第4話 ラビットオールド


(やばい……)


 はっきり言って、こんなイレギュラーが起きるなんて思ってもいなかった。


 レッサーラビット数体なら何とかなるかもしれないが、ラビットオールドだと話が違う。


(どうする?)


 一番賢明な判断は、助けを呼びに行くことだ。今の俺が助けに行ったところで、二人とも死ぬことは目に見えている。


 だけど、本当にそれでいいのか。目の前でヒロインを見捨てて自分だけが生き残る。そんなことをして、俺は良いのか。


(とる行動なんて、決まっているじゃないか)


 考える意味もなかった。ミアたんのことが一番好きなのは違いない。だけど、俺はクレアのことも好きだ。推しキャラは何人いてもいい。何なら多い方が楽しい。


 なら、助けるに決まっている。


 ラビットオールドがクレアに攻撃を仕掛けようとした時、魔道具を発動させて、地面をぬかるみにして態勢を崩す。


「大丈夫か?」


 俺の問いに対して、驚いた表情を見せてくる。そして、すぐに我に返り怒鳴りつけてくる。


「あなた、今の状況分かっている⁉ 死にに来たようなもんじゃない‼」

「はいはい。それよりも今はどう打開するかを考えよう」

「無理よ……」

「無理なもんか。俺たちならいける」


 実際、クレアの言う通り、打開できる確率はゼロに近い。だけど、無理と決まったわけじゃない。この世に出来ないことなんて無いのだから。


「あなただけでも逃げて」

「んなことできるわけない。一緒に逃げよう」

「……」


 ラビットオールドが泥沼から抜け出そうとしているのを見て、絶望の眼差しなるクレア。


 俺はクレアの両手を叩いて言う。


「なんで無理だと分かっていたのに抵抗したんだ? 生きたいからだろ‼ なら、最後まで足掻けよ‼」

「‼」


 俺の言葉に対し、絶望の眼差しからうっすらと光が宿る。


「うん」

「じゃあ、俺が時間を稼ぐ。それまでに何か策を考えてくれ」

「え⁉」


 はっきり言って、無茶なことを言っているのは分かっている。だけど、無茶をしなければこの状況を打破できないのも事実。


「俺の実力なんて分からないだろ。だから、俺の行動を見て作戦を練ってくれ」

「わ、分かった」


 そして、俺はラビットオールドと対面をする。


「よぉ。ここで俺はお前を倒す」

「ウギャギャギャ~」


 ラビットオールドの雄たけびと同時に、火玉ファイアーボールを放ち体制を崩させた。

 

 その一瞬を見逃さず、剣を振りかざして攻撃を仕掛ける。


 だが、そんな簡単に状況が変わるわけでもない。ラビットオールドは俺の攻撃を避けて、叩きつけるように手を地面に押し付けてきた。


(やばい‼)


 とっさに地面を転がり、回避する。


(かっこつけたは良いものの、現状を打破できる実力はない)


 なら、そこからどうするかだ。


 一番いいのは、二人でラビットオールドを倒すこと。だけど、それが無理なことは分かっている。なら、ラビットオールドが隙を作るような状況を作るしかない。


 俺は魔道具の水晶を叩き割ると、あたり一帯に霧が生まれる。


(これで状況は有利)


 人間に対して霧を出したところで無意味であるが、図体のデカいモンスターにとっては有利になる。


 この状況をうまく活用するために、細かく動き周り、足元を何度も切り裂く。だが、小さな傷が生まれるだけで、決定的な状況が生まれるわけではなかった。


 その時、クレアが叫んだ。


「火を頭上に撃って」

「わ、分かった」


 俺は火玉ファイアーボールを頭上に放つ。すると、クレアの魔法と融合し、軽い爆発が起きた。


 それと同時に、俺はクレアに手を引かれてこの場を後にした。



 あれから何分ぐらい走っただろうか。十分かもしれないし、一分かもしれない。


 そう思っていると、クレアが立ち止まった。


「何とかまいた」


 辺りを見回すと、ラビットオールドの殺意が感じられなくなっていた。


「だね」


 でも、油断はできない。辺りにはレッサーラビットがいるかもしれない。それ以外にもたくさんのモンスターがいる。そんな状況で気を抜くわけにはいかない。


「影を潜めて、深淵の森を出よう」

「えぇ」


 俺とクレアは茂みに隠れながら先へ進んでいく。


 道中、何度かレッサーラビットと戦ったが、二人で連携を取ったことにより、難なく倒すことが出来た。


 そして、後数分も歩けば深淵の森を出れるというところで、雄たけびと地響きがした。


「ウギャギャギャ~」


 後ろにいるクレアを見ると、体が震えていた。


 俺はクレアの手を握って、走り始めた。


「行くよ‼」


 一分一秒を争う状況。そして、後少しで深淵の森を出れるって状況で、ラビットオールドと出くわしてしまった。


 すると、俺たちへ攻撃を仕掛けてきて、地面に叩きつけられる。


「ゥ……」


 クレアは何とかダメージを受けていないようであった。


 すでに言葉も発することが出来ない。だから、俺はクレアの方を向いて、に・げ・ろ。と口パクで伝える。


 なぜかこちらへ駆け寄って来るクレア。


(バカ‼)


 そう思った瞬間、頭上から雷が落ちて、ラビットオールドが倒された。



 

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