魔導士を捕食する夢見る街 ⑥
「もう一つ聞きたいんだけどさ? この魔導書を持っている人を目印に取り込んでるの?」
シエルが同人誌と言ってのけた現代に近いリクサーの書いた魔導書を見せてシエルは尋ねる。
「違う。魔力の高い単独でいる魔導士を選んでいる」
トリオンがほら見なさい、その魔導書はゴミじゃないですか! という顔をする。
「そっかー、偶然か、で今回はトリオンまで連れてきちゃったというわけかー誤算だったね?」
「否、魔物も取り込んでいる」
「魔物と言っても野良のオークとかそういう魔力の足しになる程度の魔物でしょう? そんなのと同じに見られるのは心外ですね」
今の時代で言えばトリオンの魔物としての脅威度は想像を絶する。
「僕からも提案をしようと思う。このラーディンシティははっきり言って存在する歴史だ。壊すのは忍びない」
シエルに冷や汗が流れる。ポーションで補給した魔力分もそろそろ尽きる。
「シエル!」「大丈夫」
まだ大丈夫だとシエルはトリオンにウィンクをして話す。
「僕とトリオンをこの街から出してほしい、この街の魔力供給に関しては僕がなんとかしてみせるよ」
歴史的遺産と言っても過言ではないここは重要文化財どころじゃない。
「残念ながら最優先命令に反している為、了承できない。魔力吸収タスクは実行している」
「どうしてもできないの?」「否」
「シエル、私と違って自分で判断ができるような高性能じゃないんです。諦めなさい」
「そこをなんとか!」「否」
「シエル、往生際が悪いですよ。そもそも問答できる相手じゃありません」
「頼むよ! お互いの為だって」「ならば、大人しく取り込まれるといい」
「そんな話をしている間に、貴方の魔力吸い尽くされちゃいますよ? もういい加減になさい!」
「お願い!」「その判断は私にはできない」
シエルも結果は分かっていた。
ただし、トリオンという最高の話し相手がいたので僅かばかり奇跡にかけてみた。
「ははっ! トリオン、ほんとにこの魔法ポンコツだね。術者死んだら停止させる方法ないじゃん」
はぁとトリオンはため息を吐いた。
「700年でも稼働し続ける魔法という一事象に関しては多少評価しますが、取り返しのつかない災害でしかないですよ」
「そうだね。これが魔法実験で吹っ飛んだ街の正体か」
管理する者がいなくなったのに永続的に夢を見続ける街。
「シエル、これはあなた達人間の業です。人間の魔法で終わらせてあげましょう」
もし、これが魔王軍の残した負の遺産であればトリオンは直々に破壊するつもりでいた。
「そうだね」
縁もゆかりもないラーディンシティという街だけど、シエルが人間の魔導士代表として、永遠に夢を見続けるこの街に引導を渡すべきであろうと分かっていた。だけど、吸われている魔力も相当だった。
結構疲れている表情をトリオンに見せるシエル、そんなシエルを見てトリオンは呆れながらに補足する。
「私も協力してあげます」
魔法でできた魔法の街、ここから脱出しようとすればこの街を中から壊してしまえばいい。
ただし、それができるのはこの魔法でできた街よりも強大な魔力で内側から破裂させる必要がある。
「この街の人達は何も知らなかったかもしれない。それはとても酷い話だよね? だから、僕は少なくともラーディンシティの姿を一生忘れないよ。僕によくしてくれたソフィアが次の回帰の時、素敵なパン屋さんになれる事を祈る」
“闇より生まれし有象無象にかの賢者は言った。我らは星の子、我らは星の友、我らは光‘
“故に我らは闇を駆逐する“
“
「「
シエルとトリオンは空に向けて光の矢を放った。そしてそれは天空に魔法陣を描き、そこよりこの世界を滅ぼす星々が堕ちる。
「強大な魔力量。これだけあれば、かなり長い間、この街の営みを絶やさずにいられる。この魔力量は……多すぎる」
魔王軍の軍勢を一夜にして滅ぼした魔法は伊達じゃない。それもシエルだけではなくトリオンも同時に放ったのだ。
マギア・コミュニティの狭容量をはるかに超えた魔法。
「停止! 魔法の停止を! このままでは最優先事項である街の営みが破壊される……」
「儚いものですね」「そうだね」
マギア・コミュニティはどうにかして現状の対策を行おうとしていた。
だが、臨機応変な対応が取れない欠点がここでも足を引っ張り機能停止する。
「……」
天使の姿をしたマギア・コミュニティの意志はシエル達を見つめる。
この天使はある種、創造主の命令を守り、この街を守り続けてきた神の使いだ。
「君ももう眠りなよ」
シエルはそう言うと、無詠唱のファイアーボールを放つ。
ゆっくりと、天使の翼が燃え落ちていく、700年、この街を守り続けてきた天使の最期。
魔力が完全に空っぽになったシエルは倒れそうになる。
「大丈夫ですかシエル?」
そう言ってトリオンがシエルに肩を貸す、それに静かに頷くシエル。
とはいえ、流石に疲労が凄まじい、世界がゆっくり崩れるのを見ながら意識が薄れて行った。
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