2-3

 相手ボールのキックオフ。すぐにこちらが奪って、順調に攻め始めた。

 やっぱり、中学のことを思い出す。

 ラグビーは実力差が出やすい。頑張っただけではどうにもならない。

 だけどなんか、乃小沢のみんなは楽しそうだった。そうだ、試合できるだけで幸せなんだ。

 まあそれはともかくとして。外から見る沐阳ムウヤンはすごかった。テクニックはもちろん、まっすぐに突進する力もある。さすが「全国が欲しがった男」だ。あの東博多からもお誘いがあったとか。

 去年までの総合先端未来創世は、どちらかというとバックスのチームだった。金田さん、安生さんという抜群に走れる二人と、犬伏さんという規格外のキックを持つスタンドオフ。そこで何とかする試合が、僕の知る限り多かった。

 フォワードは、宮理や梅坂学院に分がある。今年もきっと、補強しているだろう。

 沐阳は総合先端未来創世のフォワードの力を押し上げてくれる。そういう希望を持てる奴だ。

 とはいえ、僕にとっては「始まりの」チームでもある。この中でどういう役割を担うか。どうすれば先発に選ばれるのか。

 順調に得点を重ねていく。力の差は歴然としている。でも。

 こういうときに、弱者が何を狙うのか、僕は知っている。

 弱いけど、乃小沢はいいチームだ。決して投げやりにならず、最善を尽くそうとしている。そして彼らの目的は多分、「得点」だ。

 1点でも取りたい。ラグビーに1点はないけれど、気持ち的には1点でも入るならばほしいだろう。

「どうすればいいかな」

「ん、全部うまくいってるじゃない」

 僕のつぶやきに、善導が首をかしげた。

「あ、いや」

 僕は、乃小沢視点で考えていたのだ。染みついた「弱者の思考」はなかなか拭い去れるものではない。

 乃小沢のメンバーは体も小さいし、あたりも弱い。ただ、何人かの選手はよく走る。バックスに渡ると、結構前進できることがある。

 こちらの守備を抜けるまでできれば、1トライは可能かもしれない。ただ、それは果てしなく遠い道のりだ。

 金田さんが、駆け抜けていった。点数は、こちらにばかり入る。

 試合ができるだけでもうれしかった中学生の時を思い出して、複雑な気分になる。相手チームはどう感じていたんだろうか。100点を目指していたのだろうか。手加減していたのだろうか。コンディションの確認を重視していたのだろうか。

「岸谷、準備しておけ」

 監督の声だった。


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