3-5
親と揉めてまで来た総合先端未来創世高校。犬伏さんと共に戦えなければ、意味がない。ただ、僕が試合の途中で投入される理由などあるだろうか。
相手のキックで再開。味方がキャッチしたボールは、テイラーさんから犬伏さんへと渡る。そして、ついに犬伏さんがキックした。まっすぐに、矢のように飛んだボールは、相手陣奥深くラインぎりぎりまで飛んだ。わざと外に出さなかったのだ。
ボールに相手フルバックが追いついた時、す出に金田さんは目の前に迫っていた。そしてそのまま、ボールを持った相手をラインの外に押し出す。こちらボールのラインアウトだ。
ラグビーはサッカーと違い、外に出たボールはまっすぐに投げ入れる。両軍がまっすぐに同じ人数並ぶ。それだけだとイーブンの状態に思える。しかし投げ入れるときに作戦を叫び、それに合わせて飛んだりしてキャッチしに行くので、マイボールの方が有利である。キックで大きく陣地を稼いだうえに、マイボールラインアウトになったのでかなり得をした。
すごい。やはり犬伏さんは偉大だ。
もちろん金田さんもすごい。正直、気が付いたら敵に迫っていた。目で追えていなかったのだ。
一気に流れを変えた。
マイボールを確保した。そして、モールを組む。スクラムと違って、モールに決まった人数や形はない。人間の塊が、右へ左へと動きながら前進していく。
そのまま、揺れながら進んでいく。ドライビングモール。
トライ。
「今日は、僕が行くんだったね」
犬伏さんがボールを抱えて、キックに向かう。
ついに。
場所は全然よくない。だが、先輩たちは皆安心して、興味すら持っていないのがわかる。
狭い、二本のポール間。そのど真ん中を、楕円球が通過していく。
これだ。完封されないために磨かれた、犬伏さんのキック。時間をかければ、まず外れない。
総合先端未来創世7-3高奥
高奥の選手は、誰も驚いていない。こちらのことをしっかりと予習してきたのがわかる。
ちなみに、うちの一年生たちの方が驚いている。
犬伏さんは、とにかくペナルティキックで得点し完封負けを逃れようとして、キックを磨いた。僕らはそれで得点する喜びを知った。そして犬伏さんは、そのキックで花園にまで行ったのである。
だが、わかったことがある。それだけでは、勝てないのだ。
キックをする時間、キックに追いつける者、キックを生かせる場面。そして、犬伏さんがいないときにもキックを任せられる人。
勝てるチームは、もっと勝つために必要なことを実現するための努力をする。ということなのだろう。
得点の上では逆転したけれど、「勝てそう」かというとそうも思わない。先輩たちが何とかもぎ取ったという感じだ。総合力は高奥の方が上だと思う。
強いチームとどう戦うのか。どうやって勝つのか。それが問われているのだ。
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