ドラゴンを滅ぼす魔法③
トリオンがドーナッツはもういらないとジェスチャーする。
すると、シエルは明日の朝食用にと塩を混ぜたドーナッツを焼き始めた。明日の朝はこれにチーズとベーコンを挟んで食べる。
考えるだけでも明日の日の出が待ち遠しい。そして明日の昼頃には次に向かうダンジョンや遺跡の話でやや盛り上がるのだろう。トリオンはシエルとの旅が意外と気に入っていた。
少しばかり夜更かしをするつもりのシエルはカフェインのたっぷり入ったコーヒー豆をゴリゴリとゆっくり潰し始めた。
トリオンは昔からこのコーヒーという飲み物があまり好きではなかった。が、シエルは熱いミルクと割って飲む飲み方を教えてくれた。
この飲み方はとても飲みやすくて、そして美味しい。二千年も経つと色々変わる物だなとコーヒーを待っていた。
同時に鉄でできたミルクパンで沸かしたミルクがポッポッポツと良い音を響かせている。
砂糖は何個? と聞かれなくなったのはいつ頃からだろうか? シエルは二個、トリオンは四個入れるのがいつもの二人だ。
コーヒーは苦手だが、香りはとても好きだ。何というか高尚で深みのある香りがするとトリオンはいつも思っている。
「ドラゴンを殺す魔法はもう存在しなくなった」
トリオンが答えるべき回答をコーヒーとミルクを割った飲み物を手渡しながらシエルが言った。
そして、それは実にその通りだったのだ。もうドラゴンを殺す魔法はない。
「どうしてそう思うんですか?」
「あればドラゴンは狩尽くされてるよ」
シエルはそう言ってドラゴンの爪でできたアクセサリー……と言う名のオークの牙でできたそれを見せてから答える。
「人間は多く種を滅ぼしてきたんだよ? 私利私欲以外に、人間の身勝手な理由でね」
成る程、それもそうだなとトリオンは思う。魔物より種族を根絶やしにするのは人間のお家芸だ。
「だとしたら、誰がその魔法を失わせたと思いますか?」
人間がドラゴンを殺す魔法が使えれば今尚使われているだろう。
「もちろん、人間じゃない誰かだよ。だけど、なんでドラゴンを殺す魔法を使えなくなしたのか、理由が不明だけどね」
一度ドラゴンが暴れれば人間だけでなく、魔物にも他種族にも多大な被害を与える。
「理由が不明だと言うのにドラゴンを殺す魔法を誰かがわざと失わせたとシエルが思うのは何故なんですか? 貴方は私の知る人間の中ではかなり頭のいい人間だと思っていますが」
「褒められちゃった。明日も晴れそうだね」
「たいてい私はシエルを褒めてますからね」
いつも通りの掛け合いだと遠回しに二人で笑い合う。
「やっぱりね!」
「やっぱりとはどういう事ですか? 私に分かるように説明してください」
カフェオレをゆっくりと啜りながら上目遣いにシエルはトリオンを見る。
「トリオンでしょ?」
ぶっ! とトリオンは飲んでいたカフェオレを吹いた。シエルはドラゴンを殺す魔法をこの世界から失わせたのはトリオンなんだろうとそう聞いた。それにモロな反応を見せるトリオン。
「なななななな……何を言ってるんですか、シエル!」
「いやいや、それもう完全にトリオンがやらかしてるってバレてるじゃん」
バレバレな反応を示すトリオン。
二千年前にトリオンを作った魔王はどんな人物だったのか、この反応だけでもシエルは魔王という人物に興味が湧いた。
「シエル! 私は……まぁいいです。貴方を騙せるとも思いませんし、そうですよ。私が、ドラゴンを殺す魔法を故意にこの世界から無くしましたとも。これでいいですか? 全く……もしかしてシエル、貴方は分かっていてこの話を私に振ってきたんですか?」
「うん。トリオンがやからしたんだろうなとは思ったよ。だけど、何でこの世界からドラゴンを殺す魔法を無くしたの?」
ダンジョンや遺跡の中にいる時みたいにシエルの瞳が輝いている。
「もう……そういうところですよ? シエル」
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