乃小沢高校
2-1
「弥生ってラグビー部なんだ。確かににごついもんね」
「まあね」
「ラグビーってあれでしょ、何だっけ、何とか丸ポーズ! あれやる?」
「俺はキッカーじゃないからしないかな」
「じゃ何なの?」
「センター。むっちゃ走るとこ。今度見に来てよ」
弥生がクラスメイトの女の子と楽しそうに話している。ああ、そっちだったか、と思いながらぼんやり眺めている。中学の時から、僕はまず女の子に話しかけられなかった。「そういうオーラ」を出しているそうだ。「陰気な人は、でかいとさらに陰気に見える」と言われたことがある。僕は自分が陰気だとも思わないけれど。
しかも、クラスには同じ中学校の出身者がいない。元々友達だった人たちのグループは、先行して学校生活を楽しんでいるように感じる。こうなると部活だけが生きがいだ。
「そういえば岸谷もラグビーでしょ?」
突然クラスメイトがこちらを向く。
「そ、そうだけど」
「ぽーい」
そう言うとクライメイトは前を向く。
僕のことはどうでもよさそうだ。
「ね、岸谷君」
今度は後ろから声をかけられる。
「え、何、
後ろの席の冷水さんは、とても地味で大人しくて、その存在も時に忘れてしまう。
「ラグビー部なんだ」
「そうだけど」
「強い?」
「え? 一昨年全国大会行ったよ。あと、去年も七人制ってので県代表になった」
「すごい。ラグビーかあ」
「どうしたの」
「お父さんに、全国大会に行くような強い部活に入れって。でも私頑張るの苦手だし、競争心ないし、どこかの部のマネージャーがいいかなって」
「ラグビー部の?」
「ちょっと考えてみようかな」
冷水さんは勝手に文芸部とか野鳥研究部が似合いそうだと思っていた。もちろんうちのマネージャーになるのは大歓迎でもあるのだけど、「解釈違い」でもある。
「ぜひ考えてみてね」
後ろの席の女の子が部にいるのは気まずいかもしれないなあ、と僕は考えていた。
「なんかいつもより人多くね?」
一番最後にやって来て今岡さんはそう言った。観客のことのようだが、僕には普段がどれぐらいなのかわからなかった。
「俺のこと見に来たのかもねえ」
「それはない」
突っ込んだのは江里口さんだ。二人は同じクラブ出身で、しょっちゅうこういう掛け合いをしている。
「いやでも女の子もいるじゃん。俺のファンだって」
「馬鹿なこと言ってないで早く準備して廉次!」
そして、今岡さんを引っ張っていったマネージャーの道田さんは今岡さんの幼馴染らしい。
フェンスの向こうには確かに、何人かの人々がいる。練習試合なのに、どこから情報を仕入れてきたのだろうか。中にはうちの制服を着た人もいる。部員の友達や彼女なのかもしれない。
「あれ」
その中に、見覚えのある顔があった。地味でうつむきがちで、とても部活の観戦に来ないタイプに見える子。
冷水さんだ。
「岸谷も気付いたか」
そう言いながら肩を組んできたのは弥生である。
「冷水さんのこと?」
「そうだ。俺のことを見に来たに違いない」
全くみんなポジティブだなあ。
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