第3話 真の入学試験
金髪イケメンの男性。
(思っていたより以上にすごいな)
前世の記憶がある以上、担任のことも知っている。
アレクサンダー・ライドリア。世界で五本の指に入ると言われているような存在だ。
そんな人がなぜこのクラスの担任をしているのか。それは、ミアたんがこのクラスにいるからだ。流石に王女がいる以上、下手な担任を用意するわけにはいかない。
俺がアレクサンダーのことを見ていると、一瞬だけ目が合う。だが、すぐに視線を逸らして教壇に立った。
「まずは仮入学おめでとう」
「え⁉」
(とうとう始まったよ)
あたりにいるクラスメイトがあっけにとられている中、アレクサンダーは淡々と話し始める。
「君たちは経歴上では入学しているが、実際はまだしていない」
「そ、それってどういう意味ですか?」
教壇の目の前に座っている男子が質問をした。
「この学園には、人を選ぶ権利がある」
「それは、入学試験で……」
「あんなの、基本中の基本。入学試験もクリアできないような人は、ここに立ち入る権利すらない」
その言葉にクラスにいる全員が絶句した。
「まあ、これから行ってもらうことは簡単なことだよ」
「な、なんですか?」
「近くにある深淵の森に入ってもらい、特定のモンスターを倒してもらう」
「深淵の森なんて無理ですよ‼」
クラスメイトも続くように同調をし始める。
「分かっている。お前たちじゃ深淵の森に入ったところで、数時間もすれば死ぬ」
「だったら‼」
「だけど、深淵の森の入り口なら低級冒険者だって入っているのはみんなも知っているだろ?」
「……」
アレクサンダーの言う通り、深淵の森には低級冒険者だって入っている。それは、入り口付近なら低級モンスターしか存在していないにも関わらず、素材がおいしいからだ。
だけど、忘れてはいけないことは、深淵の森に入る大半は上級冒険者だってこと。
「今からお前たちに与える試験は、レッサーラビットの角を入手してくること。簡単だろ?」
簡単なわけがない。低級モンスターであるレッサーラビットもれっきとしたモンスター。ためらいもなく人を殺す。そんな存在だ。
「俺もそこまで鬼じゃない。無理なら無理って言っていいぞ。学園を退学してもらうことにはなるが、命に代えることはできないからな」
「……」
「期限は明日の日没まで。出来た奴から俺のところへ来い、以上だ」
そう言って、アレクサンダーは教室を後にした。その時、チラッと俺のことを見た気がした。
(気のせいだよな?)
隣に座っているクレアに聞く。
「どうするの?」
「どうするって、レッサーラビットを倒すに決まっているじゃない」
「そうだよね」
「えぇ。一緒に行こうなんて言わないよね?」
「あぁ。流石に言わないよ」
クレアは一目散にこの教室を後にした。その後、クラスメイト全員が呆然としながら、どうするのかを相談していた。
(どうするか)
はっきり言って、攻略法はたくさんあるし、抜け道もある。だけど、平穏な生活を送るなら、普通に攻略した方がいいに決まっている。
(俺も深淵の森へ行くか)
クラスメイト達が続々と教室から出ていくのを見たので、流れにのり、教室を後にしようとした。その時、一人の男子が泣いているのを見かける。
(確か……)
「ライドくんだよね?」
俺が話しかけると、ぎょっとした顔でこちらを見てきた。
「どうしたの?」
「何でもない……」
「そ、そっか。まあお互い頑張ろう」
そして俺が教室を出ようとした時、尋ねられる。
「君は怖くないの?」
「怖い? そんなの当たり前じゃないか。でも、誰しも覚悟を決めなくちゃいけないときはあるんだよ。それが俺たちは今なんじゃないか?」
決断を下さなければいけないときは必ず来る。なあなあと逃げ切ることが出来るならそうするが、今は違う。
「やっぱり公爵家なんだね」
「??」
俺は首を傾げながらこの場を後にした。
★
深淵の森へと入ると、今まで感じたことの無いような圧力を受ける。
(これが、深淵の森)
いや、深淵の森というよりも、危険にさらされる場所に来ること自体が初めてであるから、感じているのだろう。
「まずは、情報収集からだな」
むやみに森を探索したところで意味がない。
あたりを見回して、どこへ行けばいいのかを探る。
木に傷がついているのか否か。モンスターの足跡があるのかどうかなど。様々な情報を入手していくと、一つだけ大きな足跡を見つける。
(これはなんだ?)
ストーリー状にもこんなシーンは出てこない。だけど、これは間違いなく危険なモンスターだと思えるような足跡であった。
(まあ、ストーリーで出て来なかったってことは、大丈夫か)
安楽な考えを持ちながら、俺は先へ進み始めた。
歩き始めて十分も経たないで、戦闘音が聞こえ始めた。
そこを除いてみると、クラスメイト数人とミアたんがレッサーラビットと戦闘しているのを目撃する。
(攻略法に気づいていたんだね)
アレクサンダーが言ったことは、深淵の森へ入ってレッサーラビットの角を入手することのみ。
条件は何も言われなかった。なら、複数人で戦ってもいいということだ。
(まあ、俺とパーティを組んでくれる人なんていないけど……)
そう思いながら、先へ進んでいくと、レッサーラビットと出くわす。すると、考える暇もなくこちらへ攻撃を仕掛けてきた。
攻撃を回避した後、腰につけている鞘から剣を抜く。
(俺ならやれる)
何度もレッサーラビットの攻撃を避けていくごとにパターンが分かってきた。
次、こいつが攻撃を仕掛けた時、仕留められる。
そして、レッサーラビットが攻撃を仕掛けてきたのと同時に攻撃を仕掛けて、首を切り落とした。
「ふぅ……」
レッサーラビットの角を切り、バックの中に入れる。
(これで帰れるか)
そう思い、深淵の森を出ようとした時、ものすごい地響きがした。
体中から鳥肌が立ち、逃げろと言っているのがわかる。
影を潜めてゆっくりと深淵の森から出ようとした時、視界の端にラビットオールドが現れた。
(なんでこんなところにいるんだよ)
ラビットオールドとは、中級冒険者が複数人でやっと倒せる存在。俺たちが勝てるわけがない。
(バレないようにこの場をしのごう)
そう思ったのも束の間。ラビットオールドを全て目視した時、傷だらけのクレアが立っていた。
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