ドラゴンを滅ぼす魔法②
焚き火の中に虫除けの草を時折入れる。
シエルが魔法学園で学んだ最強の攻撃魔法という物は今尚、魔導士において永遠の課題だと言われている。
破壊力は当然の如く、その使い勝手、魔力消費量、汎用性。誰しもが使えるという事を現在は念頭に置かれている。専用の魔導書や魔法のケイン等の道具が必要などはもってのほかである。
平均的な魔導士の質は今が恐らく一番高い。
だが、
要するに淘汰されていく異端と呼ばれているからだ。だが、稀にそういう魔導士が千年も前に失われた魔法を再現し、表舞台に出てくる事があり、そういう時。歴史が動いたなどと言われる事もある。そしてシエルはどちらかといえばそういう魔導士寄りの考え方を持っている。
そんなシエルが一人、伝説の魔導士を挙げるとすれば。
目の前でドーナッツを頬張っているトリオンに他ならない。
生ける伝説と言っても過言ではないトリオンから聞ける魔法の話はまさに夢物語を聞いているように心地よい。
それにトリオンの透き通った声もシエルは好きだ。
魔法に関しての確かな知識と豊かな経験は為になる。
そして今回、シエルがトリオンに尋ねた魔法はドラゴンを一撃で殺せる魔法はあるのか? という馬鹿みたいな質問。
きっとヴァーテクス魔法学園の優秀な教師陣に同じ質問をすれば「シエル、またくだらない質問をしていないで課題は終わったんですか?」なんてつまらない返答を返してくるだろう。
いや、中には「それを追求し、君が完成させるのを私は楽しみにしているよ」だなんて生徒を考えてそうで考えていない返しをするかもしれない。
要するにシエルからすれば魔法学園の先生達は既に役に立たないのだ。
魔法学園には自分の知らない知識を得る為に入学した。初年度は確かに知らない事も多く楽しかった。
されど、入学して一年。図書館も使いたい放題。端から端まで読んだ訳ではないが、シエルが必要な知識はほぼ習得し終わってしまった。
もはや、ヴァーテクス魔法学園でシエルが学ぶ事はないと思っている。その為の授業免除申請で自ら魔法全盛期の時代に触れ新しい学びを得ようとしたのだ。
そのおかげでシエルは恐らく生涯の師匠であり、相棒であり、中々に愛らしいトリオンととある遺跡で出会った。
失われた技術で生み出された魔造人間、突き詰めればゴーレムの一種と言われているが、人間と全く見た目が変わらないその姿。
トリオンを模したであろう半壊した個体を博物館でシエルも見た事があったが、トリオンはそれより精巧かつ完全な状態で、冬眠状態でシエルが見つけたのだ。
遺跡の調査中に起動したトラップで床が崩れどうにか地面に激突しないように壁に向けてバインドの魔法を放った時、そこが隠し扉だったのだ。
トラップが起動しなければ絶対に辿り着けない場所にあり、まさかそんな場所にという隠し方をされていた。
「ん? どうしました?」
シエルが出会いを思い出していているとトリオンに気づかれ
そんなトリオンに、シエルは微笑む。
「なんでもない」
すると、トリオンは先ほどの質問の回答の前に質問をしてきた。
「まずドラゴンとは何でしょう?」
これは至って単純で難しい質問だった。
「生物の行き着く先。だなんて言われているけど、最強の生物ドラゴン種。それしかいまだに分かっていないよ」
これは二千年前から変わらないハズだった。
「ドラゴンより強い存在はいくつかいましたよ?」
「それは勇者様や、魔王と言った規格外の連中の事でしょ?」
超越者、あるいは求道者などと言われた、その道を極めし者達。
「その通りです。ですが、最強という言葉はドラゴンにこそ相応しい」
「種族的にね」
「えぇ、生命力の高さにおいて、平均値や中央値を出すとすればドラゴン種に敵う存在はまずいません」
単体での寿命も気が遠くなる程長いという。というか寿命という概念があるのかすら定かではない。
「その存在はいつの時代も霞みません」
今の時代、ドラゴンが出現したら大慌てだろう。
それほどまでの脅威、人類の味方でもなければ敵でもない。が、それ故に逆鱗に触れた際の損害と被害は凄まじい。
そして、それは魔法全盛期と呼ばれた二千年前も変わらなかったんだろう。何なら、今より有能な魔導士や戦士が多かったが故により酷かったかもしれない。
力試しにドラゴンに石を投げて怒らせるような事をした者もいただろう。歴史には残らずとも、そんなくだらない事で消えた集落が絶対に沢山あったはずだ。
ドラゴンとは魔物なのか? 亞人種なのか? 神なのか?
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