3-8

 ついに、沐阳ムウヤンの突進が見られた。相手にタックルされながらも、右手を大きく伸ばしてトライした。

 この時点で、22-22。同点だ。

 犬伏さんのキックで2点追加、逆転を確信したのだが、目の前の光景に僕は目を疑った。キックに向かったのは中谷さんだったのである。

「犬伏さん、まさか怪我……」

「を想定してのことだ」

 龍田監督は、にやりと笑っている。

「怪我した時のため、ですか?」

「一人欠けたら終戦、では寂しいだろう」

 確かに、代わりのキッカーがいないというのは、「ちゃんとしたチーム」にとっては重要なことだ。中学校では、控えの選手なんていないから、犬伏さんの代わりなんて考えたことがなかった。そして、犬伏さんのいない二年間、僕らはキックでどうにかするという考え方自体をしなくなっていた。

 強いチームと接戦を繰り返せば、当然けが人が出てくる。監督としては、「今勝てばいい」ではなく、チームがずっと勝てる状況を模索する必要があるのだろう。

 わかっている。わかってはいるけれど。

 中谷さんの蹴ったボールはふらふらと飛んでいき、ボールの間をくぐらずに落ちた。

 その後、両チーム得点が入らなかった。初めての練習試合は、同点に終わったのだ。



試合終了

総合先端未来創世22-22高奥

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