第9話 冒険者


 クレアの言葉に呆然と足しつくしてしまう。


「いやいや、ダメでしょ‼」


 勢い余って言ってしまうと、首を横にかしげてきょとんとした表情でこちらを見てきた。


「なんで?」


(くそ、可愛いなぁ……)


 邪念に惑わされず、思っていることを言葉にする。


「クレアは王女。そんな人材が冒険者になるなんておかしいよ」

「それを言ったらリアムだって公爵家なんだからおかしいんじゃないの?」

「ぅ……」


 ぐうの音も出なかった。


「でもさ、考えて見てよ。俺は次男だからいいけどクレアは長女でしょ?」

「そんなの関係ない」

「……」

「私もリアムと一緒に冒険者へなる」

「はい……」


 クレアの勢いに負けてしまい、渋々了承をする。すると、後ろから声をかけられる。


「私もいいでしょうか?」

「ミ、ミアた……。ミアさん」

「お二人の仲に私も入れてもらっていいですか?」

「いやいや、ダメでしょ?」


 ミアたんが冒険者になるなんてダメに決まっている。


「なんででしょうか? クレアさんはよくて私がダメな理由を聞いてもいいですか?」

「い、いや……」

「じゃあ、大丈夫ですね」

「……」


 俺は無言でうなずいた。


「ミーちゃんからそんな言葉が出るとは思っていなかったけど、私は歓迎だよ」

「クーちゃんこそ親しい人を見つけたのね」


(あ~、そういえばそうだった)


 二人は王族という立場であることから、幼少期からの友達であった。


「では三人でいこ」

「あ、あぁ」


 思いもよらないところで推しキャラと絡みができるなんて考えてもいなかった。


 そう思いながら学園を後にして、冒険者ギルドへ向かっていると、エイダンと出くわす。


「リアムとクレアさん、ミアさん。どこに行くのですか?」

「あ~。冒険者になろうと思ってギルドへ向かっている」


 俺の言葉に目をキラキラと輝かせるエイダン。


「俺も混ぜろよ」

「はい?」

「いいじゃん」


 一瞬、こいつは何を言っているんだと思った。だけど、よく考えて見ればエイダンがきっかけで、クレアとミアたんは冒険者になる。


「あぁ」


(あれ、今の俺ってお荷物じゃね?)


 主人公にヒロイン二人。そして悪役貴族の俺。はっきり言ってお荷物でしかない。


(まあ、四人で冒険することなんて数回ぐらいだろうしいいか)


「分かった」


 すると、クレアとミアたんが文句を言い始める。


「私たちにはあれだけ止めておいて、エイダンさんはすんなり了承するんだ」

「そうですよ。不公平じゃないですか?」

「いやいや、俺はきちんと理由も説明したよ⁉」


 実際、エイダンは平民であって、二人は王族。立場が違うのは明らかだ。だけど、二人は不満そうな表情でこちらを見てくる。


「そんなの関係ないよ」

「そうですよ」

「ご、ごめん」


 頭を下げて謝ると、クレアがこちらへ近寄ってきて、耳元でボソッとつぶやく。


「今度、二人でどっか行こうね‼」

「はい⁉」


 首を傾げながらクレアを見ていると、ミアたんが呆然と俺たちのことを見ていた。


「じゃー、みんなでギルドへ行こう‼」


 クレアの後に続くようにギルドへ向かっていった。



 ギルドへたどり着くと、中にはガラの悪い人たちが大勢いた。


(やっぱり、二人を連れてきたのは失敗したかなぁ……)


 そう思いながら、受付嬢に登録をしてもらい、依頼を見に行く。


「どれを受けるの?」

「う~ん」


 今受けられるクエストは、どれも微妙なものばかりだった。


 国内の清掃や薬草の採取。しいて言えば、ゴブリン退治になるのだけど、これも四人なら難なく終わってしまうのが目に見えている。


(どれにすべきか……)


 俺が悩んでいると、エイダンが一枚の紙を持ってきた。


「これなんてどうだ?」


 渡された紙には、赤竜の討伐と記載がされていた。


「お前はアホか。これは受けられない」

「なんでだよ‼」

「左上を見ろ‼ 受けられるランクが記載されているだろ‼」


 冒険者はF級からS級まであり、なり立ての俺たちはもちろんF級。A級以上と記載がされている赤竜の討伐なんて受けられるわけがない。


 百歩譲って受けられたとしても、死ぬことが目に見えているクエストをうけるわけがない。


 すると、シュンとした表情で依頼書を元の位置に戻しに行った。


 その時、隣に立っていたミアたんが俺に見せてくる。


「これはどうですか?」


・流青洞の探索


 これなら、依頼を達成する目的として修行もできる。


「ミアさんありがとう。これにしよう‼」

「はい」


 俺たちは受付嬢に依頼書を出して、承諾を受ける。


「みんな学園がある日じゃきついから、今週末とかはどう?」

「いいよ」

「はい」

「あぁ」

「じゃあ、週末に集合ってことで」


 俺がそういうと、全員が頷いた。そして、各々実家へと戻って行った。


 この時の俺たちは、初めての依頼で何が起こるのか予想だにしていなかった。

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