第5話 魔女との出会い


(何が起こったんだ?)


 俺とクレアは、目の前で起きたことを理解することが出来なかった。


 呆然とあたりを見回していると、クレアがボソッという。


「助かったのよね?」

「た、多分?」


 すると、お互い首を傾げているところに帽子をかぶった女性が現れた。


「良かった。無事だったわね」


 俺とクレアは目の前に立っている女性を見た瞬間、体中から鳥肌が立った。


(なんて魔力だ)


 一般的に、魔力量の差でここまで起こることはない。現時点でそれが起きてしまっている。

 

 つまり、俺とクレアとは比べ物にならないほどの実力差があるってこと。


「どうしたの?」


 その言葉でハッと我に返った俺は、頭を下げてお礼を言う。


「た、助けていただきありがとうございます」

「ありがとうございます」

「逆に私が謝らなければいけないわ」

「え?」


(なんで、この人が謝らなければいけないんだ?)


 俺たちは助けられた存在。謝られるような立場ではない。


「あんなのがここら辺にいること自体が私のミスでもあるのだから」


 首を傾げているクレアに対して、女性は答える。


「深淵の森って言うのがどういうところか知っている?」

「入り口近辺ではどの冒険者でも入ることができ、奥に進むごとに難易度が上がっていく場所」

「そう。つまりね、ここら辺の深淵の森に中級以上のモンスターを越させてはいけない。それが私たちの使命でもあるの」


 そんなのきれいごとだ。誰もが生きるのに精いっぱいであり、他人のことまで考える余裕があるはずない。


「今は分からなくていいの。あなた方もいずれわかるようになるわ」

「……」

「それよりも、あなた方があの爆風を生み出したの?」


 クレアと俺はお互いを見つめあった後、縦に首を振った。


「そう‼ あれが無かったらあなた方の居場所は分からなかったわ」

「それはよかったです」

「えぇ。じゃあまた会いましょうね。期待の新入生」

「え?」


 その時には、目の前にいる女性はこの場から消え去っていた。


「な、なんだったんだ?」

「分からない」


 その後、俺たちは無言でクロニクル王国へと帰って行った。


 日も暮れてきているため、学園には戻らず帰ろうとした時、引き留められる。


「なんで助けたの?」

「あ~、なんとなく?」


 ここで推しではないが、好きなキャラであったから。なんて言ってたところで、不気味がられるだけだ。だから、曖昧にして答えた。


 すると、クレアは少し声を荒げて言った。


「なんとなくで命を張る人間なんていない‼」

「まあ、普通はそうだよな」

「なら……」

「助けたいと思ったからだよ。ただそれだけ」

「え……」


 別に嘘じゃない。俺が知っているキャラが死ぬシーンなんて見たいわけがない。


「初めて話したクラスメイト。今後友達になるかもしれない存在。そんな人を失うのは嫌だ」

「……」

「それに、クレアが足掻いているところを見たら勝手に体が動いた。それだけだよ」


 そして、俺は背を向けながら手を振ってこの場を後にした。



 翌朝。俺は真っ先にアレクサンダー先生の元へ向かってレッサーラビットの角を私に行く。そして、職員質の前に付くと、教室で泣いていたライドくんが立っていた。


「よ、どうしたの?」


 俺が話しかけると、軽く睨みつけてきたが、すぐに俯いてしまった。


「リアムくんはレッサーラビットの角を入手した?」

「あぁ」


(あ~。その反応はまだなのか)


「深淵の森までは行ったよ。でもレッサーラビットを見た瞬間、怖くて戦えなかったよ」

「そっか」

「臆病者だと笑えよ」

「笑わないよ」

「え?」


 どこに笑う要素があるんだ。ライドくんは無理だと分かっていても、危険を顧みず深淵の森へ行ったんだ。その時点で称賛に価する。


「ライドくん、深淵の森へは行ったんだよね?」

「うん」

「なら、これをあげるよ」


 俺はそう言って、カバンの中からレッサーラビットの角を渡した。


「え⁉」

「余分にとっておいたからあげる」

「でも、それじゃあズルじゃないか」

「ズルじゃないさ。ね、先生」


 俺は後ろに立っているアレクサンダー先生に尋ねる。


「……。まあズルではないな」

「ほら‼」

「ど、どうして……」

「先生が言ったことを思い出してみて。あの時、先生が条件に示したのは何だった?」


 ライドくんは少し考えたのち言った。


「深淵の森へ入ってもらい、特定のモンスターを倒してもらう」

「そう。でもね、各自倒して来いとは言われていない。言うなれば、力を合わせて倒したモンスターも間接的に倒していることになる」

「それが?」

「つまり、深淵の森へさえ入って入れば、クラスメイトの誰かがレッサーラビットを倒して、角を持ち帰ればいいってこと」

「‼」


 究極的な話をすれば、一人でクラスメイト全員分のレッサーラビットの角をもってかえって来るでもいいってこと。


「そういうことで、俺たちはクリアですよね?」

「あぁ。そこに気づいていたんだな」

「はい」

「なら、なんでそうしなかった?」

「そんなの簡単じゃないですか‼」


 俺に友達がいないから。


(あ~、自身で思っただけで悲しくなってくる)


「そうか。まあ、リアムとライドはクリアってことにしておく」


 そして、アレクサンダー先生がこの場を去って行こうとした時、小声で言われる。


「次は無いからな」

「……」


 呆然としているライドがハッと我に返り、頭を下げてきた。


「ありがとう。本当にありがとう」

「いいんだよ」

「なにかお礼をさせてほしい」

「あ~。じゃあ一つだけ」


 真剣なまなざしで俺のことを見てくる。


「俺と友達になってよ」

「え、そんなこと?」

「そんなこととはなんだ‼ 俺にとっては重要なんだよ」


 すると、くすっと笑いだして手を差し伸べてきた。


「分かった‼ よろしくね」

「あぁ」


 その後、俺たちは教室で時間をつぶして日没まで待った。


 時間が経つにつれて、徐々に入って来るクラスメイト。そして、最後にクレアが教室に入ってきたとき、俺の元へやってきた。


「リアム。昨日ぶりだね」

「あ、あぁ……」


 クレアの言葉に回りのクラスメイト全員が呆然としていた。すると、背後から視線を感じて振り向くと、ミアたんと一瞬だけ目が合った。


(やっぱり警戒しているなぁ)


 そう思っていると、アレクサンダー先生と見覚えのある女性が入ってきた。


「「あ‼」」


 俺とクレアが言葉を発した時、女性はこちらに向かって手を振ってきた。


「初めまして。私はナタリー・レクリン」


 その言葉を聞いた瞬間、全員が絶句をした。


 ナタリー・レクリン。魔法の革命を起こした存在。別名魔女と呼ばれている。



 

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