪魔のささやき」

悪魔の子が悪事を働いた場合、

罰せられるのはその子供なのだろうか。

それとも悪魔の子を産んだ親なのか。

そもそも

私達は彼らを罰することができるのだろうか----




 






気色の悪い朝を迎える。どんよりとした気温に空は薄暗い。


カラスが泣き喚き花は咲き乱れる。

そんな日に私は入園を果たす。



私は腐ったネズミの死骸を横通りながら校長室へ進んでいく。


そして校長室には気色の悪い肖像画ばかりだ。反吐が出る。


「ようこそ。これはこれは。君。いや、ちゃんの方が嬉しいかな?」


前にいるのは校長か。お調子じじいみたいだ。


「ちゃん付けしてみろ。お前の子供がちゃん付けされる前に消してやる。」


「私の嫁は不妊でね。残念だね。青崎アリスちゃん。君が僕の娘になるかい?」


「悪いが私の母親は不妊じゃなくあばずれだったからあんたには無理だな。それともあんたの嫁はあばずれなのか?」


私は目の前のデスクに置かれたボールペンを見る。これであいつを刺せるはずだ。


「おっと。そのペンに芯はないよ。2度目は勘弁だからね」


その性格じゃあ私みたいなのに刺されまくるだろう。


「他愛のない話はよそうか。君は悪魔を宿している。だからここ『ナイトメア学園』にきた。いいね?」


私はこっそり後ろに組まされている手錠を外そうと奮闘しているが中々外れない。

サツのより丈夫か?


「手錠はこの話が終わった後外してあげるからね。まずここ、ナイトメア学園には君みたいにを抱えた生徒が大勢いる。

迷い込んだ隣町の人が地獄と勘違いして死んでしまうぐらいにはやばいのさ。

正直な話。君には悪魔の素質がある。

ということは魔法少女に適性があると言っても構わない。」


「何が言いたいんだ。私に魔法少女になって

怪物やバケモン、あんたの嫁でも消せば良いのか?」


「いいや?そんなことはしないよ。」


彼は君の悪い顔で笑いながら答える。


「君には難しいだろうからね。

君達生徒がすることはただ一つ。

堕天使様の使命を守ることだ。

君は悪魔を宿している、いや抱えているんだ。

そして契約をしてしまった。ならば使命は守ることだね」


「守らなければどうなる?」


「君みたいな生徒は内側からひっくり返って死んでいったさ。

血の後片付けがないからうちとしては楽なんだけどね。

でも君は大事な戦力になるから言ってるんだ」


まぁいい。どうにか悪魔との契約を解除する方法をここで見つけるだけだ。

そして面白い事を見つけ出すんだ。


「で、その使命はなんだ。」


「君は別世界を信じるかい?」


つまらないことを聞く男だ。こんなのと結婚した嫁は大バカらしい。


「あるのさ。別世界が。そして私達はにもいる。

私達がいるこの世界は枢軸世界と言って他の世界にどんどん分岐して行っている。

要は木の幹が私達のいる世界で木の枝が別世界なのさ。

そんな様にどんどん分岐していくせいでたまに世界がズレてしまうことがあるんだ。

日本にペリーが来た年を覚えているかい?」


「1853。嫌なゴミだ。あんたは」


「いちいち煩い悪魔だなぁ。そうさ。

だけど新しく派生したN301世界ではペリーは来日しなかった。

ウイルスのせいで来れなくなったわけじゃない。歪んだのさ。

歴史異変者トリガーのせいで。

私達の世界は枢軸世界と言ったよね?

