4-4
「頑張れよ」
試合開始直前、僕にそう言ったのは
正直、沐阳はよくわからない。「神秘のベールに包まれている」というやつだ。全く話さないというわけではないのだが、肝心なところは明かしてくれない。将来の目標とか、そういうのも聞いたことがない。
いつか、全日本にも選ばれる素質だと言われている。だが、本人がそれを目指しているのかは聞いたことがない。うちが全国に行けないと、沐阳が人々の目に触れる機会も少なくなる。いい大学からはスカウトが来なくて、いいプロチームにも行けないかもしれない。
ベンチにいる沐阳は、何を考えるだろうか。
試合が始まった。
新口は、三年前までは弱小校だったらしい。江里口兄の代から県内の経験者が入り始め、「推薦にもれた人たちの集合場所」のようになったという。今では、経験者の数だけならうちをしのぐはずで、今後どんどん伸びていくチームかもしれない。
しかも、新口の鹿沢監督は、昨年までうちにいた。先輩たちは試合前に、笑顔で挨拶していた。優しくて頼りになりそうな人だ。正直、「あっちがいい」と思ってしまった。
「ナンバー8なんだな」
西木さんが、ぽつりとつぶやいた。新口の江里口さんは、いろいろなポジションを守ってきたらしい。チーム事情として、「空いたところを彼が担わないといけなかった」のだろう。だが今は戦力が充実して、前線を任せられるようになったのだ。
お互いに点数が入らないまま、マイボールでファーストスクラムになった。中学までと違い、高校でのスクラムは押し込むことができる。組む人数も増え、迫力が違う。
「クラウチ。バインド。セット!」
レフェリーの声と共にスクラムを組む。だが、上手くいかずに崩れてしまった。組み直すことになるが、わざと崩せば反則になってしまう。
二度目は大丈夫だった。ただ、ものすごい圧力だ。新入生歓迎試合の時は、先輩たちが手加減してくれていたことがわかる。
投げ入れられたボールを、後ろに回していく。圧力に屈して下がってしまえば、ボールを取られてしまうかもしれない。逆に前進できれば、それだけ有利になる。
動かなかった。
実力が拮抗しているのだ。そのことに、少し安心した。沐阳がいれば、こちらはもう少し強くなるはずだから。
ボールがスクラムの外に出る。テイラーさんからバックスへと展開される。ここから金田さんと安生さんを中心に攻めるのがうちの得意パターンの一つだ。
だが、あまり前進しないうちにしっかりと守られてしまった。守備もちゃんとしている。金田さんのステップ、安生さんの速さにちゃんと対応している。
これは、かなり手こずりそうである。
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