3-4
「ああ……」
嘆息したのは僕だけではない。二度目のノックオンだ。
ボールを前に落とすと反則で、相手ボールのスクラムになる。勢いが止まるし、何よりこちらのピンチにつながってしまうかもしれないのが怖い。
フォワードの体重はこちらが重そうなのだけれど、押し勝てている感じはしない。バランスが悪いというか、網目が大きいというか、まとまっていないように見える。
上手く球出しをされて、攻めこまれる。必至に防いでいるが、相手はうまくボールをつないでいる。
なんか、相手の方が強く見える。
部員数が多い。コーチがいい。設備がいい。きっと強い理由なんていくらでもある。でも、負けて納得するなんてことはない。この場で勝つためにできることというのは、何だろうか。
「どう思う?」
ホールさんが尋ねてきた。
「えっ」
「試合展開考えてそうだったから」
「いや、なんとなくです。でもなんか、上手くいってない感じがします」
「そうだね。こういう展開はよくあるから、慣れておかないとね」
メガネをかけたホールさんは、選手っぽく見えない。実際、なかなか体も大きくならず、クラスメイトにはラグビー部員であることをいまだに疑われているという。
「県大会でも、ってことですか?」
「もちろん。まあ、僕には何とかする力はないから。試合に出たいなら、何とか出来る選手になりなよ」
まじまじとホールさんの顔を見てしまった。どうすれば試合に出られるのか、それを先輩に相談したことはない。どこまで見透かしているのだろう。
笛の音が鳴る。こちらのペナルティだ。
ゴール正面。距離も悪くない。蹴られたボールは、きれいにまっすぐ飛んでいった。
0-3。先制された。
「はあ? 何言ってるん」
僕が総合先端未来創世高校に行きたいと伝えた時、母親は心底あきれたような顔をした。
「いや、そこでラグビーを……」
「あんた全然勝ったこともないのに。あと、どこよその高校」
隣県の学校なので、知らなくて当然だ。すごい進学校というわけではないし、野球部がそれほど強くない。母親は甲子園に出たぐらいでないと、県外の高校は知らないのである。
「犬伏先輩が行ってて。一緒にやりたいんだ」
「犬伏さんて2つ上でしょ? 一緒にできても1年じゃない」
「そうなんだけど。それでもどうしてもやりたいんだ」
母親はすぐには納得しなかった。説得は、しばらく続いたのである。
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