第8話 主人公の実力


 お互い一歩も動かずに相手からの行動を待つ。


(やばい……)


 はっきり言って実力が違う。アレクサンダー先生程強いとは言わないが、同学年の中では頭一つ抜けていると実感できるほどのオーラを放っている。


「来ないのか?」

「……」


(攻めに行けないんだよ‼)


 俺が攻撃を仕掛けたら確実にカウンターを食らって負ける。この状況が続いているのは、エイダンが俺の実力を見定めるために様子見をしているため。俺が攻撃を仕掛けられないのとはわけが違う。


「じゃあ、俺から行くぞ」


 エイダンがそういった瞬間、間合いを一瞬で詰められて攻撃を仕掛けられる。


(あっぶね)


 間一髪のところで攻撃を避けて体制を立て直す。すると、エイダンは驚いた表情でこちらを見てくる。


「同年代で避けられたのは初めてだよ」

「あはは」


 実力だよと言いたいところだけど、運が良かっただけ。


 リアムが公爵家であることから、基礎は叩き込まれていた影響で体が反応してくれた。それだけのこと。


「次はどうかな?」


 真正面から振りかざしてきたと思い、体を横にずらす。だが、左方向から攻撃が来てしまい、受け流すことが出来ず地面に叩きつけられる。


「……」


 その後も、フェイントに惑わされつつもギリギリのところでやり過ごす。


「なかなか強いね」

「ありがと」


 主人公からこう言ってもらえるのは嬉しいが、今はそんなことを考える余裕がない。


 はっきり言って、負けていい試合だ。現状の俺が主人公と戦ったところで勝てるわけがない。


 そう思いながら周りを見回すと、クラスメイト全員が俺たちの戦いを見ており、クレアは心配そうな眼差しを送ってきた。


(クレアにあそこまで言われて、あっさり負けるわけにもいかないよな……)


 なら考えろ。今できる最大限の実力でエイダンを迎え撃つ策を考えるんだ。


 そう思いながらも、防戦一方な戦いが続く。


 エイダンの一撃は俺の数倍は強い。剣を振る速度だって俺よりも若干だが早い。おまけにフェイントをかけてくる技術も持っている。


(どうすればいい?)


 すると、エイダンがクレアとミアたんの方を一瞬見た。


(これからも知れない)


 俺はそれから、エイダンの攻撃を防ぎながら隙を伺った。


「見え見えだよ。でも俺は隙なんて見せない」

「……」


 休む暇もなく攻撃を仕掛けてきて、俺が大勢を崩した一瞬を見逃さず、エイダンは腹部へ攻撃を入れてきた。


「ぅ……」


 そして、目の前でエイダンが視線を外して二人のことを覗いた瞬間、俺はエイダンが剣を持っている腕に振りかざした。


「‼」


 エイダンはとっさの判断で受け身を取りながら防ぎに入る。


(そう来ることは分かっていたよ)


 木刀で防がれないように手首をスナップさせて、エイダンの持っている剣を空中に飛ばした。そして、剣を突き付ける。


 クラスメイト達も何が起きたのか分かっておらず、エイダンも驚きを隠しきれていなかった。すると、アレクサンダー先生が言う。


「勝負あり」


 俺は剣を地面に落とし、エイダンに手を差し伸べる。


「強いね」

「勝ったのにそれを言うかよ」

「運が良かっただけ。一瞬でも隙を作ってくれなかったら勝てなかった」

「それはそうだけどさ」


 ぶっちゃけ、エイダンに隙なんて微塵もなかった。あの時も俺がわざと分かるように攻撃を食らい、隙を作らせただけ。


 本番でこんなことはできない。真剣なら、攻撃を受けた時には死んでいたのだから。


「いいね。リアム、俺と友達になろう」

「……」


 嬉しいはず。本当なら喜べるはずなのに、今は違った。


 なんせ、こいつと友達になってしまったら、この世界の重要人物の一人になってしまうのだから。


「まあ、これからも頼むよ。俺が認めた友達ライバル


 そして、ひとりひとりアレクサンダー先生から剣アドバイスをもらう時間が始まり、とうとう俺の番がくる。


「リアム、君はもう少し剣の速度を上げること。そして技術を学ぶんだ」

「はい。でも、どうすれば?」

「それは君が一番分かっているんじゃないか?」

「え?」

「エイダンに最後食らわせた攻撃は素晴らしかったぞ」

「……」


 俺が呆然としている時、アレクサンダー先生はこの場を去って行った。


「では、午後は座学の授業をするから準備しておくように」


 その後、成長するきっかけを考えていると、あっという間に座学の授業が終わった。


「冒険者になってみるか」


 この学園の生徒で冒険者になっている人は少なくない。なんせ、今後なるかもしれない職業でもありながら、お金も稼げるのだから。


 俺は腰を上げると、クレアが袖を引っ張ってきた。


「私も一緒に冒険者になる」

「は?」

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