2-7
点数すらなかなか入れられない僕ら園山中にとって、全国大会に行くなんて言うのは夢見たこともない目標だった。だから犬伏さんが花園に行けると知ったとき、僕は最初「その意味」がわからなかった。
テレビの中で、躍動する犬伏さん。実況が、キックの威力に驚いて叫び声をあげていた。
弱小校出身でも、あそこに行ける。いや、知ってはいたんだ。高校からラグビーを始める者も多い。なかには、県に1校しかなくて、部員数がそろっただけで全国大会に行けるところまである。だから、「全国に行ける」という事実が重要なのではない。
全国で1勝して、あの東博多から点数も奪った。「全国に通用するチームとして、全国に行った」のだ。しかしもその中で、犬伏さんは重要な役割を担っていた。
夢見てみたい。そう思ってここに来た。
けれども、今はもうわかってしまった。僕は犬伏さんとは違う。
試合が終わっていく。何もできないままに。
先輩たちとのレギュラー争いに勝たなくてはならないのはもちろんだけど、それだけじゃだめだ。部員全員と勝負しなければならない。「チームに必要な人間」として、認められなければならない。
たいしたことはできないままに、試合が終わった。
試合終了
総合先端未来創世61‐5乃小沢
「よくやった」
犬伏さんに、声をかけられた。
「いや、俺……」
「ミスなかったよ。僕なんて、最初は全くついて行けなかったよ。岸谷君は、センスある」
「……レギュラー、とれますか?」
「それはわかんないなあ。けど、焦らない方がいい。みんな、ライバルなだけじゃなくて教材だ。中学校にはなかったものだろ」
やけに落ち着いたことを言う。犬伏さんは、すっかり変わった。みんなのことを信用していなくて、一人で何とかしなくてはいけなくて、寡黙で。そういう先輩は、成長して変わったのだ。僕も、変われるだろうか。
「出番なかった! ひでえ!」
今岡さんが騒いでいる。
「あの人も教材なんですね」
「まあ、うん」
とにかく、高校に入って初めての対外試合が終わった。
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