5-3

 テスト三日前になって、僕らが出した結論は「集まると勉強できない」というものだった。最初は人に見られていると緊張感から遊べないかと思ったのだが、そんなことはなかった。

 一人で寮に帰ってきて、教科書をにらみつける。これを乗り切れないと、合宿に行けない。金田さんは一年生の時に、それで東博多と対戦する機会を一度失っているのだ。それに僕は、レギュラーから遠い存在だ。合宿に参加できないと、より遠くなってしまう。

 学校の改名以前は、寮は個室ではなかったらしい。スポーツ推薦だけでなく特進推薦もとっており、県外出身者が多かったそうだ。

 今は推薦も少なく、全室個室になっている。それはうれしいのだが、寂しさもある。友人とも会えないと、家族から離れていることを実感する。

 早くラグビー部の練習がしたい。



「えー、そうなの?」

「知らんかった」

 張り出された表には、成績上位者の名前が書かれている。当然僕や弥生の名前はなかった。だが、3位の欄に見知った名前が。

「冷水さん……いや、冷水様」

 弥生が拝み始めた。1-E 冷水優。こう見ると、名前自体がとても賢そうである。

沐阳ムウヤンもいる」

 13位、1-E 李沐阳。ラグビー部で、しかも推薦入学で、この順位。まあ、あのノートを見た瞬間から、成績がよさそうな予感はあったけれど。

 当然僕らの名前はない。二人とも、ぎりぎり赤点は取らなかった、というレベルである。

「はあ。せめてテストでは勝ちたいよな」

 弥生が溜息をつく。

「ラグビーでは、じゃなくて?」

「そりゃむりだ」



「今岡さんはどうだったんですか?」

 練習後、弥生が尋ねた。一番聞かない方がいい相手と思ったのだけど。

「ふっ。お前もか亜希雄。確かに俺は成績悪いっぽい。だが、そんなに悪くない! むしろ江里口や音衣紗の方が悪い」

「そ、そうなんですか」

「だから、あいつらと同じ学校になると思わなかった。一人でモテる部に入りたかったぜ」

「ちなみに二年生で一番成績いいのは?」

「里」

「あー」

 ここは、なんとなく予想通りだ。三年生のことも知りたいけれど、知りたくないような気もする。

「えー、前も言ったけど補講と夏合宿の日程が被ってるから、ダメそうな奴は今のうちに言っておくように」

 犬伏先輩が声をあげる。皆が一斉にそちらを向いた。

「金田ちゃんは大丈夫だったよー」

「西木、うるさい」

 金田さんの補講話は、二年たっても部での鉄板話になっている。かわいそうだけど面白い。

「はいっ! キャプテン!」

 勢いよく手を挙げたのは殿だった。

「え、堂々と何?」

「危ないです!」

 一年生たちが目を見合わせる。

「何でだよ! 大学生の彼女に教えてもらえよ!」

 そう言ったのは今岡さんだった。皆が頷く。

「教えてもらいました。だから数学は大丈夫でした」

「なんだよ! ダメな子がかわいいのかよ!」

 この後、部内で上級生たちによる「殿勉強対策チーム」が設立されることになる。

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