堕天使様は枢軸世界と同じ結末を迎えるように別世界をコントロールしている。

それは何の目的かは私達には分からない。

ただやることはそのトリガー達を殺すんだよ。

どんな手段でも使って。

歴史を良い方向に変える善人であれ、犯罪者であれ。」


「...ジャンヌダルクはトリガーだったのか?」


「鋭い質問だね。だけどそれは君の目と足で理解するといい。

そのうち別世界に行くことになるだろうから。おっと、パパとママを連れてきちゃだめだよ。」


本当にこいつは私をイラつかせる。丁度いい手錠も外せた。私は彼に襲いかかる。


「君だけじゃないのさ。は。僕は魔法少女にはなれないけど悪魔にはなれる。理解しとくんだね。」


彼は私の攻撃を軽々と交わし椅子で私の頭を叩きつける。


「...っ!?」


「ここを今まで過ごしてきた生ぬるい学校だとは思うなよ。いつまで羊水に浸ったんだ?」


彼に髪の毛を掴まれたまま顔を上げられる。


「...もう少しで悪魔の子が生まれるから楽しみにしてな」


彼は私の言葉を聞くなり笑みを浮かべ髪の毛を離す。


「本当に素晴らしい生徒だ。だからこそ可愛がらなきゃね。」


「ちっ...!」


今度はお腹を蹴られる。今までも男性に蹴られたことはあったがこいつは尋常じゃない。


人間をやめている。


吐き気が込み上げた私は何も食べていないのに吐き出す。


「...掃除は勝手に誰かがしてくれるさ。私は忙しいので先に失礼するよ。良い学校生活を〜」


私は絶対にあいつを殺すと決めた。






「ここがお前のロッカーだ。

そしてその隣の教室、1Aがお前のクラス。

さっさと自己紹介を終えろ。全員に話さなきゃ行けないことがある。」


私の前にいるこの女は担任。


名前は聞いていない。


先ほどの鬱憤をこの女にぶつけようとしたがこいつも手強かった。


あいつほどではないが長引くと面倒だから

やめた。


勝てなくて辞めたわけではない。


教室に入ると中は普通の教室だ。

別段落書きが壁中にあるとかはない。


「今日からお前らの餌と仲間になる青崎アリスだ。空いている席は一番右後ろ。坂倉の隣だ。

早く座れ」


ようやく落ち着けそうな位地だ。前に誰かいるのが気に食わないが消せば良い。横もだ。


前の男はメガネをかけているガリ勉のようで、横の女は小さい身長に本を読んでいる。


「わ、私は坂倉 紅音あかね、そ、そのよろしくね!!」


普段ならこういったものは無視するが彼女からは何かを感じ取れる。


何かがある。


彼女に裏の顔があるとかではない。


...気のせいだろうか。まぁいい。


「私の邪魔したら覚えとけよ。」



「坂倉。青崎に後で学校と寮を案内しとけ。 しない場合はお前に罰を与える。分かったな」


「そ、そんなぁ。どうすれば...」


私はひたすら彼女を睨み続ける。


すると担任も同じように彼女を睨み続ける上、殴るふりをして見せた。


どうやら本当にここは地獄のようだ。


法律もモラルも知ったこっちゃない。


生き残れるのは賢いやつと悪魔だけだ。



「突然だがこのクラス全員に伝えなければならないことがある。

明後日から校外学習を行う。

場所は京都だ。

入学して寮に荷物を置いたばかりだっただろうが必要なものだけをまとめろ。

明後日の朝7時このクラスに集まれ。

今日と明日の授業はなしだ。解散。」









「あ、あのぉ。寮の管理人さんに聞いたら部屋がいっぱいみたいで...」


「お前が出ろよ。そしたら空くだろ」


「?!わ、私だって、に、荷物が多いし...それでなんだけど私は出ないけど私の部屋です、過ごす?」


「冗談じゃない。ルームシェア?私は外で寝るからいいさ。」


「外だとどんな所でも構わずにトイレする人に会っちゃうかもだけど...」





私は坂倉の部屋に入る。思ったより大きい。


場所は問題ないが壁が必要だ。


木材を取ってくるとしよう。


「ここから隣町までどれくらいかかる?」


「えぇ?、!んーっと歩いて50分ぐらいかな?で、でも外出許可がなきゃ出れないよ?」


