高奥学園

3-1

「今日からマネージャーとして入部する一年生の冷水優さんです」

 犬伏さんに紹介されて、冷水さんは深々と頭を下げた。

「よろしくお願いします」

 冷水さんはお辞儀したまま、なかなか顔を上げなかった。上目づかいでちらりとみんなを見て、そして再び地面を見る。

 恥ずかしがってるのかな。

 ここに来る前、「大丈夫かな」としきりに言っていた。多くの人の注目が集まるのは怖いらしい。

「先輩として、道田さんはいろいろ教えてね」

「まっかしといて!」

 仲間ができたので、道田さんはとても嬉しそうである。友達をマネージャーに誘っても「きつそう」「ルール難しそう」「喧嘩に巻き込まれそう」と言われて断られると嘆いていた。

「あ、あのよろしくお願いします。優勝を見届けたいです」

 こうして、後ろの席の冷水さんが入部することになった。



「つぎ、高奥こうおく学園かあ」

 西木さんが、お茶を飲みながらつぶやいた。

 ここは、寮の食堂。特に時間を決めているわけではないが、僕と今岡さんは同じ時間に夕食を採ることが多い。

「昔は強かったですよね」

「岸谷ちゃんは詳しいよね。俺は正直あんま知らないけど、名前は聞いたことある」

 来週の練習試合、相手は隣県の中堅校、高奥学園だった。全国でベスト4にもなったことがあるが、ここ最近は県内でもあまりいい成績を残せていない。ただ、じゃあうちの勝ちが確定しているかというとそうでもない。隣県のレベルが高いのである。

「知らないってことあるんですか?」

「よその情報はなかなかねえ。詳しいのもいるけどね、テイラーちゃんとか」

「そうなんですね」

 西木部長は、他校のことに詳しい、興味があると思っていた。完全な高校ラグビーマニア、有名校ファン、他校には興味ない、そもそもラグビーに興味がない、と部員もさまざまである。

「岸谷ちゃんはいろいろ知ってるね。カルアちゃんとは大違いだ」

「そうなんですか」

「ほとんど知らなかった。まあ、元々ラグビー部に入るつもりもなかったんだけど」

「えっ」

「聞いてない? あのキック力を逃す手はないと思って、俺が誘ったんだよ」

 入部してから一か月ほどがたったけれど、犬伏さんはそういう話を全くしてくれない。人間関係などのプライベートも全くの謎である。

「ミステリアスキャプテン……」

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