5-4
「はあ、選ばれんかったなあ」
弥生が唐揚げをほおばりながら言う。僕らは今、町に来ている。
町と言っても、駅の近くに店がいくつかあるからそう呼ばれているに過ぎない。それでも特に寮生にとっては、電車に乗ってわざわざやって来るここは紛れもなく「町」なのである。
「仕方ないよ」
僕らが言っているのは、「七人制」のことである。七人制ラグビーでは、昨年総合先端未来創世は県代表になった。プレー人数が少ないので、当然ベンチ入りも少ない。僕と弥生は、そのメンバーに選ばれなかったのである。
もちろん怪我などでメンバーが入れ替わる可能性はある。けれども、やはり現時点で「選ばれない」という現実は結構こたえる。
「ちょっとこっちも行ってみようぜ」
弥生が、細い横道に入っていってしまった。慌てて追いかける。
「こっち民家じゃない?」
「隠れ家的な店とかありそうじゃん。あれとか……潰れてるな」
「きっと今はどこも厳しいんだよ」
「あ、でかい建物ある。……病院か」
「冷水医院だって。この辺じゃこの名字多いのかな」
「聞かんけどなあ。冷水さんちだったりして」
「そんなあ」
「そうだよな。なんもねえなあ。俺さ、ヘルメット見たいんだよね」
「チャリの?」
「そうそう。見に行こうぜ」
「わかった」
しばらく、練習が休みの日はない。正直自転車屋に行くのが楽しみかといえば違う気もするのだが、気分的にはすごい楽しいのである。実家の近くにはおしゃれな自転車屋も、おいしい唐揚げ屋も、大きな医院もなかった。全部が新鮮なのだが、弥生には気づかれないように、こっそりと全てにワクワクしていた。
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