第6話 会話


 ストーリーの序盤にナタリーが出てくるなんておかしい。ナタリーが出てくるのはストーリーの後半に差し掛かってきたとき。


(どうなっているんだ?)


 俺は首を傾げながらナタリーのことを見ていると、クレアが言う。


「やっぱりすごい人だったんだね」

「あ、あぁ。そうだね」


 呆然としている中、ナタリー先生が話始める。


「今日より、このクラスで魔法の授業を教えることになりました。よろしくね‼」


 すると、周りにいるクラスメイト達は歓喜した。


(まあうれしいよな)


 普通ならここまで有名な方が教師をしてくれる時点で嬉しいに決まっている。だけど、俺は嬉しいという気持ちよりも疑問の方が大きかった。


 ナタリーが教師をするって時点で、少く無からずストーリーが崩れ始めている。はっきり言って、この状況は俺にとってうれしくはない。


 ストーリー通りに進んでくれるなら、それなりに対処のしようがある。だけど、ストーリーが崩れてしまうと、何が起こるのか分からなくなる。


(どこで道を踏み間違えた?)


 一つはミアを救ったこと。そしてもう一つ考えられる要素としてはラビットオールドが現れて、クレアと共に戦ってしまったこと。


 考えていることを整理できていない状況で、アレクサンダー先生が話始める。


「まずはみんな、入学おめでとう」


 その一言で周りにいるクラスメイト達は喜びをあらわにする。


「明日より、座学と剣術は俺が教え、魔法はナタリーが教える。そして、一ヵ月後に開催されるクラス対抗戦のメンバーを授業中に決めていく」


 クラス対抗戦という言葉を聞いて、少しだけ安堵した。


(そこは変わっていないのか……)


「各クラス三人で戦ってもらう。毎年クラス対抗戦のルールは変わるから、決まり次第伝える」


(確か、個人戦……)


 AクラスからDクラスまでで、総当たり戦をして、一位を決める。それなら、俺にもやりようはあるかもしれない。


「では、今日は解散とする」


 その言葉と共に、周りにいるクラスメイト達は教室を後にした。


(よし、俺も行くか)


 そう思い、椅子から立ち上がるとナタリー先生がこちらへ近寄ってきた。


「二人とも、昨日ぶりだね」

「そ、そうですね」

「はい」


 すると、俺とクレアのことをまじまじと見つめてくる。


「うん‼ やっぱり引き受けてよかった」

「「え?」」


 俺たちが首を傾げていると、ナタリー先生は肩に手を当ててくる。


「王女がいるからと言って、子供のおもりをするつもりはなかったんだ。でも、君たちと出会って考えが変わった」

「……」

「このクラスは教え甲斐があるよ。特に君たち含めて四人」


(あと二人は誰だ?)


 まあ、ミアたんが含まれているのは分かる。だが、もう一人が分からない。


「じゃ、明日を楽しみにしておくよ‼」


 そう言って、この場を去って行った。


「リアム」

「ん?」

「クラス対抗戦だけど、リアムは出たい?」

「あ~。いや出たくはないかな」

「え⁉」


(だって、出たら目立つじゃん)


 それに、ストーリー状、フレード・リアムがクラス対抗戦に出たって記憶はない。なら、クラス対抗戦に出ないのが得策だろう。


「はっきり言うよ。リアムは絶対に出た方がいいよ」

「あはは。そこまで評価してくれているのは嬉しいよ。でもね、出たくないんだ」

「そう……」


 なぜかクレアは下を俯いた。


「クレアは出たいの?」

「えぇ。エルフの誇りとして出なくちゃいけない」

「そっか。クレアならいけるよ」


 戦闘面においては、ミアたんよりクレアの方が優れている。なら、クラス対抗戦で選ばれるのは目に見えている。


「ありがと。じゃあまた明日ね」

「うん、バイバイ」


 俺は手を振ってクレアが教室から出ていくのを見送った。すると、ライドくんがこちらへ来た。


「リアム、今日は無理だけど今度遊ばない?」


(‼)


「いいよ‼」


 そう。俺が求めていたのはこういうのだよ。学校が終わって、友達とだべって、遊んだりする。


「じゃー遊べる時に誘うね‼」

「おっけー」


 そう言って、ライドくんも教室を後にした。そして、俺とミアたんのみとなってしまった。


(そういえば、ミアたんに挨拶してなかったな)


「ミアた……。ミアさん、フレード・リアムと申します」


 すると、なぜがこちらを凝視してきた。


「ミアです……」

「はい。明日からよろしくお願いします‼」

「……」


 ずっとこちらを見てくるだけで、何も話さない。


(??)


 俺が首を傾げていると、ボソッと何かをつぶやいた。


「この人なのかも……」

「何か言った?」

「いえ、また明日」

「はい」


 ミアたんとも別れて、俺も実家へ帰って行った。


 この時の俺は、すでにストーリーが崩れ始めているのを知るよしもなかった。

 

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