ドラゴンを滅ぼす魔法⑤

「魔王の判断は理解に苦しむね。僕が魔王なら勇者を倒す為にその魔法を残しておくけど」

 

 合理的なシエルなら間違いなくそうするだろうとトリオンは思う。そして彼が言っている事も当時の魔王軍的に見ても正しい判断とは言えない筈だ。

 

「で、ですが魔王様は……魔王様は!」

「でも感謝してる」

「えっ?」

「魔王が最強魔法を世界から消す愚断のおかげでドラゴンは絶滅しなかった」

 

 人間が魔王軍に敗北しなかったではないところがシエルらしい。

 

「ふふっ、そこは人類が敗れなかったから! では?」

 

 普通はそう思うところをトリオンにもツッコまれたシエル。

 シエルからすればそこはあまり大きな問題ではなさそうな表情をしている。

 二千年前の結果ははっきり言ってそこまで重要じゃないと思っている。

 

「魔王が敗れても魔物は絶滅しなかったわけだし、人間が敗れても人間は絶滅しないよ」

 

 とはいえ、今現在、人間達の街は多く、魔物達の生息地を大きく奪う形となっている。それが歴史が違えば真逆になっていたであろう事は間違いない。


「シエルは時々ヤバい事を言いますよね? 私は魔王様のしもべですから魔王様が敗北したという事に関しては今だに疑念しか感じませんが、あなた達の為に勇敢に戦った勇者に対してやや失礼と言わざるおえませんよ? まぁ、貴方の事ですから昔の事なんてどうでもいいとお考えなんでしょうが……」

 

 事実シエルは歴史には興味があるが、歴史の結果に関しては興味がない。

 だから必要以上に魔物を毛嫌うような事もないのでトリオンと共にいる。


「トリオンの言う通り、僕は勇者様と魔王の結果はどうでもいいんだ」

 

 それでも一応、人間の代表である勇者への敬称は忘れない。


「僕はこの世界における僕の知らない事が好きだから」

 

 トリオンは呆れると共に、人間ここに極まれりとすら思った。

 そして話し込んだ挙句、夜が終わりを告げる光が差し始めていた。

 魔造人間のトリオンは疲れなんて感じないが、シエルは人間だ。

 それもまだ育ち盛りのシエルは少し休んだ方がいいとトリオンは思った。

 しかし、こんな盛り上がる話をした後だから眠れない事も分かる。

 再びコーヒーでも淹れようとトリオンは焚き火に薬缶をかける。

 それに気づいたシエルは朝食用にと焼いていた塩味のドーナッツを取り出す。

 横に半分に切って、ハムや目玉焼きを挟めば立派な朝食になるだろう。

 本日は近くの街に行って遺跡の情報やダンジョンの情報を調べて、そこに突入、研究調査……の前にシエルの昼寝が必要だろう。

 

「トリオンはマヨネーズをつける?」

 

 シエルはケチャップとマヨネーズを用意していそうトリオンに尋ねる。

 

「それ美味しいんですか?」

「オーロラソースって言うらしいよ?」

「ふーん、じゃあお願いします」

 

 トリオンは学習機能があるハズなのに料理に関してはポンコツである。

 

「しかし、私が疑問に思う事はシエルの包丁上手なところですね」

 

 料理上手という言葉を使わないのはトリオンの拘りなんだろう。

 

「普通に作れば大抵美味しくできない?」

「できませんね!」


 そんな即答されても困るなとシエルは苦笑する。

 一度トリオンに料理を任せた事があったが、全て直火で焼いてしまった。

 

「美味しい物が好きなのに、よく今まで生きて来れたね。あっ、冬眠してたか」

 

 それ以前にトリオンが一人で魔法を収集していた頃はどうしていたのか?

 毎回、外食していたとも思えないし、それもシエルの知りたい謎である。

 

「昔は食べ物の味なんてあんまり気にした事ありませんでしたね」

「トリオンが? 信じられないね」

「まぁ、今みたいに美味しい物も少なかったですから……ん?」

 

 トリオンが何かに気づいた。そしてシエルもすぐに何か大きな音が聞こえてきた。


「魔力反応、あっち! 東の空! シエル! ワイバーンです!」

 

 朝日を浴びて、空高く滑空するドラゴン亜種、それは間違いなくワイバーンだった。

 その姿を見て二人は感嘆の声を上げた。

 

「「」」

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