魔導士を捕食する夢見る街 ④
次の日も結局魔導士協会で情報収集。
トリオンが懐中時計を取り出して時間を見る。魔導士協会で魔導書に夢中になってからすでに十時間も経っていた。そろそろ帰らないかとトリオンはシエルの肩をツンツンと触れる。
「トリオン、僕はラーディンシティが無くなった魔法実験の真相。分かっちゃったかもしれない」
そう言ってシエルはあの同人誌、リクサーなる魔導士の魔導書を取り出した。
内容はかなりのへっぽこな魔導書であるが、記述とこのラーディンシティに関してはほぼほぼ真実が書かれている。
そしてシエルはもう一冊、この魔導士協会にある魔導書、いや術式設計書を取り出した。
「こんなの出ましたー! トリオン、著者見てごらんよ」
「えっ!」
そこの著者にはマルコー・リクサーと名前が綺麗に記載されていた。
「あのゴミみたいな魔術書を書いた?」
古本屋でシエルが叩き買った同人誌みたいな魔導書の著者と同じ名前。
「ううん、多分違うと思うよ。全然記述の仕方が違うもん」
さすが魔導士協会の蔵書だけあって、しっかりと綺麗に纏められている。
「では偶然、リクサーという名前が被ったという事ですか? それなら何故このラーディンシティについて知ってるんですか?」
ここは700年前に魔法実験で滅んだ街、なのに詳しくこの場所についてシエルが買い叩いた魔導書の著者は記していた。
同一人物じゃなくて、同じ名前を持つ者といえば答えは簡単だ。
「この素晴らしい術式設計書を書かれたリクサーの血縁者!」
そういう事になる。だいぶ遠い、祖先と先祖の関係になるのだろう。そして今はリクサーなる魔導士は落ちぶれて名前も残っていない。
「700年前栄華を誇った魔導士の家も落ちぶれましたか」
「ちょっと失礼な話だけど、そういう事だろうね」
もし、リクサーという名前が有名な魔導士であれば、あの魔導書は格安で手にいれられずこの魔法でできたであろうラーディンシティも拝めなかったかもしれない。
「もし、リクサーが今も名門の魔導士だったら、この魔導士捕食都市の事も広く知れ渡っていたかもしれないよね」
恐らく、リクサーの一族はこの事を長く歴史の証人として知っていたんだろう。
しかし、なんらかの理由でこの事を表に出す事ができなかった。
だから、あんなまどろっこしい方法でシエルのように興味を持つ魔導士を探した。
「ひょっとすると本当に凄い魔導士かもですね」
ぽつりと、トリオンの中でシエルが格安で購入した魔導書を書いたリクサーの評価を更新させた。あの中身があってない魔導理論などはハナから読ませる気がなかったのかもしれない。明らかに魔導書の中と関連性が薄いラクガキみたいな記述の方に目を向ける為に。
これはトリオンの憶測でしかないので、単に文章の才能がないだけかもしれないが……
「700年前、“生活魔法優先のお触れ“で職を失った魔導士は大勢いたらしいんだ」
「えぇ、戦闘魔法の優先度が下がりましたからね」
魔王が討伐された後、戦いが終わり、世界は急激に発展していく。
「王都ではエルフですら、職安に並んだとか」
「今だと考え難いですね。魔導士からしたら暗黒時代でしたでしょうね」
「うん。そこで、リクサー魔導士は無職の魔導士に新しい職を与えるのに、これを作ったんだ」
マギア・コミュニティという魔力で維持される集落。
「魔王軍と人間が戦っていた際、夜になると消えていたのはこの魔法でしたか」
魔導士の魔力を糧に集落そのものや、キャンプ地そのものを飲み込んで異空間化する魔法。
「狭い範囲を目的としていたそれを多くの魔導士を使って街、国を作ろうだなんて信じられない計画だったみたいだよ」
「ふむ、時に話の腰を折るようで悪いですが、シエルの使える一番強い攻撃魔法は?」
突然のことにシエルは少し考えてから、
「人類の叡智、無詠唱ファイアーボール。かな?」
「汎用攻撃魔法、その無詠唱ですか。シエルの年齢なら妥当か、ややたいしたものと言いたいですが、本当は?」
汎用魔法を自分の最強魔法と言ってのけるのはらしいが、シエルならもっとあるだろうとトリオンは聞き返す。
「うーん、
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