「じゃあ木造の建物はこの学校にあるか?」


「あ、あるけど...飼育員さんの泊まる家なら」


「案内しろ」



メキメキと音を立てながら至る所から木材を

剥がす。


「な、なんでこんなことに...」


私は飼育員の小屋から少し木材を拝借する。


壁や天井の重なっているところを剥がす。


床も土が少し見えても良いだろう。


「ひどいよ...」


私は彼女を壁に押し付ける


「こんな小屋に住んでいる方が可哀想だ。なら壊してあげた方が新しく建ててもらえるかもしれないだろ?」


「そ、そうかなぁ...」





木材は少し余った。がかなり良い壁が出来た。薄いが「音を出したら殺す」と伝えたから大丈夫だろう。

後は玄関から二手に別れる時にカーテンがあったらさらに良い。


校長室に上質なそれがあったはずだ。


今夜忍び込もう。










「か、カーテン作ってくれたの?ありがとう」


「余ったから作っただけ。感謝しないで」


しめしめ。これで彼女も共犯だ。


嬉しそうに何も知らずに使ってくれた方がこちらも楽で仕方がない。




しかし...やはり即席で作った壁だ。


彼女の何かペンを走らせる音が寝ようとしている私の耳に入ってきて邪魔で仕方がない。


私は壁を思いっきり叩く。


「うるさい。音を出すなって言ったよな?」


「趣味の小説書きぐらい許してほしいな...まだ夜の九時だし。ご飯も食べてないし...」


私は彼女の頭を彼女の勉強机に押し付ける。


「もっと静かにかけ。分かったか?」


彼女は頭をぶつけたせいか動かない。


目を開いたまま数秒間止まる。


そして立ち上がり今度は私を壁に押し付ける。


「次の校外学習、誰か殺される。それもこの学園の生徒によって。」


まるで別人のように言い放ち彼女は倒れ込む。


「何を言ったんだ?もう一度言ってみろ」


「ごめんなさい...自分でもあんまり分かんなくて。記憶にはあるんだけど突然思い浮かんだら別の自分が動き出すみたいで...」


彼女はどうやら変な癖を持っているようだった。


いや変な癖ではないのかもしれない。


正当な予言であった場合、私が感じた彼女の違和感はここから来ているのだろうか。 








 


(校長室にて)


「どうやら坂倉紅音と彼女はルームシェアしたようだね。」


指の爪を切りながら校長は話し続ける。


「いやぁ。意外なこともあるもんだ。

あんな子が他の子とルームシェアかぁ。

それもクラスの大人しい子か。」


「彼女は大人しくありませんよ。見かけはそうであっても頭の中では。」


「どう言うことだい?」


「彼女の父親はご存知で?」


「あぁ。坂倉〇〇。世間では"悪魔"と呼ばれているな。ある兵器を開発したことで。」


「えぇ。そのせいかは知りませんが娘の彼女に悪魔がやってきて契約した。

おかしい話ではないですか?」


彼は爪切りをやめ話に本腰を入れる。


「どう言うことだい?」


「ただの大人しい女の子が悪魔に狙われますか?例え父親がそう呼ばれても。」


「難しい質問だね。では逆に質問しよう。彼女には何かあるのかい?」


「えぇ。おそらく。彼女の父親はひらめくと同時に人が変わります。まるで悪魔に取り憑かれたように。」


「...それを受け継いでいると?」


「はい。ただ彼女は実際に悪魔と契約しているのでひらめきではないかもしれません。」


彼は指切りを机の棚の下にしまい生徒ファイルを取り出す。


「たまにいるんだ、悪魔から特殊能力を授かる魔法少女。

もし彼女とするなら青崎アリス、彼女も持っているだろうね。」


「何故です?」


「僕のこれまでの経験則から行けば強大な悪魔達はグループを組みたがる。

もし青崎アリスの契約した悪魔が普通のだったならば...

彼女を餌としかみてないことになる。」


「...それはないでしょうね。」


「同感だ。とりあえず今度の校外学習気をつけてくれ。〇〇○が出るからさ。」

 

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