3-6
「ね、ラグビー面白いでしょ」
「は、はい」
道田さんの言葉に、明らかに冷水さんは戸惑っていた。当然だ。今、トライをしたのは高奥の選手である。
逆転した後、2本続けてトライされた。得点は7-15。8点差以上は「1トライ1ゴールで返せない」とよく言われ、逆転するにはチャンスを複数回作らないといけない。
うちにとってはあまりよくない状況なのである。
「いっぱい得点が入るでしょ。流れもすぐに変わるんだよ」
確かに、試合展開は面白い。ただ、やはり味方が負けている以上僕たちは楽しめるものではない。守備にほころびが見え、このままずるずる行ってしまう可能性もある。
「どうすれば、流れが変わるんですか?」
「私はわかんない。どう、園川?」
「え、俺もわかんない」
僕にもわかる問題点は、沐阳があまり活躍できていないところだ。強く当たる守備はできているのだけれど、なかなか攻めるときにボールが回ってこない。先輩たちは「李がうちに来たのは奇跡」と言っていた。将来の日本代表間違いなしとすら言われている。そんな彼が機能していないとすれば、チームに力がないということにならないだろうか。
もちろん、一人でどうなるものではない。ただ、犬伏さんが一年生の時は、一人の力が大きく波及したのだ。田舎でひっそりラグビーをしていた選手の力が、チームの中で生かされた。
無名だった犬伏さんが大活躍できて、大注目されている沐阳が沈黙している。
「深刻な顔してるね、一年」
今度は道田さんは、僕に話しかけてきた。
「なんか、歯がゆい展開なんで」
「今日は負けるかもね」
「えっ」
「うちは常勝軍団じゃないよ。負けながら学んでくチームじゃないかなあ」
今岡さんだけを見ているのかと思ったら、違った。道田さんは冷静にこの部のことを見てきたのだろう。
負けてもいい、練習試合。それはわかっている。けれども、せっかく勝てるチームに入ったのだから、勝利を味わいたいという気持ちがある。
その後、1つずつトライを奪い合って前半は終了した。
前半終了
総合先端未来創世14-22高奥
「いいぞ、この感じで」
ハーフタイム、戻ってきた選手たちに龍田監督は手を叩く。想定内らしい。
「はい」
犬伏さんにも、焦っている様子はない。西木さんと何やら相談をしている。
「落ち着いてやれば逆転できる。無駄なペナルティはしないように」
龍田監督は怒らないし笑わない。何を考えているのかわかりにくいが、そもそも僕は比較するほかの監督を知らない。監督とはこういうものかなのかもしれない。
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