4-8

「久しぶりだな、たっちゃん」

 最初、新口にのくちの鹿沢監督が誰に話しかけたのかわからなかった。部員に「たっちゃん」はいなかったのである。

 小さく手を挙げる龍田たつた監督を見て、僕を含め何人かが「あ」と声をあげた。

「そうですね」

「先生になるとも思わなかったのに、監督とはなあ」

「かっちゃんが頼むからでしょ」

 両軍の選手が、じっとその様子を見つめている。

「ま、面白いチームでしょ。こっちもだけど」

「大変なことばかりです。次は公式戦かもしれませんね」

「それは楽しみだ」

 二人の会話が終わったのを去って、僕らは不自然に様々な方向に視線を移した。



「うまくやってたよっ」

 僕にそう声をかけてくれたのは江里口さんだった。同じプロップとして、試合中僕のことは気になっていたことだろう。

「そうですか? よかった」

「次は、蛍川を支えてやらんとな」

「えっ」

 全く予想外の言葉だった。蛍川はそつなくこなしていると思っていたのだ。むしろ僕より上手くやっていたのではないか。

「ああ、すまん。支え合うのが当然だったなっ。はっはっは」

 笑っている先輩の細い目が、笑っているようには見えなかった。

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