中間テスト

5-1

「ぐがあ!」

 弥生が妙な声を出した。

「ちょっと、まだ終わってないよ」

 僕がそう言うと、弥生は情けない顔をして首を振った。

「俺は終わった!」

 勢いよく言ったのは善導である。

「さすがだね」

「いや、できなさすぎて終わった」

 そう言って善導は、茶髪をかき上げた。

「そんな余裕な顔で……」

 今、弥生と善導は僕の部屋に来ている。高校で初めての定期考査に向けて、勉強会をしようという話になったのだ。手始めに15分の小テストをしてみようということになったのだが。

「お、俺はまだ始まってないかもしれない……」

 弥生がテーブルに突っ伏す。

「ちょっと、頑張ろうよ。合宿行けなくなるよ」

 皆が勉強会をするのは伝統みたいなものらしいが、一昨年の二学期からは特に推奨されるようになった。意外なのだが、その時は金田さんが特別補講に行くことになった。合宿ではあの東博多と練習試合をして、金田さん抜きということもあり惨敗したらしい。

 そのことがあって、皆が協力してテスト対策をすることになったという。特に推薦組は手取り足取り教えてもらったらしい。

「沐阳はどうなんかねえ。入試受けてないんだよなあ」

 善導はもう、勉強しない顔つきである。

「あいつ抜きはきついな。あ、そういうば野地原は補欠合格らしいぜ」

 つられて弥生もペンを置いて堂々と話し始める。僕もつい加わってしまい、一時間ほどどうでもいい話に花を咲かせてしまった。

「あ、もう九時だ。さ、帰るよ」

「えー、ここに暮らしたい」

「善導とか匿ったら俺の評判がた落ちだよ。規則だから。それとも次からはお前んち行く?」

「それは困る。いやあ、勉強しなかった。ま、俺と弥生は共倒れだな」

「そうだな、はっはっは」

 この二人はどうにも一年生の問題児コンビっぽい。その二人と仲がいいのだから僕は本当に大変である。



「え、三人で勉強してたんだ」

「そ」

「いや、あれはしていたと言えるのか……」

 冷水さんは、僕たちの勉強会に興味があるようだった。とはいえ。女の子を寮に呼ぶわけにもいかない。

「おかげであきらめがついたよ」

 弥生はなぜか得意げである。

「え。最初のテストだからそんなに大変じゃないよ。たぶん」

「そうだよな。60点、とれるよな」

「ギリギリじゃない……。岸谷君は大丈夫だよね」

「まあ。いや、なんか心配になってきた」

「ちょっと。みんな合宿行けなくなったらどうするの」

 テストが近いのは大変だったが、普通の高校生活を送っている実感ができるので嬉しくもあった。テスト一週間前からは部活も休みで、ラグビーから離れた普通の高校生を体感できるのもいい。

「いやあ。今日も頼むよ、岸谷君」

「俺は教えるのはどうもなあ。善導もふざけるし。蛍川でも呼ぶか」

「おっ、いいねえ」

 冷水さんが疑いのまなざしで僕らを見ている。確かに、きっと僕らはまじめに勉強しない。

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