2-4

途中交代

此村(PR 2)→岸谷(PR 1)


 前半残り5分。この時間から試合に入るというのは初めてだ。そもそも、途中出場自体が初めてかもしれない。

 勝敗はほぼ決まっている。これは、「査定」だと思う。善導の実力はすでに、多くの人々が知っている。だが僕は、謎の県外最弱校出身者だ。監督にも「園山中ってどこ?」と聞かれた。

 此村さんはギガンテスクラブの出身で、沐阳の先輩である。この前の歓迎試合の時もそうだったけれど、やはり阿吽の呼吸というのがあるのだろう、二人のコンビネーションはいい。

 江里口さんは絶対的なレギュラーだろう。今後試合に出るためには、此村さんに勝たないといけない。

 だが、ボールが回ってくることなく、今度はフランカーの西木さんが駆け抜けていった。これでは実力を見せる機会がない。

 前半は残り一分。ボールをキャッチしたのはスタンドオフの犬伏さんだった。



 「岸谷、走って」

 「えっ」

 犬伏さんはしばらく前に進んだ後、ボールをまっすぐに蹴った。矢のように、低い弾道で相手の間を抜けていく。あれに追いつけば、トライだろう。僕は言われたとおりに走った。

 あと少しで手が届く、というところで相手に取られてしまった。蹴り出されて、笛が鳴る。

 


前半終了

総合先端未来創世47-0乃小沢



「惜しかった」

 犬伏さんが、僕の肩を叩く。

 やはり、あえてチャンスをくれたのだ。犬伏さんは本来、取れないところに蹴る人ではない。つまり、あれが取れるようにならないといけない。

「頑張ります」

 いや、そもそも。中学の時の犬伏さんは、誰かを信じて蹴るなんてことはしなかった。僕らはあまりにも頼りなくて、委ねられる場面なんてなかったのだ。

 高校の二年間で、犬伏さんはとても高いレベルまで成長している。全国で戦うためのチームの一員になっている。だから僕は、あのボールに追いつかないと、同じチームの一員になれない。犬伏さん共に戦うことはできないのだ。

 惜しかった、では終われない。

 

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