2-6
ベンチの方を見ると、龍田監督の表情が非常に険しかった。まあ、点を取られたのだから当然だけど。この試合はぜひとも完封したかったのだろう。
もちろんこのチームの実力なら、理解できる目標だ。でもなんか、それでいいのかな、とも思う。
弥生は今、とてもしょんぼりしている。自分のせいで得点された、と思っているはずだ。けれども、抜かせた者全員が悪い。
「取られた分取り返すよー!」
西木部長の声だった。西木さんはいつも明るく振舞っている。同じ県の、強豪校出身。実質この部の中心になっている人。入部するまでは気が付かなかったけど、すごい人なんじゃないか。
なんとなく、まとまりのない部だとは思う。新任監督もまだうまくチームを把握していない感じだし、どういう組み立てで戦っていくのか、僕らには伝わってこない。強豪校に入ったら、もっと何もかもが上手くいっているのだと思っていた。けれども、まったくもって成長段階なのだ。
優勝できるだろうか。圧勝している試合の最中なのに、不安になってきた。僕は、犬伏さんと花園でプレーしたい。できるのだろうか?
「今のは、
急に冷静な顔でよくわからないことを言い出したのは、ホールさんだった。相手は犬伏さんだ。
「梅坂よりもってこと?」
「
新口とは、新口高校のことだ。最近ぐんぐんと力をつけてきたところで、総合先端未来創世は昨年一度普通に負けている。
「急に来られるとお見合いしちゃうところがあるね」
「15番はずっと、動きがよかったです。乃小沢はこれをずっと狙っていたと思います」
「こちらが攻めてばかりだから見えなかった。何か気が付いたらまた教えて」
「はい」
驚いた。犬伏さんの方が、教わる立場なのである。ホールさんは高校に入るまでラグビーはおろか、スポーツの経験もほぼないらしい。今でもレギュラーというわけでもなさそうなのに、なぜか皆一目置いている感じである。
まだまだこの部のことはわからない。いや、ラグビーのことがわかっていないのかもしれない。ホールさんがどんな役割を担っているのか、その謎を解明する必要がありそうだ。
「でかい! ラグビーしよう」
突然そう話しかけてきたのが、犬伏さんだった。
園山中学校は人数も少なく、部活もあまりなかった。ラグビー部があるのか不思議だったが、興味はなかった。
「え、いや……」
「じゃあ、とりあえず試合に居てるだけでいいから!」
半ば強引に、僕はラグビーの試合に出ることになった。ルールもよくわかっていなかったけれど、そんなことはどうでもいいぐらいに完敗した。
「すみません、役に立てなくて」
「いやいや、向いてると思ったよ。ラグビー、楽しくない? 入部してみない?」
なんとなく、だった気がする。入部してもいいかな、と思ったのだ。
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