2-5

後半開始

選手交代

安生(CTB 2)→弥生(CTB 1)


 安生宙羽かなた、二年生。中学生時代から名をはせたセンターで、前評判通り昨年は大活躍した。まっすぐ走っているようでなかなか捕まらない走りは、観ていてうっとりとする。今日も前半2トライを挙げている。ウイングの金田さんとともに、総合先端未来創世の看板選手と言っていいだろう。

 そんな先輩に代わって、弥生が出場する。体は細いし、足は速くないし、普段からそんなにやる気があるようには見えない。中学では一年生でラグビーを辞めたと言っていたけれど、試合に出たことがないということで相当早い時期に辞めたのではないか。

 いまだに経験者ということを知らない部員もいるだろう。それでも監督は、弥生に出番を与えた。あの、安生さんに代わって。

 強豪校は選手交代の仕方もうまい。そして、控えの層が厚い。2軍があったりもする。

 僕も弥生も、「どこまで使えるか」が試されている。うちのチームが、強豪校であるために。

「俺も出たいー」

 善導が駄々をこねているけれど、彼の場合試さなくても大丈夫と思われているのだ。試すとしたら、もっと強い相手の時だろう。彼もそれはわかっているだろうが、とにかく出たいのだと思う。

「初めての試合は檸檬の味だぜえ」

 妙なことを言いながら弥生がフィールドに入っていく。

「苦みが出てくるから噛みしめるんだぞ、弥生ちゃん」

 西本さんがそんな彼の背中をたたいた。部長はいつでも明るい。



 後半、試合の展開が全く変わった。いや、テイラーさんと犬伏さんがそういう風にコントロールしているのだ。僕や弥生によくボールが回ってくる。

 リズムが悪くなっている。攻めが単調になり、相手に受け止められることが多い。向こうは交代もなく疲れているはずなのに、まだまだばててはいないようだった。

 中学時代の僕らとは違う。乃小沢高校のメンバーはしっかりと練習して、試合に備えている。基礎的なことはできているのだ。助っ人を頼んだり、幽霊部員を引っ張り出したりはしていないだろう。

 侮っていた。

 犬伏さんの規格外のキックで何とか点を取ろうとしていた僕らとは、根本的に違うのだ。当たって、走って、守って。そして、トライを目指している。

 ボールを手にした乃小沢15番のフルバックが、抜け出した。こちらの守備をかいくぐって、ゴールラインに迫る。目の前には、弥生。

「やっべ」弥生は低く、しっかりとタックルする。15番は、右にずれながら弥生を引きずるようにして手を伸ばした。

 ボールが、ラインの向こうに押さえつけられる。トライだ。

 敵なのに、なんかうれしくなってしまった。それを悟られないように、しばらく下を向いていた。


途中経過

総合先端未来創世59‐5乃小沢

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る