魔導士を捕食する夢見る街 ③
翌日、ソフィアお手製のパンを朝食で頂いて少し街の中を探索する事にした。
リクサーという魔導士がこの街にいるかどうか聞いて回りながら。
結果として、リクサーという名前の魔導士はこの街には存在しなかった。そしてもう一つ、この街はどこまで続いているのかという事。
それも簡単に結論が出た。この街は外に出られないようになっている。
というよりも、街以外の先が存在しない作りになっていた。
要するにここは作り物の世界であるという事だけが確定した。しかし、この作り物の世界を作る魔法をトリオンは知らない。
そうなると次にシエルとトリオンが考えるべき事は、この世界とこの世界にいる人々はなんなのか? 実在したラーディンシティなのか、それとも精巧に出来上がった仮初の街と住人なんだろうか?
これに関してもシエルとトリオンはそれぞれ別の方法で検証をしようと考えていた。
「シエル、これからどうするんですか? 一応聞いておきますけど」
シエルに止められなければトリオンはその検証をしようと目論んでいた。
今からトリオンが行おうとしている事を察したシエルは面白くなさそうな表情をする。要するに、誰かこの世界にいる住人を殺害すればどうなるのか? 実に魔物らしい合理的な考え方。
「魔導士協会に行くよ」
この世界にある魔導士協会で学べる魔法がどの程度の物なのか? 作り物であれば間違いなく雑な部分があるハズ、魔導士学園の生徒であるシエルなら尚不自然さに気づけるだろう。
「なるほど、考えましたね。私の考えも悪くないと思ったんですけどね」
「トリオンのはロックがすぎるよ。この世界に生きてる人が作り物じゃなかったら失礼だからね。検証の為の殺しなんてさ」
シエルの言葉を聞いて、トリオンはこう言った。
「失礼じゃなければ、殺しは肯定なんですか?」
それに否定も肯定もせずにシエルはにっこり微笑んだ。
シエルの思惑通り、ラーディン魔導士協会へとやってきた。
よそ者どころか、生きている時代の違うシエルとトリオンを思いの他、ラーディン魔導士協会は受け入れてくれた。
好きなだけ魔導書は見ていっていいと言われたので、手当たり次第に開く。
この世界が誰かによって生み出されたのであれば、その人物を超える魔法はここには記載がない事になる。
「中々いい魔導書だね」
このラーディン遺跡の調査をする原因となったシエルが古書店で買った同人誌みたいな魔導書とは大違いだった。
ヴァーテクス魔法学園の学生であるシエルもしばらく没頭する程。
さらに言えば、このラーディンシティがあった時代、トリオンは機能停止していたわけで、この時代の魔法に関してはあまり明るくない。そんなトリオンが無言で魔法理論の取得をしているくらいに品揃えがいい。
この魔導士協会で学べる中で注目したい事はシエルの時代に魔法の術式が短縮され汎用化されたいくつかの魔法の手順が恐ろしく古臭い事。
むしろ、昔は現代の汎用魔法の使用にこんな労力を使っていたのかと学べる。
逆に、シエルの時代では魔法の習得閲覧に特別な許可や免許が必要な物が平然と記載されている事、恐らくはこの700年内に失われた術式も見られた。
これがもし、作り物でここまで再現できるのか? というと答えはノーだろう。
「恐らく、ここはかつてのラーディンシティと考えていいでしょう」
「今尚かもよ」
「ふむ、シエルもやはりそう思いますか、実は私もそう思っていました。しかし、何故シエルはそう思われますか?」
「ざっと見て回ったけどさ、このラーディンシティ、魔導士いなくない?」
「ですね」
魔法全盛期から千年以上経った後とはいえ、いくらなんでも魔導士が一人もいないのはおかしい。
「予想通りというべきか、この街は魔導士を捕食してますね」
どうやって? という事はシエルもトリオンも分からない。
「寄生系の魔物みたいに魔力が吸われてる感じもないんだけどね」
そういう事を経験したかのようにシエルが魔力に変化がないと言う。
「えっ? もしかして、わざと寄生させた事あるんですか?」
多分、シエルの事だからあるんだろう。
だとしても強制的に魔力を自ら吸わせるなんて考えられない。
「学園の授業でディバイドスライムを飼っててね。興味本位で」
「…………やめなさい」
そんな脱線した会話をしながらも二人は本を読む手を止めない。
各々、ここじゃないと習得できなさそうな魔法が数多くある事。
そして、この魔導士協会にすら魔導士の姿が見られない事。
それだけ魔導士がこのラーディンシティにいないという事はおそらくこのラーディンシティを維持しているのは魔導士の力、強力な魔力だという事に他ならない。
そしてここに学生とは言え魔導士のシエルがいる。いつこの街がシエルを捕食しに来るか分からないわけだ。
そんな意外と危険な状況であるという今の状況。
だからこそ、今手に入れれる情報を少しでも多く学びたい。
シエルからすればどんな宝石を見つけるよりも自らの知的好奇心を満たすこの環境と情報は宝の山なのだ。
トリオンはそんなシエルに呆れながらもそこは同意し魔法収集を続けた。
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