4-2

「ぐええ、マジか!」

「そんなに驚かないでも」

 殿とのに大きな声を挙げたのは、善導である。

 僕らは、部活の後唐揚げ屋に来て並んでいた。今日は練習が4時に終了だったので、「いつも行けないところに行こうぜ」ということになったのである。唐揚げ屋は5時に閉まるのだ。

「いや大学生って大人じゃん! 女子大生じゃん!」

「いや3つしか変わらないよ。善導のうちの両親だってそれぐらい違わない?」

「親の年齢とか知らねえよ!」

 殿は確かに、見た目も言動も大人びている。元々は剣道をやっていたらしくて、そのつながりで世代の離れた知り合いも多いらしい。

「ね、普通だと思わない、岸谷?」

「え? あー、俺そういうのわかんないなあ」

 実際あまりよくわからない。テイラーさんはよく「彼女欲しい」と言っているが、それ以外の人は彼女がいるのか、恋愛しているのかもよく知らない。殿の例が珍しいのかどうかもわからないのである。

「くああ。俺はな! 心底うらやましい!」

「殿に紹介してもらったら?」

「気まずいだろ!」

「え?」

「同級生に紹介してもらった大学生と別れたりしたら気まずいだろ! 多分!」

 なんともばかばかしい会話だと思ったが、こういうのが楽しい高校生活なのかもしれない。



「え、マジなの? 殿ちゃん彼女大学生なんだ」

 夕食、寮の食堂。西木部長と同じ時間になった。

「らしいですよ。地元の剣道仲間だとか」

「いやあ、なんかいいねえ。でも剣道やめちゃったんだよね」

「みたいです」

「それでも付き合ってるのか。いいねえ」

「三年生の先輩たちは、そういうの、どうなんですか」

「知らん」

 西木さんは天井を見上げた。

「そういうものですか」

「いやまあ、知ってる話もあるよ。けど、ふられた話だなあ」

「え、誰ですか?」

「誰だと思うぅ?」

 そこまで興味がなかったので、考えたふりをして「わかりません」と言った。

「ふふ。ばらすわけにはいかんなあ。岸谷ちゃんは意外とこういう話するのね」

「いや、まあ」

「カルアちゃんは全くしないもんなあ。趣味とかもいまいちわかんないまま」

「そうなんですか?」

「寂しいよねえ」

 犬伏さんと西木さんは何でも話す仲なのかとおもっていた。まあ、犬伏さんがあまり自分のことをはなしたがらないのは知っている。

「今度聞いてみましょうよ」

「おっ、攻勢に出るね。あ、ちなみに妹ちゃんのことは話したことあるよ」

「え、妹居るんですか?」

「それも知らなかったの? なんとね……名前は、ミルクちゃんじゃない」

「……それはそうでしょう」

 西木さんと話しているの方が楽しいのは確かだ。その分身近に感じてしまい、憧れを感じない気もする。

 なんか、僕にとっての犬伏さんがアイドルみたいな気がしてきた。それはなんか、嫌である。

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